第31話 砲王の提案⑤
葉巻を味わうブラハは大きく息を吐く。
先ほどまでとは雰囲気が異なり、知的な落ち着きが前面に見えた。
彼は珍しく語調を落として俺に問う。
「お前さんのことだ。わしの役目も既に決めているのだろう? 何を望んでいる」
「樹海の戦力には、傭兵団への設備提供と各国への牽制を引き続き任せたい」
「それだけでいいのか?」
「今の段階ではな。俺達は現代の戦争を間借りする身だ。介入の仕方は考えなくてはいけない」
その気になれば大陸全土の支配も可能だった。
故に力の加減を誤ってはいけない。
各々の目的を遂げるためにも、大戦を破綻させるような真似は控えるべきなのだ。
俺は前々から決めていた方針を述べる。
「傭兵団の立ち位置は基本的に中立だ。戦場ごとに陣営を変えていく」
「その名の通り、雇われの戦闘集団というわけか」
俺は首肯する。
どこの派閥にも所属しない。
大戦時はそれぞれの身分や立場があったが、もはや意味を為さないものだ。
「国のために戦うのではない。英雄は己のために死に場所を求める。一騎当千で命が朽ちるまで戦い続けるんだ」
「がっはっはっは! それはまた迷惑な集団だな! お前さん、地獄に落ちるぞ!」
「……否定できない」
自嘲気味に笑いつつ、改めて自分の所業を振り返る。
迷惑であるのは間違いない。
本来、俺達はとっくに死んでいる存在なのだ。
五十年後に突如として復活し、こうして活動しているのがおかしい。
現代の人々はさぞ困惑していることだろう。
そこまで理解した上で俺は言葉を続ける。
「所詮、俺達は死にぞこないだ。時代に馴染めず、こうして新たな戦争に身を投じている。迷惑は承知で楽しもうじゃないか」
「いい心がけだ! さすがは"万能の錬金術師"だな!」
ブラハは喜び勇んで賛同する。
そんな彼がふと真面目な表情になった。
どうかしたのだろうか。
切り替えが些か急ではあるものの、彼の表情から覚悟が感じられる。
前々から心に決めていたことを打ち明けるような……そういった気概があった。
葉巻の火を押し消したブラハは、姿勢を正して話を切り出す。
「ところでお前さんに頼みたいことがあるのだが……」
「珍しいな。遠慮なく言ってくれ」
「ある英雄を優先して蘇らせてほしい。おそらくお前さんが接触している男だ」
そう言ってブラハは頭を下げた。




