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混同する狂気  作者: VV
6/14

1/opening・peaceful:5

 時は放課後。場所は学校の廊下。それも一階の昇降口付近なので、用事があって今帰ろうとしている生徒以外の人影はない。

 そんな空虚な空間にポツンと人が一人立っていた。紅の夕日を身に浴びながら――戸宮有我は立っていた。

 窓から差し込む赤い光は廊下の壁と言う壁に反射し、見渡す限りを紅く染める。

 その風景が少しきれいに感じられて、夕日と組み合わせればどんな物でも美しくなるのかと少しばかり戸宮は考えた。

 先述のとおり戸宮は今昇降口付近にいる。だが別に家に帰ろうとしているわけではない。それを示すかのように荷物は何もなく、走れば結構速く走れそうなほど軽装である。

「下校開始時刻まであと十分程度か……あっー、何しようかな」

 戸宮は美子都を待っている。彼女は帰宅部である戸宮とは違い、総合音楽部に所属している。総合音楽部というのは、吹奏楽部、管弦楽部、室内楽部などを一括したもので、小分けにされる部費をちょっとでもいいから削減しようとした結果、誕生したと言うのは生徒会にいる知り合いから戸宮が直接聞いた話だ。

 さて、そういった学校教育の裏の事情から話を戻すと、そんな総合音楽部の有望な新人が彼女、綾瀬美子都なのだ。

 戸宮は彼女とは違う中学校に通っていたため、彼女が昔からその分野に秀でていたのかは分からない。なんせまだ会って二ヶ月が経つか経たないかなのだから。

 そう考えて、戸宮は彼女とまだ一ヶ月程度しか付き合っていないことに気づく。初対面が二ヶ月前で告白にOKサインを出したのが一ヶ月前。

 それなのに、何故か彼女に長年付き添った幼馴染のような感覚を抱いていた。

 ……戸宮にとって恋人関係と言うのは何も彼女が初めてではない。

 戸宮は中学三年生のとき、いかにも今時という風貌の同級生に告白され付き合ったことがある。戸宮自身も少しばかり惹かれていた、元気でよく喋る女子。

 だがそれは幻想だったのか。付き合ってみると人の悪口を四六時中と言ってもいいほど愚痴り、理解できない場面で大爆笑する。

 これが近づいて初めて分かる真実ってやつか、と戸宮はその時思った。

 率直に言えば嫌気を感じていた。いつ別れようかも、別れの言葉も考えていた。ただ自分に合うといつも笑顔になる彼女を見ると、その言葉が出てこなかった。

 しかし、いつの世も恋愛の終わりは意外なところから。戸宮はその彼女に「嫌いになった」の一言でフラれた。

 戸宮も男だ。もう終わらしたかった、嫌いになっていたと言っても、やっぱり面と向かってそう言われてみると傷ついた。

 それから一年。女性に懲りていた戸宮は告白されるたびに断った。本音を言うなら面倒だからだが、「ほかに好きな人がいるからと」嘘を付いて。

 中には自分のフレンドネットワークを駆使して一体戸宮君が好きなのは誰? と探している奴もいた。

 だがその努力は徒労に過ぎない。元々戸宮が好きな女性などその時点ではいなかったのだから。

 それからまた一年。――戸宮有我は綾瀬美子都と出会う。

 そこまで考えて……自分と彼女の初対面はいつだったのかと、気になって戸宮は何となく考え出した。

 頭の中で遡っていく時間。彼女との初デート、初めて家に招かれたとき、そういった彼女との様々な思い出が交差し、目的の場面を思い出したところで、

「おう、戸宮。今日も綾瀬を待ってるのか? ――まったくご苦労だな、戸宮セン・パイ」

 彼女を下校時刻まで待つと言うのが場カップルのすることに見えたのか、嘲笑するかのように戸宮をセンパイと呼ぶ先輩――褐色の男性、黒峰藤吾が目の前に立っていた。

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