3話
……
……………ドサッ
あの決意から3時間、ようやく街をほぼ1周したところで足の疲労でベンチに倒れ込むようにして横になる。
「いや、ほんとにきつい。だってこの街尋常じゃないほど広いんだもん!てゆうか、地図屋ないし……」
広さは大体3k㎡、さらに地下や広場、畑までもある。
とても覚えるなんてことはできない。
若干諦めモードになりつつ、空を見上げる。
「こうなったら最後の手パート2かぁ……」
最後の手パート2?決まっている。『人に聞く!』
最初からそうしろだって?……知らんな。
さっきも言ったように、俺は極度のコミュ障だ。
この俺にとっては知らない人に物を聞くなんてことは寿命を削ることと同義だ。
だから、これは最後の最後の手段にとっておいたのだ。
だが、これ以外に方法が見つからないので、なるべく優しそうな人を探して声をかける。
「あ、あ、あのぅ……」
声を掛けたのは全身真っピンクの少女だった。
だってちっちゃくて優しそうだもん!
少女はちらっとこちらを見ると、目を細めてにっこりと微笑み、
「なあに?」
と返してくれた。
集中のスキルのおかげでかなり落ち着けてるね。
「地図ってど、どこに売ってるかわ、わかる……ますか?」
……あ、やっぱりだめだ。
「地図を持ってないの?チュートリアルをクリアしたら貰えたよ?」
思わず頭を抱える。
傷口に塩を塗られるってこういうことだね……
「だ、大丈夫?」
少女が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「じ、実は……」
コミュ障と後悔に必死で耐えながら今までの経緯を話す。
「それなら、地図屋で貰えると思うよ。案内しようか?」
と少女が笑顔でこちらに問い返す。
え、この子天使か何か?
「ぜ、是非おねがい……します…」
「大丈夫だよー。ついてきて!」
小さな少女を見失わないように必死で追いかけること約10分。
辿り着いたのは最初のスポーン地点だった。
「こ、ここ?」
「そうだよ。あの人に話しかければもらえると思うよーじゃあ、私はそろそろ落ちるね!頑張って!」
黄色の服を着たピエロを指差して少女が言う。
え、あれが地図屋なの?
なんて言うか……すごく個性的だね……
てっきりお店があるのかと思ってたよ……
「ほ、ほんとにありがとう……ま、またね……」
なんとか別れの言葉を伝え、手を振って少女を見送り、何気なくポーチを見た時、不思議なことに気づく。
「……なんで…」
さっきまでポーチの一番上に入れていた真っ黒の長財布が無くなっていたのだった。
そして、最後のやりとりを思い出してみる。
俺が手を振って見送った少女のピンクのスカートのポケットには、彼女の服装には明らかに不似合いの真っ黒な俺のらしき財布がはみ出ていた。
「いや、まあ1Cも入ってないし、地図屋の場所教えてもらったし、そもそも俺がしっかりしてなかったからだしね……なんか逆に申し訳ないなぁ。まあ、何はともあれ知らない人は信じちゃダメってことだね……」
当たり前のことを改めて噛み締め、気を取り直してピエロに話しかける。
「す、すみません、地図を頂きたいんですが……」
ピエロはじっとこっちを見て、……そして無言で剣を取り出した。
「……え?」
思わず声がひっくり返る。
脳内で必死に情報を整理していると、画面の中央に、[CPU地図屋からバトルを申し込まれました。バトルを受けますか?]と出た。
「……もしかしてこれイベントか何かかな?」
どうやら、その仮説は正しく、[報酬『大都市アルダムの地図]と書いてあった。
「これに勝てば今までの苦労が報われる……絶対やるしか無いでしょ!」
力強くタップすると、今まで周りにいた他のプレイヤーがいなくなり、周りが静けさに包まれる。
――――――――――――――――――――――――
シャープVS CPU地図屋
ルール
・時間無制限
・勝利条件:相手体力50%未満
・敗北条件:自分体力0%
OK NO
――――――――――――――――――――――――
OKを押すと、カウントダウンが始まった
[5.4.3.2.1...…開始っ!]
ホイッスルの音と同時にピエロが動くが、所詮はCPUなので、動きが遅く、単調だ。
「はあっ!」
今までの全ての恨みを込めた俺の横薙ぎはピエロの左脚を切り裂き、右上のピエロのHPバーが2割ほど減る。
不意を突かれたピエロは一度間合いを離そうとするが、左足を切られているのでうまく動けず、前のめりに倒れ込んだ。
「喰らえ!スラッシュ!」
直後、赤い光が剣を包み、ピエロの体を真っ二つにした。
「よし!倒しt……え?」
突然ピエロの上半身と下半身が白く光り……爆発した。
――――――――――――――――――――――――
[バトル終了!]
シャープVS CPU地図屋
ダメージ
シャープ:50ダメージ
CPU地図屋:9ダメージ
残りHP
シャープ:1%
CPU地図屋:0%
winner:シャープ
――――――――――――――――――――――――
「……完全に初見殺しじゃん…」
ピエロがこちらを煽るように見ている。
……めっちゃ腹立つんだけどっ!
近くに寄るとピエロが
「地図買ってくぅ?」
と、間延びした声で聞いてきた。
こいつ喋るんかい!
てゆうか顔だけじゃなくて声も腹立つなぁ……
とりあえず品揃えだけ見てみる。
――――――――――――――――――――――――
CPU地図屋
大都市アルダムの地図 100C
グーシック大草原の地図 150C
オーディック洞窟の地図 200C
――――――――――――――――――――――――
うーん、当たり前だけどお金掛かるよねー。
バトルに勝ったから地図全部もらえるとか……流石にないよねー。
「まあ、これでやるべきことは1つになったね」
いつの間にか再び街の喧騒が戻ってきていて、ログに[CPU地図屋とのバトルに勝利しました。『大都市アルダムの地図』を受けとりました。]と表示が出ていた。
「……やっt…っ!」
再び集中のスキルに強引に口を塞がれる。
「……これちょっと切っとこう……」
こうして1Cも入っていない財布と知らない人への信頼感を失いながら、なんとか地図を手に入れることができた。
メニューを開くと、今までなかった[マップ]の項目があった。
それをタップすると、視界の左上にマップが表示された。
「……長かったぁー!これで街の外にも行けるし、店にも確実に行けるぞー!………あ…」
達成感のあまり、思わず叫んでしまった。
お約束のように、周りから冷たい視線を浴びせられる。
「……やっぱり集中は絶対につけておこうっと」
とりあえず人気が少ないところへ行くと、突然強い眠気が襲ってきた。
「今日は色々あったしね。」
現実世界の時計では大体0:00くらいだろうか。
ちなみに現実世界では現役の高校生なので、明日の授業に差し支えるとまずい。
今日は大人しくログアウトしますかー。
「明日からはいよいよお金稼ぎかー!がんばr……っ!」
眠気のあまりつい大きく出た俺の決意は集中のスキルにかき消される。
「やっぱり便利だけどほんとに強引すぎるね……」