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エグザイルパーティー ~追放された者を仲間にして最強のパーティーに至る~

作者: 月海海月

 追放者を拾う側の話を書いてみました。

 最後まで読んでいただけたら幸いです。

 この世界にはいくつものダンジョンがある。そこには幾多の魔物や罠があるが、それを乗り越えた先には素晴らしい宝が眠っている。その宝を求めて潜り続ける者達がいる。そんな命知らずのことを人は、冒険者と呼んだ。



 近くに三つのダンジョンがあるおかげで多くの冒険者とそのダンジョンからの産物を目当てにして集まった商人から出来上がった街、ダンジョン街。

 その冒険者ギルドにある酒場で二人の冒険者が今朝から入り込んできた噂について話していた。


「ダンツが『烈火』のパーティーから追放されたって噂は本当なのか?」

「どうやら本当みたいだ。今朝烈火がダンジョンに行く前にそう言ってたのを聞いたってやつが多い。ギルドの受付も聞いていたから確実だろう」

「マジか。何でまたダンツがやめさせられたんだ。盾士としての腕は冒険者の中でも上位のレベルだろう」

「聞いたやつが言うには火力が足りないから盾士はいらないとか、敵の前にいるのが邪魔だとか、装備や回復薬の出費がダンツだけ高いとかなんとか。そんなことを言ってたらしい」


 それを聞いた赤毛の男――ギレンは口をアホのように開いていた。話していた方のくすんだ金髪の男――カージュはそれを見て、自分もこの話を聞いたときはこんな顔をしていたのかと思い返していた。


 この二人、ギレンとカージュは、二人だけでパーティーを組みダンジョンに潜っている冒険者だ。

 ギレンが剣士でカージュが弓士のこのパーティーは、そこそこの年月ダンジョンに潜っているがその尖った編成故かBランクに留まっている。

 本人達はそれを不服に思っているが二人だけのパーティーで降格せずBランクにいられるのは、ひとえに二人の実力があるのとギルドに貢献しているからだとギルドの役員達や古株の冒険者はしっかり理解している。


「なんだそりゃ。盾士なんだから仕方ないだろう。射線にいるのは確かに不味いがあのダンツがそんなことしょっちゅうするとは思えねぇな」

「それには俺も同感だ。だかあの二人がそう言ってたらしい」

「あー、烈火にはあのプライドの塊の騎士君と天才魔法使いちゃんがいるのか。あいつら実力はあるが性格は悪ぃからなぁ」


 Aランクパーティー『烈火』は一年と半年程でAランクまで上り詰めた新進気鋭のパーティーだ。このパーティーで注目を浴びるのは騎士ソータと天才魔法使いリディアだろう。

 ソータは騎士とは名ばかりで敵に突っ込み力で殲滅する脳筋だ。だが技量があるのか前線でも倒れず敵を倒し仲間を導く姿は、Aランクパーティーのリーダーに相応しいと言う人もいる。

 一方、リディアは小規模魔法から大規模魔法まで使いこなすまさに天才だ。自分しか見えていないとこがあるが、何体もの敵を消し去るその魔法には何度も危機を救われたと言う声数多だ。

 そんな火力でゴリ押すタイプの二人は、ダンツがいなくてもやっていける、ダンツは役に立っていない、むしろパーティーのお荷物だと言っていたのだろうとカージュは付け加えた。


「でもよ。烈火には他にも仲間がいただろ。そいつらは何も言わなかったのか?」

「治癒士の子は賛成したと聞いた。元々ダンツとソータの二人を回復するのは大変だと言ってたらしい。もう一人の弓士は我関せずだ」

「何だかなぁ。二年近くいた仲間をそんなにあっさり見捨てるか、普通」

「あいつらはそうなんだろ。それに最近はダンジョンが行き詰まってるとも聞いたからな。それもあるのだろう」

「行き詰まってのメンバー変更は悪くはねぇが追放はやり過ぎだろ」

「そうだな」


 若さ故の過ちだろう、とカージュは呟いた。

 それでも納得いかないような顔をしているギレンを見て、クスリと笑ったカージュは一つ提案を出した。


「そこでた。俺はダンツを誘ってみようと思う」

「はぁ? 誘うってうちにか?」

「そうだ。俺とお前は弓士に剣士。盾士がいればバランスが良くなるだろう」

「確かにそうだがAランクだった奴が俺達Bランクに入ってくれるのか?」

「そこは実際に誘ってみるしかないだろ」


 ニヤリと笑みを浮かべるカージュを睨みつけるギレンだがこれは折れないとわかるとため息をつき了承の返事をした。


「わかったわかった。ものは試しだ、誘ってみるか」

「決定だな。早速ダンツの元へ行こう。早くしなければこの街から去ってしまうかもしれないからな」

「何だよダンツの奴、冒険者辞めるほど切羽詰まってるのかよ。それならそうと早く言いやがれ。先輩として一声かけてやる」

「これも噂だ。だが、説教もほどほどにしとけよ」

「わーってるよ」


 そう言葉を交わすと示し合わせたように二人同時に立ち上がり、ダンツを探すため冒険者ギルドを後にした。



 パーティーから一方的な追放を命じられ、仲間だと思っていたメンバーからも見捨てられたことに唖然とした大男――ダンツはそのショックから抜け出せず、この街にいるのがいたたまれなくなり辺境の地へでも旅に出ようかとぼんやりと思っていた。

 どうにせよ他のメンバーがまた帰って来るであろうこの宿屋には居たくはないので荷物をまとめ、さっさと出て行った。

 当てもなく街をぶらつき、これでもう見納めにして本当に旅に出ようかと考えたダンツは、街の外へと通じる大門へと歩んでいた。

 すると彼に声を掛ける者が現れた。ギレン達だ。


「よお、ダンツ! やっと見つけたぜ」

「その荷物。まさか本当に出て行くつもりなのか」

「あなた達は、ええっと、確か……」


 言い淀むダンツにギレン達は自己紹介を済ませた。するとピンと来たのがダンツがあっ、と声を出した。


「そ、そうでした。確か最速でBランクになったお二人でしたっけ。ごめんなさい、僕いつもパーティー名でしか覚えてなくて」

「おっ、知っててくれたのか。嬉しいねぇ。まぁ名前のことは気にすんな。普通どこどこの剣士っていやあ通じるかんな」

「そうだな。各自の名前まで知られてるのは有名どころぐらいだろう」

「いえ、あなた達も十分有名だと思います。ところで僕に何か用でしょうか?」


 そこそこ有名な先輩冒険者に声を掛けられたことにビビっている様子のダンツだが、ギレンの気さくな態度に落ち着きを取り戻し、何のために呼び止めたのか用件を聞いてみた。

 すると真剣な表情でカージュが切り出した。


「単刀直入に言おう。ダンツ、俺達のパーティーに加わってくれないか?」

「えっ?」

「知ってるかもしれないが、俺達は弓士と剣士だ。盾士である君が入ってくれるなら安定したパーティーになると思っている。だから君が入ってくれると有難い」

「えっ、ちょ、ちょっと待ってください」

「俺からも頼むぜ。お前のことは前からすげぇと思ってたんだぜ」


 突然の()()二人からの勧誘に面食らったダンツだったが、不意に悲痛な顔を浮かべると自嘲気味に口を開いた。


「誘いに来たってことは今朝のこと知ってるんですよね。なら僕みたいな使えない奴じゃなくてもっと相応しい盾士いますよ」

「何抜かしてんだよ。お前はAランクだろ。お前より使える奴ってことはSランクじゃねえかよ」

「僕なんてソータやリディアにくっついてAランクになったような奴ですよ。いわばおまけですよ」

「これは相当追放宣言が応えたようだな」


 卑屈な返事にそう判断したカージュは口からはそう零し、頭ではどうやって誘うかを考えていた。

 だがそれをギレンがぶち壊した。


「おいおい。おいおいおいおい。何腑抜けたこと抜かしてんだよ! お前ぇは盾士だろ。盾士はパーティーの柱なんだよ! 盾士がしっかりしてねぇパーティーはすぐに崩れる。だから烈火がAランクになったってことは、お前ぇがAランクに相応しい盾士ってことだ!」

「あ、あの、ギレン、さん?」

「それに何だよ。一度パーティーから外されたぐらいで冒険者辞めようとしてたのか。他のパーティーに加入したり、ギルドの斡旋を受けたり、やり用はいくらでもあんだろ。お前ぇが冒険者してた二年は一度外されたぐらいで手放すようなそんな安いもんだったのかよ!」

「……!」

「ギレン。ほどほどにと言ったぞ」

「っ! 悪ぃ。つい、な」


 ダンツの態度に思うとこがあり、声を荒げたギレンだがカージュの底冷えするような声にハッと我に返った。


「あー、悪ぃ。まぁ先輩の小言だと思って……」


 ……くれて構わない。そう言おうとしたギレンだがダンツの叫びが割って入った。


「僕だって! まだ冒険者辞めたくないです! あいつらに言われっぱなしで辞めるなんて、逃げるなんて、したくないです!」

「お前ぇ……」

「ほぅ」


 拳を握り、涙目になり、声も震えて、悔しさを顔に浮かべていたが、その姿は先ほどとは比べものにならないほど“冒険者”であった。

 そしてこの好機を逃さないのがカージュである。


「ギレンも言っていたが俺も君の実力はAランク相当だと思っている。俺達はBランクで君の実力では相応しくないと思うが、良かったら俺達と共に来てくれないか」

「お前はすげぇ盾士なんだよ。もっと自信を持て。そしてそんな盾士が仲間になってくれたんなら俺は嬉しいし、俺達はもっと深く潜れる」

「カージュさん。ギレンさん」


 二人の励ましを聞いたダンツの目にもう涙はなく、瞳には決意の色が浮かんでいた。


「二人とも、お願いします! 僕をパーティーに入れてください!」

「誘っているのはこっちなんだが」

「がはは、細けぇこぁいいんだよ! よろしくな、ダンツ! これで俺達の仲間だ!」

「はぁ。とにかく入ってくれて感謝する。これからよろしく」

「はい! こちらこそよろしくお願いします!」

「そうと決まりゃあ歓迎会だ! 酒場行くぞ!」

「ちょ、ちょっとギレンさん! 引っ張らなくてもついて行きますから!」

「はぁ、まだ話したいことがあったんだがこれでは出来そうにないな」


 笑い声と困り声が響く中、カージュのため息が届くことはなかった。


~~~~~~~~


 夜、そこかしこから騒がしい声が聞こえる酒場の一角でギレン達も酒を飲み交わしていた。


「これからよろしくな! ダンツ!」

「わかりましたよ。もうそれで何回目ですか」

「ギレンがすまんな。こいつは酒には強いはずなんだが、今日は浮かれてるようだ。それもダンツのせいでな」

「もう、カージュさんまでからかわないでくださいよ。でもこんなに楽しいのは久しぶりだなぁ」


 最近じゃこんなに心置きなく夕食をとってなかったなぁ、とダンツは小さく呟いた。

 二人はそれを聞き取っていたが、聞こえない風を装い変わらぬ態度をとり続けた。

 するとダンツがずっと疑問に思っていたことを質問した。


「そういえば、皆さんは何で僕を誘ってくれたんですか?」

「そりゃお前が優秀な盾士だからだ!」

「いや、そう言うんじゃなくて。聞いた話じゃ二人はメンバーを増やさないしどこのパーティーにも入らないって聞いたんですけど」

「あぁ、その話か」

「あっ、失礼なこと聞いたならごめんなさい」


 カージュが真顔で返した横ではギレンが苦渋の表情を浮かべている。その顔を見たダンツは何か不味いことを聞いてしまったかと狼狽えている。


「いや構わない。そもそもその話自体嘘だからな」

「えっ!? そうなんですか?」

「あぁ、俺達は……」


 ギレンとカージュはそれぞれの故郷から冒険者に憧れてこの街へ来て、元々別のパーティーに加わっていた。

 だが若きギレンの実力について行けなくなったメンバーから他のパーティーに行くことを進められ、それを受けたギレンだったが別のパーティーには手に負えないと追い出され、次第に荒れていき孤立してしまった。

 一方の若きカージュも弓の才があったが、前衛と息が合わず誤射を恐れてパーティーを離脱して、それからソロで活動していた。

 そんな二人を冒険者ギルドが間を持ち、試しに組ませてみたら、意外なことに馬が合い、Bランクに至る今も二人でパーティーを組んだままでいる。


 そんなことがあったから、古株の冒険者は二人をパーティーに誘うことをあまりせず、新米の冒険者は噂とBランク冒険者という肩書きから加わりたいと言い出す者はいなかった。

 そして、二人が今まで誰も誘わなかったのは……、


「君もBランクとCランクとで壁があるのは知ってるだろ」

「そうですね。Bランクから一気に厳しくなりますね」

「そうだ。俺達はギルドに恩があるからなるべく依頼や素材をこなしたいと思っている。だからそれをしながら新人をBランクまで育てるのは出来なかったんだ。それにBランクまで来るパーティーは普通メンバーが抜けることがないから引き抜くことも出来なかった」

「……」


 カージュの話に納得したダンツだが、自分の状況は普通じゃないのかと再認識して気が沈んでしまった。だがそんなことお構いなしにギレンが大声を上げた。


「そこで現れたのが元からAランクの実力があるお前ってことだ!」

「そういうことだ。俺達も二人じゃこれ以上は厳しいと話していたところでのあの噂だ。ギレンは知らんが俺は絶対パーティーに加えたいと思っていた」

「話を聞いたときはいきなりで驚いたがよ。相手がダンツとなりゃこれほど頼れる仲間はいねぇと思ったのわけよ!」

「ああ、君はあのパーティーでは珍しくまともな性格だと俺達は判断している。だからこそ君が良かったんだ」


 名の知れた冒険者からこれほど褒められたことに沈んでいた気持ちなど消え失せ、ダンツの内心は心地よい誇らしさと恥ずかしさが満たされていた。


「僕、ギレンさんとカージュさんの期待に添えるように頑張ります!」

「おう! その意気だぜ!」

「期待している」


 それから、適当な時間に酒場を後にした三人は、ダンツを自分達のホームに誘い明日の予定を決めてから眠りについた。


~~~~~~~~


 翌朝。予定通りに支度した三人は、ダンジョンのBランク相当の階層で実戦で立ち回りを確認することにした。


「あの、僕が言うのも何ですがいきなりこの階層で大丈夫なんですか?」

「あ? ここの魔物なら俺達二人の時でも余裕のとこだから問題ないだろ」

「ここはまだB階層の浅瀬だ。そこまで強い魔物は来ない。それに君の実力を見つつ連携を確認するなら、そこそこの強さの相手でなければ意味がないからな」

「そういうことなら、わかりました」

「なぁに。いざとなれば逃げればいい。お前もここの奴らから逃げるぐらいは出来るだろ?」

「まぁそうですね。回復薬次第ですが受けつつ逃げるくらいなら出来ると思います」

「なら早速やってみようぜ!」


 三人は決めていた陣形、正面をダンツ、その右後方にギレン、やや離れた後方にカージュの順にして探索を開始した。


 今ギレン達が探索しているダンジョンは街にある三つの中では一番難易度が高いダンジョンになっている。洞窟型のダンジョンで、通路の幅が二人が剣を振るう程度の幅しかない所もあり、結果少人数での探索でなければならない仕様になっている。そのため推薦ランクはBランク以上、奥へ行くとAランク相当の魔物も出現する危険で厄介なダンジョンだ。だがその分見返りも大きい。

 ちなみに他のダンジョンはF~Dランク相当の草原型ダンジョン、D~Bランク相当の森型ダンジョンとなっている。


 それはさておき、探索をしている三人に変化があった。それにいち早く気づいたカージュが注意を促した。


「待て。この先魔物の気配がある。多分豚鬼(オーク)だ」

「了解だ」

「へー、カージュさん気配がわかるんですか」

「ああ。一人でいるうちに自然とな。それにここはよく来るからどんな魔物かも薄らとわかるようになった」

「はぇー、すごいですね」

「初戦だから気を引き締めていけよ」

「あっ、はい!」

「話は終わったか。豚鬼なら素材も旨いからさっさとやっちゃおうぜ!」


 カージュが指示した場所まで向かうと、そこは広場のようになっていてそこには言ったとおり豚鬼がいた。それも三体も。

 だがギレンとカージュのみならずダンツもさして慌てずに豚鬼に視線を向けていた。


「行きます!」


 豚鬼に向かって駆け出したダンツは接敵すると声を上げた。


「こっちだ! 豚ども!」


 豚鬼はダンツの目論み通り一様に彼に向かい、持っている棍棒で攻撃を繰り出した。

 そこらの盾士だと豚鬼の攻撃は完全には防ぎきれないだろう。だがダンツは巧みな盾使いで豚鬼の攻撃を防ぎきった。

 素人が見れば三体の豚鬼にタコ殴りにされているように見えるがダンツは時に受け流し、時に回避し絶妙な盾捌きで豚鬼を引きつけつつダメージを最小限に留めている。

 そして、それをただ眺めているだけの二人ではない。


「やるなぁ! ダンツ!」


 そう叫びながら豚鬼の後ろへ回り込んだギレンはその隙だらけの首元めがけ大剣を振り抜いた。これであっけなく一体が死亡し、アイテムへと変化した。


「思っていた以上の腕だな」


 感心した口ぶりのカージュからは想像できない素早い動きで放たれた二本の矢は、寸分違わず豚鬼の両目へと突き刺さり、三本目の矢が喉へと刺さり機能を停止した。


「手伝うか?」

「これくらい大丈夫です!」


 一方、残った一体を相手しているダンツはギレンの援助を断り、一人で戦っている。

 本来盾士は敵を引きつけ味方を守る存在であるため、攻撃力、攻撃手段は少ない。だがダンツはあの『烈火』で攻撃するように強要されていたため、戦える盾士という一風変わった盾士になっていた。とは言ってもちまちま削る泥臭い戦い方だが。


 反撃(カウンター)盾擊(シールドバッシュ)をくり返すこと十数分、最後は気絶した豚鬼の首をへし折ることでやっと倒し終えた。


「ふぅ。お待たせしました」

「おう! いいガッツだったぜ!」

「ああ、盾士とは思えない戦い方だな」


 激戦とは遠いが長時間戦ってた割に息の一つ切れてないダンツにギレンは単純に褒め称え、カージュは普段との違いから若干引いた。

 だがこれでここでも十分戦えることが判明したのでこのまま先へ進むことにした。正し次からは一般の盾士として動くように言いつけてからだ。



 それから何度か戦った三人は休憩場所を見つけたこともあり、いったん休むことにした。

 一息ついたダンツは今までの戦闘を思い出し感心したようにしゃべり出した。


「それにしてもお二人ともすごいですね。ギレンさんはほぼ一撃だし、カージュさんはその場を動かずに正確に敵を無力化させてる。本当にすごいです」

「ダンツ。それはこちらの台詞だ。俺が矢を射る時に声を掛けずとも射線から外れるし、ギレンとの連携も合っている。正直かなり驚いている」

「それは俺も思ったぜ。ダンツがいい具合に敵の妨害をしてくれる上に俺が攻撃するときは事前に動いてくれる。かなり戦いやすかった」

「いやぁそれほどでもないですよ。前のパーティーでは皆が好き勝手に攻撃するから、僕から避けないと危なくって。だから自然と周りを見るようになったんです」


 何でもないことのように言うダンツに二人はその域に達していることに感心し、当の本人は今まで戦闘で褒められることがなかったから満更でもない表情をしている。


「そんなことより! お二人の強さは絶対ソータ達より上ですよ。それなのに何でBランクのままなんですか?」

「あぁーそりゃ、なぁ」

「あいつらが、倒せないからな」

「あいつら?」


 ダンツの純粋な疑問にギレンは苦虫を噛み潰したような顔をし、カージュもまたどこか悔しそうな雰囲気を出しつつ応えた。


「ランクの昇格には各ダンジョンの特定の階層を突破しなければならない。まぁそれは君も知ってるだろ」

「そうですね。当時の僕達は無我夢中で進めるところまで進んでいたらAランクになってたんでどの階層なのかは知らないですが」

「まぁそれでよ。BからAランクになるにはあいつらの階層を突破しなきゃならねぇんだよ」

「その、お二人が倒せないようなあいつらっていうのは何なんですか?」

「倒せねぇ訳じゃねぇんだが」

「あいつらは、骸骨将軍(スケルトンジェネラル)率いる不死者(アンデッド)集団だ」


 ギレン達は今まで三度、この階層に挑んだ。

 一度目はBランクになってすぐ。勢いそのままに骸骨将軍共に挑み、即座に諦め離脱した。二度目はしっかり準備と対策をこなし挑んだがやはり倒せずに転移のアイテムを使い助かった。三度目はBランクになりしばらくした後、力を更に高め挑んだ。しかしまた敗走した。それも未だに敵を追い詰めるに至らずに。それからは骸骨将軍には挑まず、Bランクとしてギルドに重宝される冒険者になった。

 だが二人は、好機があれば今でも骸骨将軍共を倒そうと虎視眈々と狙ってもいた。


「うーん。言われてみれば不死者のボスみたいなのと戦った記憶があります。でもそんなに強かったかなぁ?」

「あいつらは個々の強さはそこまでじゃねえんだよ。ただ数が多くてな。カージュと二人じゃ手が足りねぇんだよ」

「速攻で骸骨将軍を倒そうともしたんだが、あいつは意外と頭がいい。骸骨将軍だけを狙うとひたすら防御に回り、他の不死者が来るまでひたすら防御に徹するんだ。結局、間に合わずに乱戦になってしまった」

「そうなんですか」

「本当は周りの不死者を倒してから骸骨将軍をぶっ潰せばいいんだがなぁ」

「あいつらは定期的に増えていくからそうもいかんのだ。詰まるところ手が足りない」

「なるほど」


 自分の時はどうだったのか、とダンツはふと過去のことを思い返していた。

 そんなダンツの思考を読み取ったわけではないが、カージュは一つの疑問を投げかけた。


「正直に応えてほしいんだが。ダンツは骸骨将軍に苦戦したか?」

「うーんと。正直、苦戦した記憶はないです。元のパーティーは殲滅力だけはありましたから。それを踏まえても敵が強かったという印象はありません」

「そうか……」

「なんだかんだ言いつつも、Aランクのパーティーはダテじゃねぇつうことか」


 カージュの呟きに続いたギレンの言葉に若干のいたたまらなさがあるダンツだったが、次に出たカージュの言葉にギレンまでもが驚いた。


「ものは試しに、明日この三人で骸骨将軍に挑んでみないか?」

「えぇ!? 三人でですか!?」

「何だよカージュ。策でもあるのか?」

「策はない。やるのは正攻法だ」

「でも三人じゃ人手が足りないんじゃないですか」

「俺もそう思ったんだが、ダンツが想像以上に優秀だからなんとかなるのではと思っている」

「うむ」

「僕ですか!?」

「作戦という程でもないが俺の考えはこうだ」


 そのカージュの話を聞いたギレンは次第に犬歯をむき出しにし、ダンツは不安そうな顔をしている。


「そうだな。ダンツならなんとかなりそうだな!」

「ああ。やることは至極単純だ。だがこれにはダンツ、君が要になっている。やってくれるか」

「えっと、あの取り巻きの不死者程度なら、大丈夫だと思いますけど」

「なら決まりだ。頼むぞ」

「は、はい!」

「おっしゃあ! 今度こそぶった切ってやるぜ!」


 不安が残るダンツとは反対に、ギレン、そしてカージュの瞳には骸骨将軍の討伐という長年の野望がギラギラと燃え上がっていた。


~~~~~~~~


 その翌日。件の階層までやってきた三人はそれぞれの覚悟を秘め、骸骨将軍が出る広場の扉の前に立っていた。

 一人は倒し先に進むことだけを。一人は正確に仕留め、万が一の時は皆で生き残ることを。新たな一人は二人の期待に応えることを。


「二人とも準備はいいか」

「おう」

「はい」

「なら。行こう」


 カージュの宣言と共に、ギレンが扉を開け、ダンツが先行した。

 広場に待ち受けていたのは変わるはずもなく、骸骨将軍と二十近くの腐体(ゾンビ)骨体(スケルトン)からなる不死者の戦士達だ。

 骸骨将軍は盾に剣、それに鎧とまさに将軍と呼ぶに相応しい装備をしている。周りにいる不死者も鎧はないが同じ装備の者が多く、中には戦斧や棍棒を持った者もいる。遠距離攻撃がいないのはこの階層の特徴の一つだ。


 それらはダンツが一定のラインを超えると一斉に動き出した。

 同時に、ダンツが声を上げ、不死者達の注意を奪い惹きつけた。


「不死者共! こっちへ来い!」

「「「ウヴァァアア」」」

「「「カタカタカタ」」」


 狙い通りに骸骨将軍以外の不死者がダンツに狙いを定めた。いくら優秀な盾士といえど、この数で群がられたらひとたまりもない。だがダンツは一歩も引かずその大盾を構えた。


 するとダンツに向かっていた数体の腐体が突如転倒した。よく見ると足に矢が刺さったために転倒したようだ。やったのは言わずもがなカージュだ。

 そして転倒した腐体は後続の不死者をさらに転ばせ、あげく踏まれボロボロになり、歩くのがやっとという状態にまでなっている。


 その間にも向かってくる不死者は数か減ったことからダンツのみでも相手取ることができ、その上で彼の特徴でもある盾士としての攻撃でダメージを蓄積させていく。

 そこへカージュが正確に矢を放ち、各個撃破し確実に数を減らしていく。時にはダンツの様子を見て回復薬を振りかけたりもしている。


 一方ギレンは、カージュが一射目を放つと同時に飛び出し、不死者達を迂回して、骸骨将軍へと斬りかかった。


「おぉっらぁ!!」

「ガガッ」


 勢いそのままに薙ぎ払った斬擊を、骸骨将軍は盾を構え後方に飛び退くことで威力を最小限に留めた。

 だがギレンはそんなことお構いなしに次から次へと攻撃を繰り出す。

 骸骨将軍は防御に専念しているが、止まることのない猛攻に盾が先に悲鳴を上げた。ギレンの重い一撃を何十回も受けた盾は次第に砕けていき、今ではもう盾としての役割は果たせなくなっていた。ここで骸骨将軍が盾を捨てると、ギレンへ剣を向けた。


「さあ! ここからが本番だぁ!」

「カカタッ」


 元々骸骨将軍の厄介さにはその手下の多さにあった。何をするにしても邪魔でしかない不死者をどうにかして初めて骸骨将軍を相手に出来る。

 これはギルドからも言われている正攻法だが実際にやってみると、少人数でしか入れない洞窟ダンジョンと数の暴力である不死者とが噛み合い、かなりの高難易度となっている。


 カージュは当初、ダンツをAランク相当の盾士としての見ており、ダンツを盾にギレンと二人で不死者を減らし、ある程度の数に減ったら骸骨将軍に向かう考えを薄らと計っていた。

 しかし蓋を開けてみれば、ダンツは盾士でありながら戦士のようなことも出来るではないか。そこでカージュは計画の変更し、ダンツに左右されるがより効果的で攻撃的な方法を考え、二人に話した。


 その方法がこれだ。


 骸骨将軍が初めは動かないことを知っていたカージュは、真っ先に手下の全てをダンツに向かわせ、その間にギレンを骸骨将軍へと向かわせると言う完全に分断させる作戦だ。

 これは数の問題でダンツに相当な負荷がかかるが、カージュが出来るだけ数を減らすこととダンツ自身の大丈夫と言う発言から実行した。いざやってみれば転倒の連鎖で予想よりも楽に戦闘を行えている。

 ギレンのことは一対一でなら骸骨将軍に遅れは取らないと信頼していたので存分に暴れろ、とだけ言っていた。


 そしてその作戦通りにことが進んだこの戦いも、もうじき終わろうとしていた。


「ほらこっちだこっちだ!」

「「ウヴァァ」」

「シッ!」


 あれからダンツは、ひたすら不死者を惹きつけ未だに一体も骸骨将軍の方へ向かわせずに、ついには残り二体までに減らしていた。

 とどめを刺したのはほぼカージュだが、それはダンツの少なくない攻撃と不死者の的になると言う補助があったからこそ安定した射撃が出来ていた。

 そしてまた一体を倒しきった。もはや不死者が再度出現するよりも早く倒すことが出来ている。

 だからといって二人が骸骨将軍の元へ行くことはしなかった。なぜなら、


「おらおら! どうした! こんなもんかよ!」

「カタ……カ……タ……」


 ギレンに手助けなど必要としなかったからだ。


 盾を捨てた骸骨将軍と対峙したギレンであったが、いざ戦ってみると結局は剣で防御することがほとんどだった。稀に隙を突いてくるような攻撃もしてくるがそれ以外は防御の一点張りで、気づいたギレンは段々とイラつき、口調が荒くなっていた。


「おら! これで終いだ!」

「カ……カ……」


 だが盾で防げなかったものが剣で何度も防げるはずもなく、ギレンは骸骨将軍の剣を叩き折った。

 そして今までの思いを込めた一撃で骸骨将軍を討ち取った。

 それと同時にカージュとダンツも最後に残った一体を倒した。

 

 すると広場の中央に宝箱が現れた。それを見たギレンは雄叫びを上げ、カージュも内心で喜び、ダンツはほっと一息ついた。


「やったぜカージュ! ダンツもすげぇぜ!」

「ああ長かった、やっとだ。これで俺達はさらなる奥地へ行くことが出来る。ダンツ、本当に感謝する」

「いえそんな。うまく行って良かったです。それよりも宝箱開けましょう!」

「そうだな! ダンツ、開けてくれ」

「えっ、僕でいいんですか?」

「当然だ。ダンツがいなければ俺達は未だ勝てないままだ。その宝箱は君が開けるべきだ」

「……わかりました。では!」


 宝箱の中身は、大盾だった。それも見ただけで一級品とわかるほどの。


「盾か。ならそれはお前のだな」

「僕がもらっちゃっていいんですか?」

「カージュも言ったがお前がいたから勝てたんだ。だから何が出てもお前にやるつもりだったぜ」

「そうだな。都合よく盾だったんだから君にちょうどいいだろ」

「ギレンさん、カージュさん。ありがとうございます! うぅ」


 今まで『烈火』にいたダンツは、これほど頼られることも、気を遣ってくれることも、褒められることもなかった。ましてや宝箱を開けその中身を貰ったことなど一度も。

 それ故、強敵との戦闘後と言うことも重なり、心を動かされ涙ぐんでしまった。

 それを見たギレンとカージュはギョッとしたが、すぐに察して、彼が落ち着くのを待ってからダンジョンを後にした。


~~~~~~~~


 ダンジョンから戻ってきたギレン達は上機嫌のままギルドに出向き、受付へと顔を出した。

 そこにいた馴染みの受付嬢はギレン達と共にいるダンツを見ると少し首をかしげたが、常連であるギレンに愛想良く声を掛けた。


「お疲れ様です、ギレンさん。今日の成果の確認ですか?」

「おうとも! 今日の成果はこれだ。よく確認してくれ!」

「わかりました。確認いたします。少々お待ちください」


 後ろにあるテーブルへと向かった受付嬢は、渡された収納袋の中身を手際よく取り出し何があるかを確認していく。


豚鬼(オーク)のお肉に岩竜蜥蜴(ロックドラゴンモドキ)の皮に吸血大蝙蝠(ブラッドビッグバット)の牙、それとこれは石人形(ゴーレム)の核、などなどと。ギレンさん今日は随分奥まで行きましたね」


 確認を終えた受付嬢が振り返りそう言うと、ギレンの横にいたカージュが一つの袋を出して受付嬢に付け加えた。


「これも頼む」

「あっはい。えーっと、あれ? これなんだっけ? あのー受付長、これってなんでしたっけ?」


 カージュが渡した袋の中身を見た受付嬢は、それが何だかわからずにまとめ役である上司の男へ聞きに行った。

 受付嬢が持ってきたものを見た上司は、ガタッと立ち上がるとそれを持ってきた人物――ギレンとカージュを見ると彼らの元までやってきて、嬉しそうに彼らの肩を叩いた。


「ギレン! カージュ! 君達とうとうやったんだな!」

「おうよ! ぶった切ってやったぜ!」

「ようやくな。それもこれも彼がパーティーに加わってくれたおかげだ」

「ついにいい仲間と巡り会えたのか。ってあの子はダンツじゃないか! 烈火から追放されたと聞いたが?」

「だから俺達が拾ったって訳だ!」

「もうギレンさん! 聞こえてますからね!」

「まぁ、そういうことだ」


 後ろの席で待っていたダンツとギレン達を見比べた受付長は驚いた表情を浮かべたが、本当にいい拾いものをした、と呟き、今度は真面目にだが喜びが滲んだ声で二人に告げた。


「おめでとうギレン、カージュ。今日から君達はAランクだ!」

「おう!」

「ああ!」

「二人ともおめでとうございます!」


 新たなるAランク冒険者の誕生にその場にいた者は皆、祝福の声を上げた。ギレンとカージュのことを知る古株などは涙ぐむ者まで出るほどだ。


 だがそんな空気の中、バタンと強く扉を開く音が響いた。

 そして現れたのは機嫌が悪そうな騎士を筆頭にした五人組パーティー、『烈火』であった。

 ダンツが開いた穴に新たに剣士を加えた烈火は空気を読まず、ずかずかと入ってきた。そのうちの一人、僧侶がダンツに気づくとあっ、と声をもらし、そこからソータにまで気づかれてしまった。


「あぁ? ダンツ! てめぇまだこんなとこにいたのかよ! 俺は今機嫌が悪ぃんだよ。使えねぇてめぇを見てるとイライラする! 目障りだからさっさとこの街から出て行け!」

『……』

「くそ! 何であいつが抜けた途端……ブツブツ……あいつのお陰だとでも……」


 いきなり現れてのこの物言いに、この場にいたほとんどの人はもちろん言われた本人であるダンツまでもが絶句した。


 だがその言葉を聞いて、黙っていられない者が二人ほどいた。


「おい。今のセリフ、ちぃっとばっかし聞き捨てならねぇなぁ」

「同感だ。誰が使えない奴だって?」


 ギレンとカージュである。


「あぁ? 何だよ。あんたらには関係ねぇだろ」

「大ありだ。ダンツは俺達の仲間だ」

「カージュさん……!」

「そうとも。共に過ごした時間は少ねぇが、共に敵を倒した頼れる仲間だ!」

「ギレンさん……!」

「はぁ? あいつにそんな力ある分けねぇだろ」


 そんなことあるわけない、とまるで自分に言い聞かせるようにもう一度言ったソータは、ハッとするとたちまち人を馬鹿にしたように喋り出した。


「ははーん、そういう事か。あんたらもどうせ低ランクなんだろ。そんな奴から見れば少しはあいつも強く見えるかもしれねぇが、俺が言ってるような強さはレベルが違うんだよ! いいから、わかったらさっさとそこをどけ!」

「はぁ。わかってねぇのはお前の方だ。仕方ねぇ、ならその体に教えてやるよ」

「その方が良さそうだ。こういう奴は一度はっきりさせといた方がいい」

「な、何をする気だ!」

「何ってそりゃ決闘だよ。おいギルマス! 聞いてんだろ、ちょっくら訓練場借りるぞ」

「はぁ本当にお前は。昇格祝いだ、今回だけだぞ」


 そう言ったのは二階からこちらを見ていた一人の男、ギルドマスターだ。そのまま彼が下に降りてくると、ギルドの役員に二、三告げてからギルドの奥にある訓練場へ向かった。

 それに続くようにギレンとカージュは歩き出した。


「おい、ダンツも行くぞ」

「ちょっとギレン! 決闘って、本当にやるんですか」

「当然だ」

「カージュさんまで」

「おいおい、本当に俺達と闘おうってのか? 俺達が誰だかわかってんのか」

「ああ知ってるよ。それより来ねぇのか」

「逃げるなら今のうちだぞ。小僧共よ」

「誰が逃げるか! お前ら行くぞ!」


 訓練場にやってきた面々を見たギルマスは自分が審判をすると言い、ルールの説明をした。曰く、使う武器は切れ味のないもので死ななければ何でもいい、と。


「はぁ、なんでこんなことに」

「何落ち込んでんだよ! あいつをボコれるいい機会じゃねぇか。今までの恨み倍返しにして来りゃいいんだよ!」

「それが出来たらこんな落ち込んでいませんって」

「本当に自身がねぇなぁ」

「なぁ、ダンツよ」


 ダンツのうじうじした態度にギレンはどうしたもんか、と頭をかいたが、カージュの底冷えするような声に肝を冷やした。こいつがここまで怒っていたのか、と。


「君は彼らのように強くはないかもしれない。だがそれは剣士や戦士としての強さだ。君は盾士だ。ならば盾士としての強さを見せつけてやればいい。わかったか」

「でも、それじゃあ」

「ワカッタカ」

「うぅ、はい……」


 有無を言わせないその雰囲気に涙目になりかけたダンツだが、ふっと重い空気が和らぐと、今と打って変わって諭すような口調でカージュが言った。


「君の盾士としての力は今日見させてもらった。驚くくらい優秀だ。その力を同じように発揮できれば何の心配もない。君は盾士だ。相手の攻撃を防いでくれればいい。相手を倒すのは俺達の役目だ」

「おうよ。お前が厄介なのを防いでる間に俺らがぶっ飛ばしてくるからそんな心配すんなよ!」

「そう、ですね。わかりました。頑張ります」

「頼りにしてるぞ」

「その意気だ!」

「はい!」

「そこで話があるのだが……」



 一辺三十メートルほどもある訓練場にギレン達と『烈火』が対峙している。

 ピリピリとした空気の中、ギルマスが両者確認をすると、始め、と決闘の火蓋を切った。


 真っ先に動いたのはソータだ。

 一直線にダンツへと向かい、その高い速度のまま斬りかかった。同時に烈火の魔法使い――リディアと弓士――ソーニャもダンツに向け矢と魔法を放った。

 少し遅れて動き出したのは新しいメンバーの女剣士――アマンダもダンツへ向かい、僧侶――ナルナは即座に回復できるように身構えている。


 対するギレン達は宝箱から出た大盾を持ったダンツが数歩前に出ただけだ。ギレンとカージュはそれぞれの武器をゆったりと構えるだけで動く気配がない。


 それは横目に見ていたソータは、やはり二人は俺達の動きに対応すら出来ないような低ランクだ。ダンツを倒せばどうとでもなる。と考えそれもこの一斉攻撃で終わると思っていた。


 だが実際は、


「ふんっ!」

「なっ!?」


 その全てを防がれた。

 

 先行して飛んできた高速の矢は、盾を軽く当てるだけで弾き、高威力の火魔法は半歩ずれることで躱した。

 そこまではソータも予想は出来たが、続く自身の剣とアマンダの攻撃までも防がれたのは思いもしなかった。


 ダンツはソータの剣を盾を傾けることでその表面を滑らせ受け流し、盾を押し込むことでソータにプレッシャーを与えた。その隙にほぼ真横から繰り出されたアマンダの斬擊に即座に応戦してみせたダンツは、アマンダの剣を自身の剣で受け、そのまま押し返し斬りかかった。

 それを余裕を持って躱したアマンダだったが、顔には驚きの表情が浮かんでいた。いや、驚いているのはアマンダだけではなく烈火全員がその光景に驚いている。


「流石だぜ。油断してる相手とはいえあの攻めを全てやり過ごすんだからな」

「ああ。本当に優秀な盾士だ。だが騎士は別だが他の奴らの目が変わった。これからが本気だろ」

「ならそろそろ俺らも混じるか!」

「その方がいいだろう。俺も舐められたままでは癪だからな」


 そう結論づけた二人は動き出した。


 ギレンはソータ以上の速さでアマンダに接近し、今もダンツに斬りかかろうとしていたその剣に向かって、剣をぶち当てた。


「なっ! ぐぅ!」

「よお、相手になって貰うぜ!」


 油断していたアマンダは咄嗟に力を込め迎え撃ったが、そのあまりの威力に腕は痺れ、今に取りこぼしてしまいそうになっている。

 そんなアマンダにまるでアドバイスをするかのような口調でギレンは言った。


「どんな状況だろうと視野は広くしといた方がいいぜ。しかも今はダンツだけじゃなく俺達がいるってわかってんだからな」

「くっ! 言われなくても!」


 痺れがとれるまでたっぷり待っていたギレンにアマンダは、声を上げながら迫りかかった。


 その間にもソータの攻撃をダンツはひたすら耐えていた。だがダンツが防いでいるのはソータの剣だけで矢や魔法は一向にやってこない。なぜなら、


「シッ!」

「……!」

「ファイア……きゃあ!」


 カージュが二人の攻撃の手を防いでいるからだ。

 カージュは恐ろしいまでの速射性と命中精度を併せ持ち、ソーニャが矢を放とうとするとその腕を狙い、リディアが魔法の詠唱をしようとすると顔付近や後で治せるであろう腕や足の皮膚をギリギリで傷つけていた。

 端から見ればリディアへのやり方は酷いようにも見えるが、いくら矢尻がないからとはいえ、万が一重要な臓器を傷つけないためのカージュなりの優しさだ。


 とはいえこのままでは埒があかないと判断したカージュは、一度リディアへの攻撃の手を緩めた。それを好機だとみたリディアは即座に魔法を唱えるがそれが命取りになった。

 リディアは唱えるために立ち止まり、口を開いたそのときにはもう目の前に矢があった。


「リディアさん!」

「……えっ?」


 ナルナの呼びかけも虚しく、そのまま違わず頭に当たったリディアは、いい勢いで後ろに倒れ起き上がることはなかった。

 ナルナが回復を試みるが、おでこの傷は治っても気絶までは回復せず、結局リディアが最初に離脱した。


 本来ダンジョンになれている魔法使いは、移動しながらでも魔法が使えるが、今までダンツに守られ安全圏からしか魔法を使っていなかったリディアは、止まって使う癖が抜けず気持ちがはやるとその癖が出てしまっていた。

 それをめざとく見つけたカージュは、わざと誘い釣れたと見たら即座に矢を放ったというわけだ。


 実質一対一となったカージュとソーニャの勝負もすぐに終わった。

 今まで一歩も動かなかったカージュが突如走り出し、これに慌てたソーニャが矢を放つが見せつけるように飛来する矢を射貫き相殺した。

 そして瞬く間に接近し、矢をつがえたままの弓をソーニャの首に当てたところで、


「続けるか?」

「……降参します」


 彼女が降参した。


 ソーニャもまた今までダンツのお陰で敵に接近されたことがなかったため、この状況を打開するすべが思いつかず、降参するしかなかった。


 その頃になると、ギレンの方にも変化があった。

 あれからまるで稽古をつけるかのように、ギレンはアマンダをあしらっていた。そのせいでアマンダの腕の力が限界に達しようとしていた。

 剣で競り合ってはギレンの剣の重さに腕を痺らせ、まるで大木に向かっているような錯覚さえ感じていた。かと思ったらその巨体とは思えないほどの速度で動き、腕や足を剣で叩いてくる。

 その度にナルナはギレンに回復するように強要されていたので、アマンダだけでなく、魔力がなくなりかけているナルナまで倒れる寸前だった。


「も、もう……」

「何だよ、もうおしまいか。なら最後に取っておき見せてやるよ!」


 そう言って一歩下がったギレンは、剣を上段で構えたまま一度集中すると、目にも留まらぬ速さで剣を振り下ろした。


「キャ!」


 そのあまりの迫力、風圧にペタリと座り込んだアマンダが見たものは、振り下ろされ床すら傷つけたはずの剣が上段にあるというあり得ない光景だった。


「おっと大丈夫か? まぁ怪我してねぇから平気だろ」

「……」


 呆気にとられているアマンダにギレンが話しかけるが返事はなかった。彼女はただただ今の剣技を不思議に思い、同時に自分の未熟さを痛感した。


 ギレンがやったこの技は単純に振り下ろしてからまた切り上げただけだ。ただその速度が異常なほど速いだけに過ぎない。

 実際のダンジョンでは敵が多いときにギレンはよく使う。それもそのはず、この技は敵を倒すのではなく無力化するための技だからだ。

 人型の敵にはこの技で素早く両腕を切断して無力化し、獣型には尾や顔を傷つけ囲まれないようにするためにギレンが編み出したものだ。


 閑話休題。

 思わぬ成果でギレンは、アマンダだけでなくナルナまで無力化し、残るはソータだけになった。

 そのソータはというと、


「くそ! そんな盾に隠れてないで正々堂々と闘いやがれ!」

「ソータ。このやり方が僕の、盾士の闘い方だ!」

「くっ!」


 一切の攻撃が通らず焦っていた。

 ダンツとソータの攻防は試合開始からずっと変わっていない。

 ソータが素早く動こうがフェイントを入れようが渾身の力を込めようがダンツは盾で剣でと防ぎ、その壁を越えることは出来ていない。

 だがここで、周りをさっと見渡したダンツが口を開いた。


「……だけど、これ以上長引かせても時間の無駄だな」

「なんだとっ? ……!」


 そう言い放った途端に、守ってばっかだったダンツが剣で斬りかかった。

 突然のことで一瞬面食らったソータだが、即座に反応し左腕にある籠手型の小盾で防いだ。しかし、思っていたほどの威力は来ず、気にせずまた斬りかかろうとしたところに、ダンツの大きな盾が迫ってきていた。それも想定していたよりも近くで。


「うおっ!」


 思わず声を漏らしたが躱すことは出来た。何が起こったかすぐに思考したところにガシャンという音が響いた。見ると音のしたところにあったのは大盾だった。

 ダンツは剣をフェイントにして、盾での攻撃を仕掛けた。それも盾を押し出すだけでなく、手放し蹴りつけることで当たっていれば、相手を転倒させられるほどの一撃を放った。だが実際は距離が開き、盾を失っただけだ。


「ははっ! どうしたダンツ! 降参でもするのか!」

「……いや、もう十分()()からこの闘いを終わらせようと思っただけだよ」

「はっ! あの盾さえなければこの剣でもお前を倒せる! お望み通り一瞬で終わらせてやるよ!」


 試合用の剣ではあの盾に弾かれることを散々身をもって味わったソータは、これで実力を発揮できると言わんばかりに今まで以上の速度でダンツに襲いかかった。


「なっ!」

「……」


 だがそれも半身をずらすことで躱され、すれ違いざまに腹部を強打された。

 ありえない、と思い再度迫り、今度はフェイントを混ぜて剣を振るった。

 しかし、それも通用せず今度は足に剣を打ち付けられた。


「ありゃもう稽古だな」

「お前が言うのか。でもまあ、長年見ていたとはいえあそこまで対応できるのは才能だな。本当にいい盾士だ」

「だな! 盾がないのに盾士として動いてるぜ! それにしてもあのソータって奴は本当にAランクなのか?」

「一応あれでもAランクだ。剣の威力に速さ、反応の良さはなかなかのもんだ。だが今は冷静さを欠いてる上に相手が悪すぎる。相性で言えば最悪だろうな」

「自分が見えてねぇようじゃ訳ねぇぜ」

「同感だ」


 ダンツの手助けにも行かず二人のやりとりを見ていたギレン達は、好き好きにものを言っている。自分達の役目は終わったとばかりに脱力したままで。

 そして、遂に二人の闘いの幕が下りようとしていた。


 何度やっても躱されその度に剣を打ち付けられたソータは、訳もわからずただ焦りと怒りのままに攻撃をくり返していた。

 しかし、僅かに逸らす程度で躱せているダンツに当たるはずがなかった。


「正直、ソータはもっと凄い奴だと思っていたよ」

「あぁ!? そりゃどういうことだよ!」

「いや。僕の視野が広がったってことだよ」

「くそが、気に食わねぇ! どいつもこいつもダンツがいた方が、ダンツがダンツがって! お前みたいな防いでばっかで敵も倒せない奴はいらねぇんだよ!!」


 一頻り(ひとしきり)叫んだソータは、刺突の構えで突っ込んできた。この剣でも大怪我を与えられると考えての攻撃だ。

 対するダンツは、剣を立て剣の腹に左手を添えた。


 ソータが放った突きをダンツは、剣の腹で受けた瞬間に腕を引き勢いを殺すとすぐさま剣を押し返した。

 刺突を放ったために腕も伸びきっていたソータは、その反動をもろに受け、尚も消せない力はダメージを負ったソータの手から剣を弾き飛ばした。

 そのやり方はまさに盾士としてのやり方だった。


「勝負あり! 勝者はギレンのパーティーだ!」


 弾き飛んだ剣がカランと音を立てたのを合図にギルマスが終わりを告げた。


「ギレンさんカージュさん! 僕、やりました! 彼らに、ソータに勝ったんです!」

「しっかり見てたぜ! 流石俺達の盾士だ!」

「君の強さを見せつけてもらったよ。盾士らしい闘いだった」

「ありがとうございます!」


 喜ぶダンツの顔には、今朝まであった後ろめたさは消え去り、歓喜と自信に満ちあふれていた。

 それを見たギレンとカージュも自分のことのように喜び、ダンツが一つ成長したことを感じ取り、ダンツをこれでもかと褒め殺していた。

 褒められたことに慣れていたいのはそのままのようだった。


 一方負けたソータは荒れていた。パーティーが負けたことよりも自分がダンツに負けたことの方が信じられず、ひたすらに恨み節を吐いていた。


「くそっ! こんなの無効だ! こんな剣じゃなきゃ俺が勝ってたんだ!」

「ソータさん……」

「忌々しい! おい、もうこんなところにいるだけ無駄だ! 帰るぞ!」

「あっ、待ってください、ソータさん!」

「俺は認めないぞ。ダンジョンでなら俺の方が強いんだ。そうだ、ダンジョンでなら……! 絶対見返してやる。それまで覚えておけよ、ダンツ!」


 そんな呪詛のようなセリフは、浮かれている彼らには届かなかった。


~~~~~~~~


 『烈火』との決闘から十数日が過ぎた。

 その間にギレン達三人は順調にダンジョンを進み、依頼をこなしていた。

 『烈火』はというとAランクでの失敗が続き降格、更にメンバーが抜け、実質烈火の解散と言う噂が広がっていた。


 そんな中、新たにある噂が囁かれていた。


「『メタリオン』から僧侶が追放されたってのは本当なのか?」

「どうやら本当みたいだ。何でも凄腕の僧侶が入ったとかで、今までの僧侶は追い出されたみたいだ」

「あー、あそこは元々実力主義のパーティーでしたからね。でもあの僧侶の人って気は弱いけど腕は確かじゃなかったでしたっけ?」

「俺もそう思うぜ。前に一度回復してもらったときがあったが一瞬で痛みがなくなった記憶があるぜ」

「そうだな。俺も彼女は優秀だと思う。そこでた」


 そこまで口にしたカージュは、ギレンとダンツに視線を送った。


「俺はその僧侶を誘ってみようと思う」


 ギレンはニヤリと笑い、ダンツは一瞬驚きすぐに目を輝かせた。それを見たカージュの顔もまた笑っていることだろう。




 これは後に追放された者達が集い出来た最強のパーティー、『エグザイル』の初めの一幕である。

 追放ものって本当に多いですよね(かくいう私もそうですが)。強い人って周りがほっとかないと思います。

 それはさておき、最後までお読みいただき誠にありがとうございました。

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