第24話 傭兵団の拠点⑥
その後、俺達は都市内の廃墟内に移動した。
破れた絨毯の上には守護ゴーレムが横たわっている。
しばらく眺めていると、頭部の魔力の光が灯った。
ゴーレムはゆっくりと動き出す。
「おう、起きたか」
「記録紛失……修復、失敗」
周囲を見回すゴーレムは困惑しているようだ。
やがて俺で視線を止めて、おもむろに手のひらを向けてくる。
「侵入者を、排除」
「待て、動くな。戦うつもりはない」
俺は両手を上げて伝える。
敵意の有無を確かめたのか、ゴーレムは熱線を放とうとしない。
しかし腕を下ろそうともしなかった。
まだ完全には信用されていないらしい。
「せっかく修理したんだ。暴れるとまた壊れるぞ」
忠告しつつ、俺はゴーレムを指差す。
先ほどの戦闘で破損した箇所が真新しくなっていた。
それを察したゴーレムが不思議そうに己を見る。
「部品換装を、確認……」
「ありあわせの部品と、錬金術での応急処置だがな。だから暴れないでくれ」
自爆未遂後、俺はゴーレムに手を加えた。
あのままでは取り返しのつかない状態になりかねなかったからだ。
ミザリアとユエルにも協力してもらうことで、ひとまず再起動に至るまでは復旧できた。
もっとも、戦闘をこなせるほどの状態ではない。
そんなことをすれば、負担に耐え切れず自壊するだろう。
だから熱線の発射を止めたのだ。
立ち上がったゴーレムは廃墟の出入り口へと歩き出す。
俺はその場から動かずに声をかけた。
「おい。どこへ行くつもりだ」
「王を守護……命令、絶対……」
ゴーレムは唸るように言う。
後ろ姿からもはっきりと感じられるほどの執心が窺えた。
そんなゴーレムにミザリアが宣告する。
「王はもういないよ。あんたの役目はとっくに失われている」
足を止めたゴーレムは、勢いよく首を回してミザリアを凝視する。
ゴーレムは特殊な感知機構を搭載しているため、魂の輪郭を捕捉できるのだ。
きっと俺の一部となったミザリアを知覚したのだろう。
彼女の発言……正確には意思を読み取ったはずだ。
腕を組むミザリアは冷淡に言い放つ。
「あんたの守ってるこの国は何十年も前に滅亡して、王族だって処刑されちまった。気付いていないわけがない。気付かないふりをしていたんだろう?」
「命令は、絶対……」
「必死に自己催眠かい。義理堅いゴーレムだねえ」
ミザリアの言葉には皮肉と憐憫が含まれていた。
俺も概ね似たような心境だ。
大戦時、ゴーレムは城の防衛を任された。
そして今も王の帰還を待っている。
誰もいなくなった廃都市で、苔と蔦に覆われながらも守っていたのだ。
(だが、このゴーレムは主を守り損ねた。理解しながらも目を背けて、命令という存在意義に縋っているんだ)
己を保つためには、そうして逃避しなくてはいけなかったのだろう。
自我を持っているが故の苦痛だ。
ミザリアの辛辣な指摘に対し、ゴーレムは動くこともできずに佇んでいた。




