第25話 傭兵団の拠点⑦
静観していたユエルが歩み、ゴーレムの前に屈む。
柔和な微笑みは聖女のそれであった。
見る者の心を奪うような魅力を振り撒いている。
彼女の本性を知らなければ虜になってもおかしくないだろう。
そんなユエルは落ち着いた声音で問いかける。
「守護ゴーレムさん。あなたの名前を教えてくださりますか?」
「我は……シュア」
「ではシュアさん。あなたの望みは何でしょうか」
「――大切な人を、守って死にたい」
掠れた音声が紡いだのは、ただ一つの確かな願いだった。
ユエルは笑みを深めて頷く。
「なるほど。ではまず大切な人を見つけることからですわね」
そう言って彼女は俺を見た。
ここから先は任せる、ということらしい。
俺はシュアの前に立って端的に告げる。
「守るべき主を俺達と一緒に探さないか」
シュアが顔を上げた。
人間と違って表情など分からないが、先ほどまでと明確に雰囲気が違う。
縋る者を探している者がそこにいた。
「俺達は傭兵団だ。お前にはその一員になってもらいたい。活動の過程で、己の命を賭す値する存在を見つければいい」
「…………」
黙り込んだシュアは、俺の言葉を反芻しているようだ。
己がどうすべきかを考えている。
「この都市を拠点にしたいが構わないな?」
「……要請、承諾。敗者に拒否権、なし」
「そうか」
俺は廃墟を出る。
これ以上のやり取りは不要だ。
シュアは複雑な心境を抱えており、それを整理する時間を取るべきである。
廃墟にはユエルも待機しているのできっと大丈夫だろう。
俺よりもよほど上手く親身に接することができるに違いない。
寂れた通りを歩いていると、隣に並ぶ人影があった。
ミザリアだ。
魂の一部を交換したことで生じる幻影なので、俺から離れることができないのである。
彼女は前を向いたまま話を切り出す。
「やっぱり仲間にするんだね」
「シュアも死に場所を探す戦士だ。放ってはおけない」
あのゴーレムも英雄の一人である。
この地で敗北し、使命を挫かれた者なのだ。
戦争では珍しくないことだが、シュアはそこから執念深かった。
己を騙してまで意志を貫き、数十年後の現代でも守護の任を遂行している。
誰も訪れない不毛の地で、やがて朽ち果てるであろう運命も厭わずに待っていた。
見上げた忠誠心だ。
それがこのまま潰えてしまうのは、あまりにも惨い。
未練多き英雄を踏み躙るなど、俺にはとてもできなかった。




