6話
「ええっと、多分この辺りなんだけど……」
地図を片手に辺りを見渡す。
あの少女と出会ったのはほんの数日前の事なのに、随分と昔のことのように感じる。
まあ、最近色々とありすぎたからね……
「それにしても、なんであんなに目立つ服装でやってんだ?ピンクの服着た子って俺はあの子しか知らないけど」
疑問を口にしながらベンチに横になる。
確か、初めて会った時もここで横になってたんだよなぁ……
「……あ。いた!」
ふと目線を向けた先には、あのすごく目立つ少女が歩いていた。
「武器武器武器ぶ……っ!」
お約束のように集中のスキルに文字通り口止めされる。
最近は調子良かったんだけどなぁ……
急いで集中のスキルを切り再び辺りを見渡すが、そこに少女の姿はなかった。
……これもう絶対つけないわ
こういうことなかったらほんとに便利なんだけどね……
「……とりあえず、後を追おう!まだ近くにいるはずだしね!」
そう言って小走りで走り出した途端、目の前に1人のプレイヤーが降ってきた。
「イタタタ……あぁもう、このクソスキルっ!」
空から降ってきた赤茶色の髪をした小柄な女性は毒舌を吐き続けている。
杖を持ってるから、魔道士かな?
浮遊魔法なんてのもあるんだね……
そう考察しながら見ていると、女性が不機嫌そうにこちらを睨んだ。
「……何見てるの?」
これはまた変なのに絡まれちゃったね……
「え……あ……いや……別にあなたのことは見てない……です……ただ上から降ってきたから……大丈夫……ですか?」
少しでも人見知りを隠そうと頑張ってにこやかな顔をする。
「……よくも笑ったわね。いいわ。消し炭にしてあげる!」
そう言いながらこちらにバトルの申請をしてくる。
あ、これはちょっと失敗したね……
やっぱり慣れないことはしないほうがいいんだね……
―――――――――――――――――――――――――
シャープvsまどか
勝利条件:相手の体力50%未満
敗北条件:自身の体力50%未満あるいは制限時間超過
制限時間180秒
報酬:無し
OK NO
――――――――――――――――――――――――
なるほど、まどかさんかー……って、そうじゃなくて!
「あ……あのぅ……すみませんが、今人を追ってるので後にして頂けると……う、うれしい……です……」
そう言いながらNOをタップしようとする。
「何?逃げるの?雑魚ね。」
……流石に頭にきたよ?
「……は?ふざけないでもらえます?大体剣が魔法なんかに負けるはずないじゃないですか。雑魚はどっちですかね?」
つい挑発的になる。
これ集中ついてたら1発で口封じだね……
「……言ったわね?お前が負けたら謝罪して貰おうかしら」
「万が一にもないとは思いますが……あなたにも負けたら謝罪してもらいましょうか」
「ふん!望むところよ!」
まどかの確認が取れたところでOKを押す。
[5、4、3、2、1……開始っ!]
ホイッスルの音が響く。
「燃え尽きなさい!ファイヤー!」
そう叫ぶとまどかの周りに小さな火の玉が3つ浮かんだ。
「さて、いつまで持つかしら?」
そう言いながら火の玉を放ってくる。
走って2つを躱し、残りの1つを切り裂く。
「こんなのどうってことないね!」
「あれは避けられて当然ね。でも、これは避けられるかしら?」
まどかはそう言いながらさらに3つの玉を撃ち出す。
「さっきと一緒!」
難なく躱し、まどかに斬りかかる。
「そうかしら?」
そう意味深に微笑み、杖を後ろに振る。
刃があと数センチほどでまどかの喉元を斬り裂くところで背中に衝撃が走る。
「うわっ!」
バランスを崩し、前に吹き飛ぶ。
辛うじて受け身は取れたが、剣が地面に思いっきり当たってしまった。
パリンッ!
嫌な音と共に剣の先端が欠けていた。
「残念だったわね。まあ、所詮剣なんてそんなものでしょう」
まどかが笑みを浮かべながら火の玉を宙で回らせる。
「ただの棒切れを振り回して自分に酔っているなんて可哀想な人……それじゃあ死になさい!」
そう言って火の玉を飛ばしてくる。
「……そりゃっー!」
気の抜けた掛け声をあげて剣を怒りに任せて投げつける。
剣は飛んでくる火の玉を切りながらまどかの足に刺さった。
「痛っ!」
想定外だったのか思いっきりびっくりしている。
このゲーム衝撃だけだから、痛みは無いはずなんだけどね。
「可哀想な人種の割にはよく考えたじゃない」
まどかはそう言って刺さった剣を抜く。
明らか強がりじゃん!
「でも、後は何ができるのかしら?」
そう言って再び火の玉を出す。
しかし、先ほどに比べて明らかに火の玉が小さい。
あれ?これって……
「今度こそ終わりね。案外楽しかったわ」
まどかはそう言って火の玉を放つが火はすぐに消えてしまった。
「あれ、おかしいわね……」
そう言ってまどかは何度も杖を振るが、もう火の玉は出ない。
「MP切れだね……フッ……」
あまりに必死なので思わず笑いが溢れる。
「……何よ?」
まどかがビクッと肩を震わせてじっとこちらを睨みつける。
今度はこっちの番だよね?
「いや、魔法ってMP切れたらなにもできないんだなぁって思って……」
ここぞとばかりに煽りを加える。
まどかの顔がどんどん興奮で赤くなっていく。
「……言ったわね?」
そう言って杖で殴りかかってきそうになるが、直後笛の音が響く。
――――――――――――――――――――――――
バトル終了!
シャープ:4ポイント
まどか:3ポイント
勝者無し(制限時間超過のため)
――――――――――――――――――――――――
互いに硬直する。
プライドがあぁ、プライドがぁぁぁぁ……
「……まあ、約束なので……魔法もそこそこ強いんじゃないですか?」
「……剣も案外強いものね」
「「でもほんとに強いのは剣、魔法だ(から)っ!」」
最後のセリフが被った。
……これ恥ずかしいやつ!
「……いいこと!?これで勝っただなんて思わないでよね!」
まどかはそう叫び、バツが悪そうに去っていく。
「フロート!」
まどかがそう叫ぶと風が吹いてまどかの体が宙に浮いた。
最後にこちらを一瞥し、ふらふらと飛んでいった。
「……あっ!やばいっ!」
ようやく自分が何をするためにここに来ているかを思い出す。
「流石にもうどこにいるかは分かんないよね……」
諦めて出直そうと思ったその時、路地の奥で物影が動くように見えた。
「もしかして……」
狭い路地に入り、奥へと進んでいく。
すると、目の前にあの少女が財布の中身を物色していた。
「ちっ。また一文なしかよ。この前の地図持ってないバカといい、どうして……」
……この子も毒舌過ぎない!?
まどかといい、このゲーム毒舌の人多すぎない!?
「……バカな無一文ですみませんね」
思わず声が震えた。
少女の肩がビクッと震え、勢いよくこちらを振り返る。
「……聞いていたの?」
それわざわざ聞く必要なくない?
頷くと、少女が蒼白な顔で言った。
「なら仕方ないわね……死になさい!」
腰から短剣を抜き、俺の腹に目掛けて刺してくる。
だが、動きが遅くて単調なので造作もなく避け、短剣を取り上げる。
「はい、動かないでね」
少女の両腕を後ろに回し、動けなくさせる。
「離せ!ゴリラ!」
少女は毒舌を吐きながら必死に抵抗するが、ATP極振りの俺にとっては少女の抵抗など暖簾に腕押しだ。
……なんか、俺が変態っぽくなってない?
「誰か!助けてください!」
……背筋に寒気が走る。
道ゆく人が足を止めて、こちらを見る。
「いや、違うんです!これは……」
弁明しようとしたその時、上からさっきまで闘っていた魔道士の声がした。
「死ねぇぇぇぇぇっ!」
上を振り向くのとまどかが振りかざした杖で脳天を殴られるのが同じタイミングだった。
鈍い音が響く。
意識が朦朧とし、そのまま深い闇の中へと落ちていった。
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