第20話 傭兵団の拠点②
最初、それが何なのか分からなかった。
朽ちかけた城への道を塞ぐように、暗い緑色の塊が鎮座している。
立ち止まって注視した俺は、石像が置かれているのだと思った。
それはちょうど人間ほどの大きさで、全体が苔に覆われている。
蔦も絡み付いており、元の形状は定かではない。
道の真ん中という不自然な位置を除けば、何の変哲もない石像である。
勘違いに気付いたのは、その物体から規則的な魔力の波を感じた時だ。
微かな軋みと共に苔や蔦が剥がれ落ちて、徐々に形状が変わっていく。
それは屈んだ姿勢から立ち上がり、俺達の前に堂々と立ちはだかってみせる。
「この反応は……」
駆動音を鳴らす物体は明らかに人型であった。
内側が仄かに発光し、巡る魔力が形を帯びていく。
こちらに向けられた視線も感じた。
ユエルは冷静に分析する。
「あれはゴーレムですわね。かなり古い型のようですが」
「そうだな。前の大戦……いや、基礎の構造はさらに昔だろう」
ゴーレムとは魔術生物の一種である。
岩や金属や樹木で身体を作り、そこに術式を施して完成させる。
性能は千差万別で、製造過程によって大きく異なる。
簡単な命令を繰り返すものから自我を宿すものまで、術者の力量と用途でいくらでも変わるのがゴーレムなのだ。
ミザリアが何かを思い出したらしく、感心した様子で手を打つ。
「青炎国の守護ゴーレムだ。七十年以上も前の骨董品だよ。まさか国が滅んだ後も残っていたなんてね」
「……しかもまだ動けるようだぞ」
ゴーレムはゆっくりと前に進む。
今にも壊れそうな外見とは裏腹に、内包する魔力はあまりにも膨大であった。
魔力汚染に適合し、本来の性能から逸脱した力を得ているようだ。
やがてゴーレムから掠れた音声が発せられる。
「侵入者を、発見……排除、する」
ゴーレムの右手から熱線が放たれた。
熱線は一瞬で俺の身体を斜めに焼き切る。
俺は膝をついて吐血する。
ユエルが泣きそうな顔で叫んだ。
「アッシュ様っ!?」
「狼狽えるな。俺は大丈夫だ」
手で制しつつ、俺は肉体の再生を始めた。
内臓がこぼれ出す前に傷を塞いで全快する。
ここは潤沢な魔力があるため、いくらでも回復が可能だった。
俺はゴーレムを一瞥する。
(とんでもない威力だな。魔力吸収が追いつかないとは)
制御を阻害する魔力汚染という環境下とは言え、対処に失敗するとは思わなかった。
あの熱戦は見た目以上に厄介だ。
大規模殲滅を目的とした禁術を極限まで圧縮したような破壊力である。
本来はすべての力を解放して発動する一度きりの技なのだろう。
それが魔力汚染の影響で撃ち放題になっている。
様々な要因が重なり合った結果、ゴーレムの実力は反則的な領域まで昇華していた。




