赤い薔薇が好きなの
「ああぁぁぁっ!!」
大声で悲鳴を上げながら、今日もあなたは絶命した。
針の山に落ちて全身串刺し。うつぶせの背中から針の頭がのぞいている。
まさに命が終わるその瞬間が大好きなの……辺りに飛び散る赤が薔薇の花びらのようでとても綺麗で。
ああ、なんて美しいのかしら。
愛しいその体の隅から隅まで、そっと口づけを落とす。
ある日、私は魔女になった。
いや、魔女に『なってしまった』ね。
なりたくてなったんじゃないんだもの。
「婚約を破棄させてほしい」
そのたった一言で、私の世界は真っ黒に変わって。
それがなければただの貴族の娘だったのよ。ごく普通で地味目のお嬢様。
魔法なんて一切使えなかった。
別に魔法使いの家系でも、勉強して魔道士目指してたわけでもないもの。
私は彼を愛していた。
初めて晩餐会で出会ったときに一目惚れし、逢瀬を重ねようやく決まった結婚。
婚約を受けたあの瞬間をまだはっきり覚えている。
綺麗な夜景に、輝く指輪に……そして、なによりあなたの嬉しそうな笑顔。天にも昇る気持ちだった。
なのに。
あれほど純粋な愛だの運命だの言っておきながら、婚約破棄。他に好きな人ができたからって。
お相手は若くて派手な女だそうよ。邪魔者がいなくなってすぐにあなたはその女と再婚約した。
もちろん許せなかったし、悲しいし、苦しい……そしてなにより、憎い。
深く愛していただけに、想いは瞬く間に全て憎しみに変わって。
なんで……!どうして……!
身を焦がすような怒りの炎に包まれ、痛くて痛くてたまらない。
何日も何日もそんな眠れない日々が続き。
涙は枯れて、体は骨と皮だけになり。落ちくぼんだ目に皺まみれの顔。
まるで魔女のお婆さんみたい、そう思っていたら。
永い永い苦しみの渦が、私を本当に魔女に変えてしまった。
そうそう、魔女になったから魔法が使えるようになったのよ。
と言っても別に何かを操れるとか、何かを創り出せるとか、そういうのじゃないの。
私の使える魔法はただ一つ……あなたを永遠に殺し続ける、ただそれだけ。
パッとしなくて地味な魔法でしょう?なんだか私らしくてとっても気に入ってるの。
あなたを殺して、時を戻す。
全て元に戻してまた殺して、巻き戻して……
そうやって永遠に殺すの。
昨日は皮剥ぎ、その前は火炙り。そのまた前は手足をねじ切って、さらに前は……ええっと、忘れちゃった。
そんなの毎回毎回準備できるのかって?
できるわよ……だって私、魔女だもの。拷問椅子だって、鉄の処女だって指先パチンと鳴らせばすぐ召喚できる。
でも、毎回あなたは抵抗するの。
僧侶やシスター達を呼んで一斉に解呪の魔法を唱えさせたり、大勢の騎士団を出撃させて私を倒そうとしたり。
無駄な事なのにね。
なんでって、そりゃあ……私の存在を維持しているこの力の源は、魔力の源は……あなた。
この呪いの起源は他の何でもない、あなたなんだから。
あなたがいる限り、私は死なないわ。
でも私がいる限り、あなたは生き返り続ける。