わたしのひどい休日の話 その三
翌日は八時すぎに目が覚めた。こんなぐっすり眠りこけてしまったのは久し振り。
台所ではおばあちゃんがごはんの準備をしていた。わたしも箸を並べたり、お椀を運ぶのを手伝う。食べ終わってから器を洗うのを手伝おうとしたけれど、かえって邪魔になりそうだったので、やめにした。
家事癖のついたわたしはなにもしないでいるのがなんとなく手持ち無沙汰で、とりあえずママの部屋をお掃除することにした。
べつにおばあちゃんの掃除が手抜きってわけじゃないけれど、ひとの入らない部屋というのは、そうじゃない部屋と比べると埃やなんかがたまりやすい。
わたしは持ってきたバンダナで口と鼻をガードしながら、部屋にあるものに掛けられているほこりよけの布をはじからとっぱらって、はたきでパタパタしていく。
窓から差し込む光が、舞い上がるほこりを浮かび上がらせる。
まるでそのひとつひとつが生きてるみたい。
本棚に並ぶ本に気付く。みんなパパの本だった。デビュー作の『タイニーちゃんのすてきな夏休み』から、『笑うティンパニ』までが三冊ずつくらい、きれいに年代順で並んでいる。わたしは『笑うティンパニ』のおわりのほうにある、発行年月を見てみた。だいたい、ママが入院したころの日付だった。
上段には文庫本が並んでいた。ママの趣味の本かと思ったけれど、ちがう。『ガジェインのルール』に『黒豹刑事』シリーズ、『悪魔の子守歌』……パパの趣味だろうか。ハードボイルドもの、それからエロスとバイオレンスってヤツだ。ぱらぱら見てみると、内容は……乱暴で低劣きわまりない。こういうものを嬉嬉として読む人間の気が知れない。
よく見ると、それらの作品はみんな『野上新兵』という著者のものだった。
なにかがおかしい。
わたしは文庫本のカバーの折り返しの部分をひとつひとつ調べていく。著者の略歴、作品やその出版社の刊行物が書かれている。わたしは『黒豹の復讐』のカバーに、目当てのものを見つけた。
一瞬、わたしはその顔写真を見たとき、だれなんだ、このハンサムな好青年は、と思った。だけど、なんだか妙な感じがする。どこかで見たことがあるような。
この目、この輪郭、この口元……
パパだった。
わたしはもっとよく調べる。おもてからは隠れた部分に、まだ数冊の本が隠れていた。
……女の人が、いやらしい格好をした妙にリアルなイラストが表紙の文庫本だった。
触るのもいやだったので、こっそり盗み見る。著者はみな、『深沢太郎』。
たしかめるまでもない。
これもきっとパパだ。
パパがいやらしい小説を書いていたなんて、ひどいショックだったが、もっとショックだったのは……これを整理したのは、まずまちがいなく、ママだってこと。
……どうしてママはパパと離婚しなかったんだろう。あんなぐうたらで、ぼさぼさ頭で、いい加減で、オマケにえっちぃ小説を書いているような人間なんかと。最低じゃないか。
わたしは一番下段に並んだ雑誌を見た。そのどれにも、パパのエッセイや対談なんかが載っていた。一番端のファイルはスクラップブックだった。新聞やなんかの小さな記事の切り抜きが、一枚一枚ていねいに張られていた。その横には日付や所出のメモが添えられていた。みんなママの字だった。
……ママは。
あんなパパでも愛していたんだろうか。
わたしはそのまま、その場に座り込んで、しばらくぽおっとしてしまった。混じり合った、ほこりと畳と古い本のにおいがしていた。




