第16話 計画始動②
"一刀千断"の異名を持つガミルは、分裂する斬撃を使う戦士だ。
制御を捨てて分裂速度と破壊力に特化しており、剣の一振りで千の斬撃を放つと言われている。
ただ、実際はその十倍とも百倍という説もあるらしく、本人も正確には把握していない。
そもそも斬撃の数が安定しないため、実力が大きくぶれやすい剣士なのだ。
戦後、ガミルは売れない大道芸人をしていた。
軍属を嫌う彼は、素性を隠して生活していたのである。
噂を頼りに行方を探ったところ、ガミルは寿命で死んでいた。
そこで死体のまま封印し、ミザリアの術で蘇らせてから事情を説明した。
彼は大喜びして俺の提案に乗ってくれた。
ガミルの死に場所に選んだのは魔杖国の実験施設だ。
封印前の要望により、大まかには決まっていたのである。
魔杖国に毛嫌いするガミルは、戦時中に拘束されたらしい。
そして特殊な斬撃の仕組みを解明するために非道な人体実験を受けたそうだ。
半年ほどで脱走できたものの、彼の中に募る恨みは消えなかった。
大道芸人として活動しつつも、裏では密かに報復を企んでいたのだという。
五十年後である現在の魔杖国は変わらず実験を行っていた。
技術は発展し、多種多様な魔導器を誕生させるまでに至っていた。
裏を返せば、それだけの数の魔術師を生贄にしてきたわけだ。
ガミルの報復相手としては上々であろう。
ガミルは魔杖国の実験施設に乗り込むと、何の変哲もない鋼鉄の剣でその能力を遺憾なく発揮した。
嵐のような斬撃を振り乱しながら破壊の限りを尽くしてみせた。
その日のガミルは絶好調で、一振りから数万の斬撃を連発させていた。
彼は魔導器による頑強な結界をまとめて切り開き、迎撃を試みる兵士を抹殺した。
五十年前、実験に携わっていた重役達にも復讐して実験施設を更地に変えた。
収容されていた実験体を解放すると、ガミルは悠々と帰還した。
魔杖国と対立する国に赴いたガミルは、酒場で浴びるほどの樽酒を頼み、その場の客に武勇伝を披露した。
店内全員と大いに盛り上がった末、彼は翌朝に眠るように死んだ。
迎撃用の魔導器から受けた毒と、魔力を使い果たした反動で肉体が限界を超えたのである。
死ぬ間際、ガミルは泥酔しながら俺に話してくれた。
曰く、魔杖国に挑む勇気がなかったらしい。
実験体となった過去が足枷となり、踏み出す一歩が出せなかったのだ。
俺の計画をきっかけにできたので、感謝していると言った。
最期は実験体を解放できたことを安堵しながら、ガミルは静かに目を閉じた。
ガミルは個人的な復讐を建前にしていたが、本心では自分と同じ被害者を増やしたくなかったのだ。
その英雄としての精神性は否定できない。
今後も魔杖国は実験を続けるだろう。
しかし、その視界の片隅には"一刀千断"ガミルの姿がちらつくはずだ。
軽率な人体実験は躊躇うようになり、此度の被害からも方針転換をせざるを得なくなる。
彼の解放した元実験体の人々は、報復と抑止のために新たな組織を立ち上げた。
魔杖国と敵対し、ガミルの遺志を継ぐことを選択したのだ。
魔杖国は尚更に慎重な行動を心がけていくことになるだろう。
ミザリアと出会った以降、戦争に介入した三人の英雄は、以上のような結末を辿った。
各々が多大なる影響を世界に及ぼしている。
そして、最後に呼び出した英雄は、なぜか俺の隣にいた。
彼女は腕に抱き付きながら上目遣いで話しかけてくる。
「ねえ、アッシュ様……次はどちらへ向かわれるのですか?」
「お前に伝える必要はない」
「あら。意地悪ですのね。興奮してしまいますわ」
彼女は照れた顔で頬ずりする。
ローブに涎が付いていた。
俺が蔑んだ目で睨んでも、彼女は嬉しそうに口元を緩めるばかりだ。
ひと気のない街道を進みながら、俺は静かに嘆く。
(どうしてこうなった……)
この聖女ユエルという人物は、聖裁国の英雄である。
品行方正な人道主義で、民からの信奉も厚く、非の打ち所がないとされていた。
大戦時、同盟関係からユエルとは何度か共闘しているが、特に異変を感じることはなかった。
だから彼女が俺の前に現れて自ら封印を望んだのも疑問に思わなかったのである。
ユエルは平和な時代に居場所がなかったわけではない。
彼女は、遠い未来の戦争で誰かの救いになりたいと言った。
そうしてどこかで犠牲となって死ぬ、と。
その志の高さから俺は封印を実行した。
現代で蘇らせた際も、ユエルは速やかに行動を起こした。
小競り合いから中規模の戦争を繰り返す二つの民族の調停役を買って出ると、両者を友好関係に導いてみせた。
彼らが争わず暮らせるように、枯れた土地に魔術による恵みを与えて、さらに外敵となる周辺国とも交渉を実施した。
一旦は戦争が勃発しそうになるも、ユエルは誠意を以て話し合いを続けて、ついには侵攻の中断まで成功したのだった。
豊かな生活を保障された二つに部族は兄弟の契りを交わした。
今後、同じような戦いはもう起きないだろう。
周辺国もユエルの名に従って不可侵を約束した。
ここで俺は違和感を覚えた。
誰かの救いになりたいというのは分かる。
しかしユエルの行動は、自ら犠牲になることを想定していなかった。
むしろ死を避けており、堅実かつ非暴力な手法で解決させた。
聖女として考えると自然だが、何か釈然としない。
なんとなくユエルから嘘の気配が漂ってきたように感じたのである。
そうしてすべてが丸く収まった直後、ユエルは本性を露わにした。
すなわち俺への異常な愛を全開にしたのであった。
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