第11話 死霊術師と錬金術師①
俺を見たミザリアが少し驚いた顔をする。
その瞳は過去の戦争を幻視しているようであった。
彼女は薄い笑みを浮かべる。
「へえ、懐かしい姿だね。一体どういう仕組みだい」
「魔力を吸収して肉体活性に回しただけだ」
本来は身体機能を上げて毒や魔術への抵抗力を強めるのだが、極めれば老化すらも打ち消すことができる。
ミザリアの呼び出した三屍神は、以前に戦ったことがあった。
そのため魔力の性質は把握していたので、攻撃を防ぐついでに自己強化も行ったのだ。
ちなみに若返りは一時的な効果に過ぎない。
吸収した魔力が尽きれば元の姿に戻る。
それでもこの戦闘中くらいは維持できるできるだろう。
「この五十年で俺は大きく衰えた。だが、魔力制御はそれを補って余りある練度に達した」
昔から俺の魔力量は人並みだった。
魔術師としてはかなり少ない部類で、老いによってさらに減少した。
純粋な肉体機能で言えば、もはや戦うことが困難な状態であった。
もっとも、俺が焦ることはなかった。
これらの問題がそのまま力量の低下に繋がるわけではないからだ。
どうしようもない欠点があるのなら、代わりの手段で対処すればいい。
そもそも錬金術とは、体外の魔力を利用するのが主だ。
他の系統の術と比べて、自前の魔力の重要度が低い。
つまり老化の弱みも致命的ではなかった。
だから例の計画を進める一方で、俺はひたすら鍛錬を重ねた。
魔力の制御能力や、術の発動速度及び回転率をとにかく磨いていった。
刻一刻と近付く寿命に抗って邁進した。
そうして老化に打ち勝つために努力し続けた俺は、五十年の時を経て理外の領域に到達したのだった。
魔術の総合力に関して言えば、大戦時の自分が赤子に思えるほどだ。
俺は名実共に世界一の錬金術師になったのである。
「全盛期以上の力を手にしたのはお前だけじゃない。簡単に殺せると思うなよ」
「……生意気だね、糞野郎が」
「否定しないさ」
俺は挑発を込めて笑う。
ミザリアの殺意がまた一段と強まり、漏れた魔力が足元の草木を枯らし始めていた。
彼女は怪訝そうに顎に触れる。
「それにしても解せないね。いくらあんたでも三屍神の膨大な魔力は吸い尽くせないはずだ。容量が足りずに肉体が潰れるに決まってる」
「そこは工夫させてもらった」
俺は懐からある物を取り出す。
それは柄だけの武器だった。
正体に気づいたミザリアが目ざとく指摘する。
「無刃剣かい」
「その通り。持ち主の魔力で刃を作る武器だが、俺が使うと優秀な盾にもなる」
肉体の容量を超えた魔力でも、無刃剣に流すことで耐えられる。
元より魔術師用の近接武器として設計されているため、魔力の貯蓄能力は非常に高い。
俺の制御と合わされば、三屍神の攻撃だろうと吸収し切ることが可能だった。
したがって、今の俺に大半の攻撃魔術は通用しないのである。




