第29話 砲王の提案③
翌日、俺達はブラハと共に拠点へと戻る。
シュアの修理と強化が終わったので防衛設備の設置を開始したのだ。
樹海で量産された木造ゴーレムが物資を運搬していく。
いちいち移動するのが面倒なので事前に転移門を構築しており、それによって拠点と樹海を一瞬で行き来できるようになっていた。
転移門には俺の錬金術とブラハの技術力が関わっている。
自在に行き先を変えられる代物ではないが、こういった時には非常に便利だ。
ただ、乱用するとブラハの殲滅兵器が拠点に流れてきそうなので普段は封印しておこうと思う。
設備の運搬と設置はその日のうちに終わった。
現在の都市内には、防衛用の高度な結界や認識阻害の発生装置が巧妙に隠されている。
よほど注意して観察するか、卓越した魔力感知ができなければまず見つけられない。
廃都市の面影はなく、世界有数の要塞が出来上がっていた。
(傭兵団の拠点としては贅沢なくらいだ)
中央部の城の一室で、俺は酒を飲みながら考える。
今は老人の姿なのでグラスを持つ手は皺だらけである。
魔力汚染の進んだこの地では、油断すると勝手に若返ってしまう。
別にそれでも困りはしないのだが、制御するのも鍛練の一環だ。
己の力に慢心せず、俺は進み続けねばならない。
都市を一望できるバルコニーにはブラハが立っていた。
彼は全身を薄い膜のような服で包み込み、背中には金属の箱を背負っている。
顔の部分だけがガラスのような材質になっており、表情が窺えるようになっていた。
なんでも魔力濃度を調整する防護服らしい。
今回、ブラハが拠点を訪れたのはその性能を確かめるためでもあった。
相変わらずの発明気質である。
眼下の光景を見下ろすブラハは楽しげに叫ぶ。
「なかなか良い拠点だな! 樹海がなければ移住したいくらいだ!」
「そんなに樹海を気に入ったのか」
「あれだけ兵器開発に適した場所は珍しい! 五十年前の時点で目を付けていなかったのが惜しいくらいだぞ!」
大戦当時、ブラハは既に立派な工房を所有していた。
樹海は活動域から大きく外れており、移住の必要性が薄かったのだ。
それを抜きにしても、この男は興味関心の幅が極端であった。
戦争に没入するくせに各国の状況や力関係についてあまりにも無知なのだ。
自身の兵器で戦えればそれで満足できる上、相手を見て攻撃を仕掛けるか判断するほど理性的ではない。
樹海のことも当時はほとんど知らなかったに違いない。
もしブラハに戦略的な目があれば、当時の勢力図は塗り変えられていただろう。
丸ごと消し飛ばされた国もあったかもしれない。
そういう意味では、彼が眼前の戦争ばかりに夢中で良かったと思う。
こちらを振り向いたブラハは尋ねる。
「これからどうするんだ? どこかの国に喧嘩でも売るのか」
「いや、何もしない。いずれ向こうから接触があるはずだ。それまでは活動を控えておきたい」
「消極的だな。そんなことで英雄の無念を晴らせるのか」
「流れは考えている。今のところは順調だ」
俺が冷静に応じると、ブラハは少し不満げな顔をした。
部屋に戻ってきた彼は、向かい側の椅子に座りながら提案する。
「眠っている英雄をまとめて起こさないのか。いちいち呼び出すのも手間だろう」
「それをすると混乱を招く。英雄とは名ばかりで、かなりの問題人物も多いからな」
「がはははははは! 辛辣な意見だな! お前さんにそこまで言われる奴を見てみたいものだ!」
ブラハが大笑いする。
その問題人物の代表格が自分だとは気付いていないらしい。
俺は指摘したくなったが、あえて口を噤んだ。




