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錬金術師の傭兵団 ~古強者は死に場所を求めて世界戦争に再臨する~  作者: 結城 からく


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第17話 聖女の豹変

 ユエルは絶えず俺に密着している。

 人目を気にせずこの調子なので、誰もいない経路を選んで移動していた。

 俺は何度目かになるか分からない言葉を彼女に告げる。


「離れてくれ。歩きづらい」


「まあ。寂しいですわ、アッシュ様。ゆっくり歩けばいいではないですか。急ぐ旅でもないでしょう」


 ユエルは恍惚とした表情で言う。

 本人は澄ましているつもりかもしれないが、涎がローブを濡らしていた。

 振り払おうとしたものの、ユエルの腕力は俺を軽く凌駕しており、どれだけ拒んでも諦めないのだ。

 だから無駄だと悟ってされるがままにしていた。


 ユエルが潤んだ瞳で俺の顔を凝視する。


「アッシュ様、恥ずかしがらなくてもいいですのよ?」


「…………」


 別に恥ずかしがってはいない。

 反応に困っているだけだ。


 数日前、突如として豹変したユエルは諸々の事情を白状した。

 なんでも彼女は俺に一目惚れし、どうにか手に入れたいと考えていたらしい。


 戦時中は機会がなく、共闘で良い印象を持たれるようにしたそうだ。

 戦後は地位と資産を確保し、戦争での功績をも利用して外堀を生めようとしていたのだという。

 ところが俺の計画を嗅ぎ付けたことで、彼女は予定を変更した。

 封印される英雄の一人となり、接点を深めておく作戦に切り替えたのである。


 ユエルの戦争に対する未練は皆無だ。

 強いて言うならば、俺と結ばれなかったことだけが悔いとして残っているらしい。

 愛の成就がこの時代での目的で、俺の補佐をしながら二人の生活に適した場所や家を見積もるつもりだと主張された。


 ここまで聞いただけで異常者だと分かるユエルだが、聖女と呼ばれるだけの考えも持ち合わせている。

 戦争の抑止が基本方針で、この時代の調停者になると言ったのである。

 暴力的な面は他の英雄に任せて、自分は対話による解決を担当するそうだ。


 愛で盲目的になっているだけではない。

 彼女は自らの力と役割を理解し、他の英雄とは異なる方面から助けになろうとしていた。


(ユエルは有能だ。率先して力を貸してくれるのは助かるが……)


 計画の協力者が少ない現状、彼女が補助役になってくれるのはありがたい。

 しかし、軽々しく頼ってはいけない予感がした。

 別に愛情を向けられる分には構わないが、それに応える資格など俺にはないだろう。

 少なくとも今は他の英雄達のために力を尽くしている。

 そもそも老いぼれとなった身で、ユエルのような人物に好かれるわけがない。


 そんな風に考えていると、ユエルが赤面して頬に手を当てる。


「どうされましたか? あまり見つめられたら照れてしまいますわ」


「みっともないね、発情聖女。照れるくらいなら恥じらいや良識を先に学びな」


 すぐそばで辛辣な言葉がした。

 呆れ顔でこちらを見ているのはミザリアだ。

 腰に手を当てた彼女に対し、ユエルは驚くほど冷めた眼差しで反論する。


「品のない死霊術師が口を挟まないでください。不愉快ですわ」


「ハッ、あんたが気持ち悪すぎて我慢できなかったのさ」


 肩をすくめるミザリアは背後の風景が少し透けていた。

 よくよく見れば実体感が薄いのが分かる。


 ミザリアはこの場に存在しない。

 俺と彼女は互いに魂の一部を持ち合っている関係で、一方の姿を幻視できるのだ。

 そうして遠く離れた状態でも支障なくやり取りすることが可能だった。

 念話の発展型で、視覚的に分かりやすくした術である。


 ちなみにユエルまでミザリアを認識しているのは、俺の魂と共鳴して知覚しているためだ。

 ユエルにはそういう特殊能力があるらしい。

 そのため第三者からすれば、見えない人間に話しかけているような図になっていた。


 ミザリアは俺に提案する。


「アッシュ。この女はもう駄目だ。さっさと再封印しな」


「野蛮な死霊術師の言葉に耳を貸してはなりません。彼女の魂を分離して捨てましょう」


 ユエルも負けじと主張をする。

 聖女と死霊術師はこの通り仲が悪い。

 どちらも欠かせない存在だが、どうにも先行きが不安だった。

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