第23話 傭兵団の拠点⑤
ゴーレムの持つ無刃剣に異変が生じる。
刃が形を失って魔力の奔流と化し、所持していたゴーレムを呑み込んで焼き潰そうとしていた。
小さな爆発が連鎖して金属の身体を破損させていく。
無刃剣には構造的に不可能な質量の魔力を蓄積させていた。
俺だからこそ制御できていたので、手放せばすぐに暴走する。
投擲に使ったのはそれを狙ってのことだ。
ゴーレムは無刃剣から溢れる魔力を瞬時に吸収し、なんとか暴走を抑え込む。
しかし膝をついて機能不全を起こした。
無理な制御をしたせいだ。
人間ほどではないにしろ、ゴーレムでも負荷は大きいだろう。
「魔力過多……内部機構、損傷……」
ゴーレムは無刃剣の柄を投げ捨てると、両手を俺に向けてくる。
俺は構わず接近した。
至近距離からの熱線を手のひらで防ぎつつ、地形操作を発動させる。
石畳が杭のように突き出し、ゴーレムの顎を直撃した。
この程度では装甲を貫けないが、体勢を崩すだけの威力はある。
俺は仰け反ったゴーレムに手を伸ばす。
「王を、守護……」
呟いたゴーレムが鋭い蹴りを放つ。
金属の爪先が俺の前腕に直撃し、あっけなく骨をへし折った。
さらに千切り飛ばしそうな勢いである。
俺は気にせず踏み込み、半壊した手でゴーレムの首を掴む。
そのまま魔力の吸収を始めた。
さらに外部からの供給を遮断し、抵抗の隙を与えずに無力化へと持ち込む。
光を明滅させながら、ゴーレムが弱々しい音声を発する。
「機能停止、寸前……自爆機構、発動」
ゴーレムの持つ残り少ない魔力が急激に膨張する。
もはや反撃できないと悟り、自爆するつもりらしい。
この感じだと廃都市をまとめて消し飛ばすだけの威力にはなりそうだ。
もっとも、慌てることはない。
俺は落ち着いてゴーレムに告げる。
「そういう兵士は、何度も見てきたんだ」
膨張する魔力を制御し、鎮めたところでさらに吸い尽くす。
自爆を封じ込める手段は大戦時に学んでいた。
これくらいの悪あがきなど妨害にもなり得ない。
「……王を、しゅ…………ご……」
魔力が枯渇したゴーレムにはついに動かなくなる。
俺は機能停止を確かめてから顔を上げる。
ミザリアとユエルはかなり離れた場所にいた。
自爆を察知して逃げ出していたらしい。
なんとも行動が早いことだ。
それにしてもユエルはともかく、ミザリアは幻影なのだから退避する意味はないだろう。
思わず指摘したくなったが、意味のないことなので流すことにした。




