第101話 新たな道へ②
盛り上がる子供達の間を抜けて、別室へと移動する。
そこには防音の結界が張られていた。
室内の会話が漏れないようにという配慮らしい。
扉を開けるとユエルが抱き付いてきた。
「アッシュ様! ご無沙汰しております。お元気でしたか?」
「いつだって好調さ。見かけは老いぼれだが、魔力は満ち溢れている」
俺は気楽に応じてみせる。
魔力による肉体活性により、俺は半ば寿命を超越している。
無意識下でも問題なく機能しており、日々の生活に支障を感じることは皆無だった。
外見を変動させないのはこだわりが薄いからである。
俺は空いた椅子に腰かけると、腕を組みながら尋ねる。
「ユエル、お前こそ最近はどうなんだ」
「滞りなく運営できております。新たな事業をいくつも展開しており、経済成長は留まるところを知りませんわ。いずれアッシュ様をご満足させられるかと」
「そうか、楽しみにしている」
自信に満ちたユエルの答えを聞いて、俺は微笑する。
ユエルは新たな国――英雄国を設立した。
その名の通り、英雄が統べる国である。
基礎の理念からベイドの遺志を継ぐ形となっており、身分や性別や年齢、種族といったものに左右されない完全な能力主義が徹底されている。
好き嫌いは分かれるが、才能のある者からは歓迎されている。
英雄国については、俺からユエルに頼んだのだ。
彼女の"共感"能力なら成立させられると判断した。
実際、他の国々を凌駕する勢いで発展を遂げており、今や大陸の勢力図においても無視できない存在となっていた。
ユエルの近況報告を聞く間、ミザリアは戸棚を漁っていた。
彼女はこちらを見ずに紅茶を掲げてみせる。
「何にする?」
「水でいい」
「質素だねえ。たまには酒で潤しな」
ミザリアは紅茶を棚に戻し、なぜか酒瓶を俺の前に置いた。
琥珀色の液体が中で揺れている。
ミザリアはテーブルを挟んだ正面に座った。
「あんたの弟子が死んで七年……世界は大きく変貌した。気分はどうなんだい?」
「悪くない、な。予想以上に良い方向へ進んでいる。ある種の自浄作用だ」
「自浄とは洒落たことを言うねえ。ただ自由に世界が流れているだけさ」
静かに語るミザリアは、酒瓶の封を開ける。
自分と俺の分をグラスに注ぎ入れて一気に呷った。
「魔導器の需要が減り、旧来の魔術師が増えた。才能を潰す風潮に嫌気が差したってわけだ。戦争も長引いているからねえ。せっかくの魔術適性を活かさない手はない」
「子供達の育成もその影響というわけか」
「別に真似たわけじゃないよ。たまたま考えが同じだっただけさね」
二杯目を入れたミザリアは、ユエルにも同じ酒を渡す。
酒が苦手なユエルは首を振って断った。
鼻で笑ったミザリアは自分の分もまとめて飲み干した。




