第18話 傭兵団
同行者の二人が険悪なのは面倒だ。
なんとか解決したいという考えから、俺は間に立つ者として意見を述べる。
「……もっと仲良くしてくれると助かるんだがな」
「邪悪な死霊術師に心を許すなんて、倫理への冒涜ですわ」
「あたしだって舌を噛み切りたくなっちまうよ」
なんとも頼もしい答えが返ってきた。
どうやら仲裁するのは困難らしい。
英雄という生き物は基本的に我が強いのだ。
ミザリアもユエルも例に漏れず、確固たる考えを持っている。
遠慮のない言動が関係悪化の一因となっているが、きっと本人達は気にも留めていない。
結局、俺は二人の仲の修復を諦めることにした。
「もういい、分かった。歩きながら今後の動きについて説明するぞ」
俺は咳払いをする。
それから声量を落として切り出した。
「まず、俺達が監視されていることは知っているな」
「当然ですわ。ずっと視線を感じますもの」
「向こうは魔導器で気配を遮断しているつもりのようだがね。あたし達を欺こうなんざ百年早いよ」
系統は違うものの、俺達は魔術師だ。
それも使い手としては最高峰と言えるだけの領域に達している。
なので尾行してくる人間の反応を掴むのは実に容易であった。
わざわざ言わないだけで皆が知っていた。
現代の技術で隠密行動を取っても、それで騙されるのは二流の魔術師までだ。
ユエルは目に狂気を宿しながら俺に尋ねる。
「監視役の処遇はどうしますの? アッシュ様のご命令とあれば、即座に抹殺しますが」
「待て。彼らはあえて放置するつもりだ。所属する国に情報を持ち帰ってもらえば、新たな戦争の火種になるかもしれないからな。俺達と敵対してくれる分には大歓迎だ」
殺すのは簡単だが、それでは意味がない。
計画のためには野放しにするのも策になるのだ。
穏便や平和という概念に背いた英雄にとって、さらなる争いは望むべきものである。
敵意がこちらに向く分にはまったく問題なかった。
「監視役には、俺達の計画を見せつけていくつもりだ。手始めに傭兵団を設立して驚かせようと思う」
「傭兵団ですか?」
「ああ、個人単位で注目を集めるより目立ちそうだからな。戦争の最中に新たな勢力が現れれば、各国も放ってはおけないだろう」
俺は計画の第二段階について打ち明ける。
これからは個人ではなく、組織としての行動に移行していくつもりだ。
ミザリアは素朴な疑問を呈する。
「どうして傭兵団という形式なんだい?」
「俺達が名乗るのに一番適している」
崇高な願いや主義があるわけではない。
一方の勢力に加担して戦い、そして満足して死んでいく。
まさに戦争のための集う組織だ。
傭兵団と呼称するのが最も相応しいと思う。
「ちなみに傭兵団の掟も考えてみた」
「どのような内容なのですか?」
「――孤軍奮闘。戦場において互いの手助けは厳禁とする」
どれだけ強大な敵が相手だろうと、英雄は一人で戦わなければならない。
これは生きるための戦いではないからだ。
未練に差はあれど、大半が死に場所を欲している。
勝っても負けても本人の責任とするのが妥当であろう。
これが唯一絶対の掟だ。
「厳しいけど理に適ってるね」
「それくらいの制限がないと死ねないからな」
一騎当千の強者ばかりなのだ。
仮に軍隊規模で足並みを揃えたら誰も勝てなくなってしまう。
ミザリアの感想を肯定した俺は話題をさらに進める。
「傭兵団を設立するにあたって拠点が欲しい。そのための土地を確保するのが先決だ」
「拠点なら"砲王"ブラハの樹海じゃ駄目なのかい?」
「あそこは規模が大きすぎる上に立地も良くない。拠点はなるべく他国を刺激しない場所に据えたい。戦争の影響で放棄されている地域が理想だな」
すると、ユエルが手を挙げた。
彼女は優雅に微笑む。
「それでしたら条件に合う土地を知っていますわ」
「本当か」
「ええ、きっとアッシュ様にも気に入っていただけると思いますの」
ユエルは自信満々に頷いた。
暫し拠点の候補地を回る予定だったが、それは気になる。
ここはユエルの提案に乗ってみようと思う。
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