第102話 新たな道へ③
しばらく酒を満喫した後、俺はふと室内を見回す。
結界のせいで外部の情報が遮断されており、感知がまともに機能していない。
俺の力を封じるとは、よほど入念な仕掛けである。
素直に感心しつつ、俺はミザリアに尋ねた。
「そういえばシュアはどこにいる?」
「向こうの部屋にいるよ。挨拶しておきな」
それを聞いてさっそく探しに行く。
ミザリアの言う通り、シュアは隣り合った部屋にいた。
彼は子供達と戯れている最中だった。
俺は部屋の入口から声をかける。
「また子守りが上手くなったな」
「守護は我が生き甲斐。技術の向上は絶やさず実施している」
シュアは誇らしげに言う。
騎士国との戦いの後、彼は修道院の守護ゴーレムとなった。
最終決戦で役に立てなかったことに加えて、青炎国の王族が目の前で死んだことで心境に変化があったのだろう。
傭兵団からの離脱希望について俺が止めることはなく、代わりに修道院を紹介したのである。
そこでシュアは守るべき存在を見つけた。
つまり子供達である。
しっかりと懐かれているようで、互いに幸せそうだ。
シュアは誰かを守って死にたかったそうだが、これはこれで悪くないのではないか。
死だけが救いというわけではない。
主義や望みを変えて、幸福を手にしても良いのだから。
部屋にあるテーブルには子供達の料理が並べられていた。
それを用意するのはエプロンを着けたミハエルだ。
子供の自慢話に相槌を打ちつつ、器用に配膳を行っている。
俺はミハエルの準備を手伝いながら話しかける。
「遠征中だろ。いつの間に来ていたんだ」
「部下に任せてきた。少しくらい抜けても問題ないだろう」
「長距離対応の転移魔術持ちはいなかったはずだが……」
その時、部屋の壁に爆発音と共に穴が開いた。
俺は咄嗟に防御魔術を発動するも、追撃はやってこない。
顔を出したのは一体のゴーレムだった。
シュアとは違う型で、無骨な箱型の頭部を持つ機体である。
そのゴーレムは穴から部屋に入ってきた。
「がははははは! ミハエルの転移はわしが手伝ってやったぞぉ! どうしても集まりに参加したいと言うのでなッ!」
老人のような口調で話すそのゴーレムは、豪快な動作で椅子に腰かける。
視覚機能を象徴するランプが愉快そうに点滅している。
その正体は"砲王"ブラハであった。




