第30話 砲王の提案④
ブラハが防護服を漁って葉巻を取り出した。
着火装置を弄りつつ、彼は俺に言う。
「すまないが、部屋の魔力濃度を下げてくれるか。一服したい」
「分かった」
室内を結界で隔離し、空気中に含まれる多量の魔力を吸収していく。
これで無害な環境になったはずだ。
ブラハは肉体的には常人なので、魔力汚染に身を晒すことができないのである。
平然と行動できる俺やユエルが異常なのだ。
魔力を急速に取り込んだことで、俺の肉体は一気に若返る。
おそらく十代後半ほどまで戻ってしまった。
老いたままでいるはずが、まだ制御が完璧ではないようだ。
五十年程度では未熟ということだろう。
俺の若返りを見たブラハは、少し羨ましそうに言う。
「便利な体質だな。本来はわしよりも遥かに爺だというのに」
「目的のために必須の技能だった。これがなければ老衰でとっくに死んでいる」
仮に戦争の再発が百年後であれば、さらに別の延命手段を考えねばならなかっただろう。
無難に考えるなら、ミザリアのように不死者となるのが一番か。
別に人間であることにこだわりはないので、それが最も手っ取り早く確実だと思う。
ブラハは防護服を脱いで髪を掻き上げた。
そして嬉しそうに葉巻をくわえて火を点ける。
紫煙を吐き出して目を細める姿からは、とても戦争狂の一面は感じられない。
執着する部分を除くと、ただの気の良い男なのだ。
暫しの沈黙を挟み、俺は話題を本来の道へと修正する。
「英雄は状況に応じて選定して蘇らせる。お前にもその旨を伝えたはずだが」
「記憶にない!」
「だろうな。聞き流されているとは思っていた」
その辺りの期待はブラハにしておらず、何度でも説明するつもりだった。
俺は表情を変えずに現在の方針を述べる。
「拠点には俺以外にもミザリアとユエルとシュアがいる。今すぐに戦力がほしいわけでもない。余計な混乱を避ける意味でも、追加の英雄は逐一の呼び出しでいい」
「随分と慎重だな! もっと派手にやってもいいんだぞ!?」
「その結果がお前だからな。慎重にもなるだろう」
嫌味をぶつけたというのに、ブラハは愉快そうに大笑いする。
この程度で腹を立てるほど器の狭い男ではないのだ。
そもそもブラハに怒りという感情が存在するのか疑問であった。
なんでも笑い飛ばす印象が強く、それが彼の人間的な魅力なのだろう。




