第28話 砲王の提案②
ブラハはシュアの各部を分解し、破損個所を的確に直していく。
その手際の良さは普段の言動からは想像も付かないほどだ。
繊細とも感じるような動きで修理を進めている。
過程を見守る俺は素直に感心した。
(明日には……いや、半日で終わりそうだな)
さすがは十日間で樹海を制した男である。
彼が天才と呼ばれる所以は、その圧倒的な速度も大きい。
豊富な知識と経験を活かした作業効率は他者の追随を決して許さない。
俺も錬金術師として多様な学問を習ってきたが、ブラハと同じことはできないだろう。
きっと世界中を見渡しても皆無のはずだ。
金属部品を組み立てるブラハに俺は問いかける。
「現状で樹海を狙う勢力はいないのか」
「毎日のようにやってくるが迎撃しているぞ! 軟弱すぎて退屈しているくらいだ! 五十年前のような英雄がいればいいのだが……」
悲しそうにぼやくブラハだったが、その手がふと止まる。
なんだか嫌な予感がした。
それを証明するかのように立ち上がったブラハは、興奮した様子で俺を指差す。
「そうだ! お前さんが樹海に侵攻してくれ! わしの全戦力で歓迎してやろう!」
「そんな暇はない」
「ううぬ……ならばミザリアはどうだ!? ユエル嬢でもいいぞ!」
ブラハは諦めずに指名する。
なんとしても戦争がしたいらしい。
俺はミザリアとユエルに視線を向けた。
「どうする」
「願い下げだね。あたしの三屍神が穢れそうだ」
「私もお断りします。アッシュ様からご褒美がもらえるのでしたら話は別ですが」
「ご褒美はない」
「では絶対にやりません」
二人とも参加する気はないようだ。
当たり前の反応だというのに、ブラハは露骨に肩を落とす。
俺達が承諾するとでも思ったのだろうか。
彼は悔しそうに床を叩く。
「ううむ……張り合いのある戦争がしたい! アッシュ、お前さんの錬金術でどこかの軍隊を強化してこい! そして樹海を攻撃するようにけしかけろ!」
「滅茶を言うな」
アッシュに道徳や倫理を求めるのは間違っているが、それにしても常識から外れすぎている。
変わり者が多い英雄の中でも、彼は特に飛び抜けた一面を持っていた。
放っておくと本当に世界が滅びかねない。
この話題を続けると危ない方向へしか進まないので、俺はもう一つの本題を切り出す。
「ところで拠点の防衛設備を整えたいのだが何か良いものはないか」
「おう、わしに任せておけ! 完璧なやつを準備しよう! 何か要望はあるか!」
「攻撃能力はそこまで必要ない。現代の軍隊が簡単に突破できない防御能力があれば十分だ」
「それだけでいいのか!? もっと強力な拠点にできるぞ!」
「過剰な設備は無駄に敵愾心を煽る。体裁を保てる程度でいい」
俺はしっかりと念押ししておく。
張り切ったブラハが余計な兵器を配置しようとする未来が目に見えていたからだ。
彼の動向は常に監視しておかねばならないようだった。
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