第22話 傭兵団の拠点④
蹴られた俺は宙を舞う。
半回転した末、ユエルのそばに落下した。
激しく吐血しながら立ち上がると、ユエルが慌てて駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫ですか!?」
「平気さ。内臓がいくつか破裂しただけだ」
俺は口から垂れる血反吐を拭って応じる。
喋っているうちに苦痛も薄れてきた。
再生能力のおかげだ。
これがなければ既に行動不能に陥っていた。
呼吸を整えていると、ミザリアから小言が投げかけられる。
「情けないねえ。下手な剣術で挑むんじゃないよ」
「そう言わないでくれ。自信はあったんだ」
俺は無刃剣を持ち直す。
ゴーレムはこちらを注視したまま動かない。
ここまでの戦闘から次の行動を演算しているのかもしれない。
咄嗟の判断能力の高さから、優れた自我を持っているのは明白だった。
ユエルが俺に申し訳なさそうに謝ってくる。
「すみません、私の共鳴が中途半端だったせいで……」
「いや、ユエルは悪くない。あのゴーレムの性能は異常だ。俺達の知識が通用しない節がある。何十年も魔力汚染に晒されたせいで、予測不可能な力を獲得しているようだ」
ほぼ無限とも言える魔力量を誇る相手に、一瞬でも能力が通用する時点で上出来と言えよう。
決して中途半端ではなく、能力が効くと判明したことが収穫である。
俺の負傷などすぐに治るのだから、損なんて皆無に等しい。
(ユエルの共鳴では決定力に欠ける。やはり俺が仕留めるべきだな)
戦いの分析をしていると、ミザリアが意見を挟んできた。
「何を悩んでいるんだい。あんたが本気なら一瞬で破壊できるだろう。さっさと終わらせちまいな」
「あのゴーレムは破壊しない。無力化に留める」
俺の意見を聞いたミザリアは怪訝そうな顔をした。
彼女は面倒そうに問い直す。
「なんだって?」
「ここは俺に任せてくれ。責任は取る」
詳しいことは言わず、俺は再び疾走する。
ゴーレムはこちらの動きに合わせて熱線を同時に発射した。
計十本の熱線が不規則な軌道で次々と殺到する。
防御や回避を困難にしてきたようだ。
俺は地形操作を発動し、左右に並ぶ建物を無理やり引き伸ばす。
それらを熱線を遮る盾にしつつ、脇道へと駆け込んでゴーレムの視界から消えた。
しかし建物を貫通した熱線は、大地を削りながら曲がって俺へと迫る。
(なるほど、追尾式か)
この程度のやり方では凌げないらしい。
飛んできた熱線を俺は身体で受けて、命中箇所に軽い火傷を負う。
魔力の分析がほぼ終了し、熱線はもはや俺の命を脅かす攻撃ではなくなった。
これでようやく戦況を掴むことができる。
物陰から飛び出した俺は、ゴーレムの斜め後ろから跳びかかった。
「相手が悪かったな」
そう言って無刃剣を投擲する。
ゴーレムは首を回転させて投擲を目視すると、またも手で挟んで止めた。
膨大な魔力を帯びた切っ先は届いていない。
凄まじい反応速度だ。
体術の練度の高さが窺える。
もっとも、ここまでは予測の範疇だ。
"万能の錬金術師"の実力を見せてやろう。




