幕間1
幕間1
話し声が、少年の耳に飛び込んできた。
楽しそうに会話をする仲のよさそうな男女の声。一人の声は言葉のスピードも声の大きさも怒った小学生みたいで、どこか幼稚。もう一人の声は静かで、しかし威圧感のある諭すような感じだ、と少年は思った。
だがそこまで考えて――なんて些細な事に自分は思考を裂いているのだと、少年は自身に対してため息をついた。
少年は本来意識を集中すべき前方の世界へ目を向けた。
紅い世界。今日の夕方、夕日に染められたであろうこの場所は、それより濃い深紅によって着色されていた。
絵の具にしては水っぽいそれは……奇妙な形をした物体を中心に広がっている。棒のようなもの四本に加え、ボール型の物体が生えているそれは、
紛れもない、正真正銘人の死体だった。
「ああ……気持ちいィィィ!」
血の匂いを嗅いで少年は歓喜する。さながら、獲物にありついたライオンのように。さながら、蛙を捕食した際の蛇のように。
ただ、ある一部分の違いのみでそれらと少年は似て非なる存在となる。
――それは目的。
もちろん生存のためかどうかも、含まれる。だがそんなの瑣末な問題だ。
一般的に、ライオンや蛇は命を奪い食らう事を目的とし行動する。
それに比べて、少年は命を奪った後のモノにこそ興味がある。彼ら動物にとっては気にもならないような、赤色の液体。
それが少年の行動原理であり、欲していた先にあったもの。
別に、血が見たければ自分のでもいい。現に少年の腕は、生命活動を出来る限り長続きさせると言う実際の使命を放棄し、目の前に転がっている物体を突き刺したナイフで自らさえも絶命させようとしている。
しかし――それは少年の困ると言う意思に遮られていた。
理由は簡単だ。もしここで死んでしまったら、他の血液が見れなくなってしまう。
そう、犯人だということがバレてしまって、殺人のあと自殺した奇妙な人間として記録されてしまうからとか、正常な理由ではない。
――否。元来、血液が見たいなどと言うモノに、まともな者などいやしない。
少年は静かに誰かも知れない死体へと、おぼつかない足取りで歩いていく。一歩また一歩と血の海へと侵入する。その度に水溜りを踏んだ時のような音が空気を振動させる。
そして死体を前にするとしゃがみ込み、自らが作った傷口へと指を差し込んでいく。ぐちゅりぐちゅりと、何かがかき混ぜられるような音がする。
――少年はその常人なら胃の中が空っぽになるまで吐き続けてしまうような音に、聞き入っていた。
異常。それ以外に言葉はない。どこで間違ったのか。どこでヒトの道を踏み外したのか。それを知り得ることは出来ない。
ただこれと関わったが最後。常人は侵されていく。この混ざるような狂気に。
――そう、狂気は混同する。自らの信念と。