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大きく開かれた窓。そこから見える景色はビルや住宅街が立ち並ぶ、お世辞でも美しいとはいえないモノだったが、それでも壮観で戸宮の心に少しばかり余裕を持たせた。
ここは戸宮有我の目的地。遠峯市立横波高等学校。全校生徒八百九十六人の何の変哲もない学校。
そこの2年D組窓際の列前から三番目の机に戸宮は突っ伏していた。
右手にはついに買ってしまったペットボトルの水。そのおかげで、戸宮有我は今ここに生存することができている。
教室には楽しそうに会話をする同級生たちの姿。皆、ホームルームまでのわずかな時間を楽しそうに過ごしている。
それに比べて自分は、と戸宮は思う。俗に言う死んだ魚のような目に、両手足は暖簾のように垂れ下がり。一日の学校生活始まりの朝に、重労働から開放された作業員のような表情を浮かべる自分。
それらが全て自業自得だと分かっていても、
「不幸だ。ものすっごい不幸だ」
と、戸宮は呟かずにはいられないのであった。
そんな状態だったからだろう。「戸宮センパーイ!」と明らかに戸宮を呼んでる教室の外からの声に気づかない。
何度呼んでも反応しない戸宮にムカッときたのか、声の主――女子生徒はは眉間に皺を寄せる。
何時までも女子生徒が教室の外から叫んでいたのは戸宮自身が女子生徒に「俺を呼ぶときは教室に入らないようにしてくれよ!」と何度も行っていたからだが、肝心の本人は呼びかけに応じない。
怒りと共に呆れ果てた女子生徒は、約束を破り教室の中へ歩んでいき――戸宮の机の前で足を止める。
「はっ?」
突然机の前に立ち止まった誰か。戸宮はそれが自分が蒸し続けた人物だとは思いもせず、その誰かを確認しようと顔を上げ、
「センパイのバカ!」
右方向から襲ってきた平手に、力いっぱい顔を叩かれるのであった。