表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金術師の傭兵団 ~古強者は死に場所を求めて世界戦争に再臨する~  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/106

第10話 決裂した英雄達

 ミザリアは暫し黙り込む。

 彼女は俺の指摘には答えず、こちらを指差して糾弾する。


「あんたは狂ってる。今の大戦は現代の人間のものさ。自己満足で横取りするもんじゃないよ」


「戦争に所有権なんてない。ただ国同士が殺し合うという事実があるだけだ」


 俺の反論を聞いたミザリアは苛立たしげに舌打ちした。

 彼女の内包する魔力が徐々に膨れ上がっている。

 感情の起伏に従って力を増しているのだ。

 一見すると人間であるミザリアだが、今は全身から漆黒の魔力を発していた。


 ミザリアが含みのある口調で確認をする。


「……諦める気はないんだね」


「ああ」


「そうかい。なら仕方ない」


 頷いたミザリアが指を鳴らす。

 次の瞬間、周辺一帯が黒い壁に覆われた。

 頭上までしっかりと塞がっており、外の魔力を感知することができない。


 結界だ。

 どうやら俺達は隔離されたらしい。

 ミザリアは昏い眼差しで俺を睨み付ける。


「あの子達に気付かれると説明が面倒だからね。先に準備をさせてもらうよ」


 彼女が手を打った途端、空気が一変した。

 まるで極寒の地にいるかのように気温が下がり始める。

 足元から凍り付きそうだった。


 これらの現象は魔術ではなく、ミザリアの放つ殺気である。

 彼女の纏う雰囲気が根源的な恐怖を誘発し、辺りが寒くなったと錯覚させているのだ。

 歴戦の死霊術師だからこその芸当と言えよう。

 常人ならば卒倒してしまうに違いない。


 しかし、俺は違う。

 彼女と同格の英雄だ。

 この程度の脅しで不調を来たすほど甘くはない。

 禍々しい気迫を精神力で押し退けると、そこにはただミザリアが立っているだけだった。

 芯まで凍るような冷気も感じない。


 ひりつく殺気を押し返す勢いで俺は睨み返す。

 漆黒の魔力を帯びたミザリアは、嫌悪のままに宣言する。


「どうしても戦争に首を突っ込むつもりなら、その前に覚悟と力を見せてみな。あんたの狂気であたしの抑止を捻じ伏せるんだ」


「世界のために俺を止めるつもりか。随分と正義を気取るようになったな」


「正義じゃないよ。身の程を知らない馬鹿に現実を教えてあげるだけさ」


 ミザリアの背後で地面が盛り上がって割れた。

 そこから浮遊して現れたのは三体のアンデッドだ。

 人間と魔物を縫い合わせた異形で、漏れ出した瘴気が体表を覆って絶えずうねり続けている。

 詳細な容貌は窺えず、不定形で立体感の薄いその姿は影の怪物のようであった。


(アンデッドを使うためにここまで移動してきたのか)


 予め地面に埋めて保管していたのだろう。

 彼女は最初から戦闘を想定していたわけだ。

 俺がどういった提案をするかまでは分からなかったろうが、互いの指針が合わずに決裂する展開は読んでいたのである。


 動き出す直前までアンデッドの反応はなかった。

 かなり高度な隠蔽術を使っているようだ。

 ミザリアの技量は大戦時よりも向上していた。

 修道院を営む傍らで鍛練でもしていたのかもしれない。


 そして俺は、この三体のアンデッドを知っている。

 ミザリアが前の大戦で使役していた強大な個体で、それぞれが火、水、風の基本属性を司る。

 複雑な能力は持たないものの、高い出力の術で敵を叩き潰す殲滅兵器だ。

 一体だけでも数万の軍隊を蹂躙できる特級のアンデッドであった。


(まさかまだ保有していたとは……)


 数々の戦いの記憶を刺激される。

 このアンデッドには何度も殺されかけたことがあった。

 ミザリアは嗜虐的な微笑を湛えて両手を広げる。


「懐かしいだろう? 災厄をもたらす三屍神さ」


「思い出したくもなかったがな」


「悲しいことを言わないでおくれよ。あんたには骨の髄まで味わってもらうつもりなんだ」


 使役されるアンデッド――三屍神の魔力が急速に高まる。

 ミザリアが片手を掲げて、振り下ろすと同時に叫んだ。


「戦争に縋る爺はさっさとくたばりなッ!」


 三屍神から大質量の光線が放出される。

 それは軌道上にいた俺を呑み込む――直前に集束して消えた。


「――誰が爺だって?」


 土煙を払って俺はそう言い返す。

 潤沢な魔力に満ちた肉体は全盛期相当まで若返っていた。

もし『面白かった』『続きが気になる』と思っていただけましたら、下記の評価ボタンを押して応援してもらえますと嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 第10部分到達、おめでとうございます! アッシュとミザリア、互いの論争と葛藤、そしてその結果の開戦、いずれも臨場感に満ちています。 [一言] 続きも超楽しみにしています!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ