第100話 新たな道へ①
俺は鬱蒼とした森の中を歩く。
一定の間隔で杖をついて老体を引きずる。
数多の認識阻害や罠の魔術を避けて進んでいった。
別にそれらを破壊してもいいのだが、迷惑がかかるのでやらない。
行き先は知人の住まいなのだ。
しばらくすると開けた場所に着いた。
そこには簡素な外観の修道院が建っている。
建物までの間に一人の女がいた。
紫色のローブを纏う彼女はミザリアだ。
何年経とうと彼女の容姿は変わらず記憶のままである。
俺は手を上げて挨拶をする。
「生身では久しぶりだな」
「まあね。あんたが戦ってばかりだからだろ」
「確かにそうか」
さっそくの嫌味に頷くしかない。
否定できるような生活は送っていないのだ。
俺が戦いに明け暮れているのは周知の事実であった。
嘆息したミザリアは修道院へと歩き出す。
その際、軽く手招きした。
「入りな。もう揃ってるよ」
ミザリアが修道院の扉を開けた途端、数人の子供が飛び出してきた。
彼らは目を輝けて殺到し、あっという間に俺を包囲する。
「お客さんだーっ!」
「こんにちは!」
「お爺さんは何してる人なの?」
「魔力の匂いがする! 魔術師だっ!」
同時に話しかけてくるので対応できない。
元気の良さに若さを感じる。
何人かはミザリアにしがみ付いていた。
「先生、新しい術を教えてよ!」
「だめだよ、私が先なの!」
俺は子供達の言動ではなく、彼らの体内を巡る魔力に注目する。
幼い割には強靭で安定している。
量もなかなかのものだ。
才能ではなく、地道な鍛練で身に付けたのがよく分かる。
どの子供も似たような状態で、会話の内容から考えるにいくつかの術も扱えるらしい。
俺は原因であろうミザリアを見やる。
「魔術学校でも始める気か」
「そんなつもりはないよ。ただ、自衛するだけの力は必要だろう? 世の中は物騒だからねえ。魔導器だって万能じゃない」
ミザリアは肩をすくめて笑う。
その主張は真っ当だ。
世界では未だに戦争が続いている。
たとえ平和になったとしても、個人単位での争いは絶えないのだ。
無力でいるより、何らかの力を持つ方が適切と言える。
見ればミザリアは子供達から慕われている。
ただ厳しい鍛練をしているのではありえない態度だ。
つまり、それ以上の愛を注いでいるのである。
師と親を両立させたミザリアの姿勢は、とても美しかった。




