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錬金術師の傭兵団 ~古強者は死に場所を求めて世界戦争に再臨する~  作者: 結城 からく


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第13話 死霊術師と錬金術師③

 少し遠くでミザリアが高笑いしている。

 油断や慢心ではない。

 俺の注意を引くための行動だ。

 使役するアンデッドの攻撃が通りやすくなるための心理戦であった。


「どうだい、さすがに物理攻撃は吸収できないだろう! ちょっとした芸だけじゃ死霊術師には勝てないよ」


 ミザリアの指摘は正しい。

 俺の魔力吸収は万能ではない。

 対応できない攻撃はあり、過信すると一気に不利に陥るのだ。


 そしてミザリアのアンデッドは汎用性が高い。

 様々な種族の死体を繋ぎ合わせることで、臨機応変に性能を変えられるようになる。

 これくらいの状況ならば問題なく対策が可能なのだった。


 今、俺は紙一重の防御で凌いでいる。

 合間に無刃剣による反撃を織り交ぜつつ、三屍神の猛攻を耐えていた。


(まともに食らえば死にかねないな)


 飛んでくる攻撃の数々は悪辣極まりないものばかりだ。

 ミザリアが大戦中に考案した機能である。

 見覚えのないものもあり、この五十年で新たに搭載したものと思われる。

 彼女の戦力は現役時代よりも進化していた。


 獅子が口から黒煙を噴き出す。

 周囲一帯が見えなくなるほどの密度と範囲で広がっていく。

 魔術の毒煙だ。

 俺の動きを制限するつもりらしい。

 体内に入る前に魔力に分解して吸収する。


 毒煙を吸い尽くして視界が晴れた時、目の前に獅子がいた。

 凄まじい速度で体当たりを繰り出してくる。

 俺は咄嗟に無刃剣を振るうも、角度が悪かったせいで一部を削ぎ落としただけだった。


 獅子が勢いよく激突してくる。

 俺は全身の骨を砕かれながら吹き飛ばされた。

 森の木々をへし折りながら宙を舞った末に地面を転がる。


 うつ伏せになったまま吐血した。

 ミザリアの嘲るような声が聞こえてくる。


「情けないねえ。剣術は学ばなかったのかい」


 俺はぼやけた視界でミザリアの姿を認める。

 そのまま掠れた声で反論する。


「……生憎と、時間がなかったんだ。これから、鍛えていく……つもりさ」


「ここで死ぬ人間が寝言を垂れるんじゃないよ」


 ミザリアの声は冷酷だった。

 心底から俺の死を望んでいるのが分かる。


 俺は悲鳴を上げる肉体を無視して立ち上がった。

 三屍神から奪った魔力で高速治癒を始める。

 同時に錬金術で骨や内臓、筋肉の位置を調節して、より効率よく正しい形へと戻るように促した。


 魔力制御の速度と精度は立ち止まっていると飛躍して向上する。

 俺の場合は一種の再生能力に近くなるのだ。

 もちろん無尽蔵に発揮できるわけではないが、迅速な回復手段が乏しい戦場では重宝する。

 すべての傷を癒した俺は改めてミザリアの力を評価する。


(さすが一流の死霊術師だ。真っ向勝負は骨が折れる)


 卓越した三屍神の連携を崩すのは容易ではない。

 聖魔術を使えれば突破口になるのだろうが、俺には錬金術しかなかった。

 ここは己の力だけで攻略しなければならない。


(やはり手段は一つしかないな)


 俺はゆっくりと無刃剣を構えて、地面を蹴って疾走する。

 ミザリアが高々と宣告した。


「魔力切れで老いぼれに戻るまで逃げ回りなッ!」


 三屍神に異変が生じる。

 獅子の尻に大蛇が癒着し、さらにミザリアを守っていた残る一体も山羊となって獅子の背中に繋がった。

 不気味な合体を行った三屍神は、不協和音の鳴き声を響かせながら俺の前に立ちはだかる。


 俺は何かされる前に錬金術を発動させた。

 大地が陥没して巨大な穴が出来上がり、真上にいた三屍神が落下する。

 即座に穴を作った分の大地で蓋をすると、無刃剣を突き刺して簡易封印を施した。

 ここで温存など考えていられない。

 残っていた魔力を根こそぎ使用する。


 急速な倦怠感の後、肉体が衰えて老人に戻った。

 体内の魔力を使い切った反動である。

 代償は大きかったが、これで三屍神はしばらく動けないだろう。

 奪った魔力で封印したので、性質が同一である三屍神では術を破るのに難儀するはずだ。


 俺は刃を失った無刃剣を手に前方を見据える。

 そこにはミザリアが立っていた。

 落ち着いた様子の彼女は悠然と述べる。


「さすがの錬金術師様も焦ったようだね。三屍神を封じたのはさすがだけど、そこからどうやってあたしを倒すんだい。もうあんたに魔力を渡すような真似はしないし、爺に負けるほど落ちぶれちゃいないよ」


「饒舌だな。口しか動かせないのか?」


 挑発した瞬間、ミザリアが跳びかかってきた。

 彼女の手首を掴み、力の流れを利用して引き倒す。

 捻り上げた腕を背中に回して固定しつつ、無刃剣の柄を当てて魔力を吸収していった。


「何っ」


 ミザリアが驚愕するがもはや手遅れだ。

 彼女の死霊術の繋がりを感知し、そこを経由して三屍神からも魔力を奪い取る。

 老いた肉体に再び活力が戻り、あっという間に十代半ばほどになった。


(……若返りすぎたな。まあいいか)


 俺は地形操作でミザリアの身体を土に埋める。

 即席の拘束術だ。

 会話のために首から上だけは外に出しているが、魔力のない状態でここからの反撃は不可能だろう。

 俺はミザリアを見下ろして告げる。


「使役者が魔力を失えば、アンデッドも動けなくなる。お前の負けだ」


「まさか、あんたが体術を会得しているなんてね……見事に出し抜かれたよ」


「魔力制御の過程で力の流れを知る必要があってな。そこで最低限のことは勉強したんだ。下手な剣術を見せておけば、お前から距離を詰めてくると思ったぞ」


「全部あんたの作戦通りってわけかい……」


 観念したのか、ミザリアから殺気が霧散した。

 力を抜いて抵抗する素振りも見せない。

 こうして俺は最凶の死霊術師ミザリアを無力化し、五十年越しの対決で勝利を果たのであった。

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