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混同する狂気  作者: VV
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 1/opening・peaceful


 炎天下の七月。真夏の太陽は行きかう人々の活動意欲を削ぎ、ジリジリと熱せられたコンクリートの地面はお好み焼き屋の鉄板みたいな高温を放っている。

 夏特有の纏わりつくような湿気は身体中を覆い、汗にぬれたシャツは肌へ密着し地味な不快感を人々に与える。

 夏というのは半数の人々に「運動しよう!」とか思わせる季節なのだが、もう半数の人々には「動きたくない」と思わせる好みの分かれる季節。

 そんな直射日光の雨が降り注ぐ十字路の歩道を、少年――戸宮有我は歩いていた。

髪はジャパニーズスタンダードの黒色で、瞳の色は木製家具のようなブラウン。体系は中肉中背という、ごく普通の高校男子。

 そんな彼の横を通り過ぎていくバス。車内には戸宮と同年代と思われる少年少女が、これまた戸宮と同じ高校の制服を着用している。

戸宮の家から学校までの間にバス停はある。それも徒歩一分という短い時間で到着できるバス停。バスに乗り遅れることなど到底考えらない。

 しかし戸宮有我は歩いている、この茹だるような暑さの中を。

「はぁー。後悔してる。平均気温三十度を舐めていた自分が真に恥ずかしいです。……たぶん、俺学校に着くまでに死ぬわ」

 遠慮なく降り注ぐ日光を身に浴び、汗だくになりながらも戸宮はこんなことを呟く。

 なぜこんな事になったかというと、それは一時間十分前の戸宮有我自身の決断に起因する。


「今日は徒歩で通学するか!」


 別に意味もなくこんな馬鹿げた事を言い出したわけではなかった。

 時期は七月。学生たちがにわかに騒ぎ始める夏休み前。

 高校生ともなれば活動範囲も広がり、夏休みというのは散財の時期。お財布事情が厳しくなる四十日間。

 戸宮の学校は校則でバイトを禁止しており、戸宮にとって毎月一万円のお小遣いは備えであり生命線であり、とっても大事にしなければならない。

 ……、はずだったのだが。

 久しく出会った中学の旧友。仲のよい友人の誕生日パーティーなど、予想外のの出費イベントに財布の紐は緩みまくりで野口英世は出て行くばかり。

そんなこんなで七月八日現時点で残金二千円也。

「……まずい」

 戸宮がほとんど空っぽになった殺風景な自らの財布を見て発した一言はそれだった。

……とにかく出費を減らすっきゃない!

そう決意した戸宮は、衝動買いをやめ友の誘いは大事なもの意外出来るだけ断り、少しずつ削れる出費を削ってきた。

 そんな是が非でも出費を抑えたい状態で見た天気予報。連日、平均気温は三十五度越えを記録していたのだが……今日びは珍しく三十度。

 五度程度の気温の違いなど実際問題大したことはない。それは五倍カレーと十倍カレーを比べるようなもので、少々違っていても暑いのに変わりはない。

 それなのに徒歩通学するという決断をした戸宮有我。

その明らかに間違いな決断が原因で、戸宮は望んでもいないのに汗だくウォーキングを満喫するハメになったのだ。

 家から学校までは直線距離で約二キロ。今日は歩くのだからと時間は余裕たっぷりにとってあるので大丈夫なのだが、体力が持つかどうかが問題。

 そんな虫の息の体力を補給するために、時折目につく自動販売機でよく麦茶を代表とする冷えた飲み物を買ってもいいのだが、それではバス代をケチった意味があまりなくなってしまう。

 そんなこんなで戸宮有我は若干(というよりほぼ八割)自業自得な登校をしているのであった。

「こんな状況になるとよく分かる。たかが数百円で乗れるバスのありがたみが」

 そう呟きながらそのたった数百円を節約するためにこんな馬鹿なことをしているのはどこのどいつなんだ、と戸宮は思う。

 と言っても希望がないわけではなく、残りの道のりは全体の約半分。その事に僅かにだが希望を持ちながら彼は歩き続けていた。

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