「契約破棄」
遅くなりました。もうちょい頻度増やせれば増やします。評価ありがとうございます
親父はテレビドラマ作家、だった。
10年前のある人気テレビのドラマが当たってそれ以降数年、そのテレビ局のその時間は
親父の脚本のドラマで埋まっていた。そのつてでその後はテレビ脚本家から評論家といった
よくわからない肩書で食っていけるようになった。
そもそもそういう職業になりたかった親父はそういうたぐいのものも好きで
書斎は国内外問わずテレビドラマや映画のビデオや小説、雑誌に至るまでそろえていた。
その中の楽しいものをよく近所の針生戸と妹と三人で読んでいた。
それから三人で演劇ごっこをするのは案外早かったと記憶してる。
針生戸はあまり演じるというのが好きじゃなかったようでもっぱら
裏方をやりたがった。そんんなとき親父がよく口をだし
「裏方は確かに表に立つ必要はない。が舞台に立つにしろカメラ前に立つにしろ
知ろうとすることをしない限り知ることはできない。つまりそれはできることを
自分から減らすという事なんだよ。食べ物と一緒!今の君らは好き嫌い言っちゃいかんな~」
それから針生戸は何かぐずるたびに「好き嫌いすんな~」と言われるとやる気を出したっけ。
俺は・・・俺もよくぐずっていたな・・・。
回数は針生戸より少ない、はず・・・映画は好きだった。ジョーズが特に好きだった。
極限状態の作り方を人と違う何かに置き換えて作る。しかもお化けや悪魔なんかじゃない
リアリティなどないのに現実に起こりえるかもしれないと思わせる海でサメに襲われるという事態。
あの最後のボンベに銃を向けるようなシーンばかりやりたがった。
それ以外の役をやりたがらなかったとき決まって親父と針生戸は・・・
「どうした?先生!早く見せてくれよ!」
やりたくないシーンでもそつなくやってきた自分を、ごっこのなかで監督役の親父、
相方役の針生戸と紗栄子。先生・・・そう呼ばれてたんだ・・・。
親父のいなくなってからのごっこ遊びも・・・今のように・・・
「先生」ってあいつに・・・呼ばれたいんだ・・・
あの時から・・・これからも・・・!!!
(バキィイィィィィッィィィンンン!!)
一際大きなガラス細工が砕け散る透明感ある破壊音が体育館に響いた。その途端
ボワアァァ!!
「うわあああああああ!あちいい!!んな、なんだぁ?いきなり火がぁ!」
ディブグはいきなり床に落ちては転げてのた打ち回っている。
床に落ちたディブグとほぼ同時に裕司の体は膝からくずれ横に倒れた。意識はないようだ。
「やりやがった!!あいつはキリスト以上だぜ!!」
「ん?あ!おいこら!恐れ多くも主と比肩するな!!・・・だ、だが本当に・・・?」
「さぁプリン様、捕殺の準備を!」
笑いながらとんでもないことをしゃべりながら体育館の中に降りていくカイン。
その言葉を注意しながら下で起きたことを信じられないでいるプリンシパリティ。
半信半疑ながら信じた方向に事が動いて嬉しいあまりさま付けしながらも略して呼んでしまう
ガミジンのリーダー。三者三様である。
まだ真っ暗な体育館。紗栄子は気を失ったまま。エチュードの続きをとも思ったが
何かしら暗闇の向こうがおかしい。裕司のほうに向かおうと思った矢先に上からカインが降りてきた。
「カインさん。先輩は・・・」
「よくやった。今のお前は魔を払ったキリストと同じくらいのことをしたぞ!
魔に憑依かれた人間を改心させやがった!!」
「え?で、先輩は?」
たとえがでかすぎて自分が何をしたのかあまり伝わらなかったのか、それ以上に
裕司が心配なのか?感動なく裕司の安否を聞く針生戸。
「あ?ああ、一応無事だ。あいつ、悪魔のほうがほとんど勝気だったからな、
体の半分以上外に出してやがったのがよかった。命への楔分だけの汚染ですんだ。」
「汚染!?」
汚染と聞いてあまりいい印象があるはずがない。
針生戸は驚いて疲れた体をおこしてカインによろうとした。
「・・・わりいな」
よろうと一歩出した足は二歩目を待たず床に崩れた。ガミジンの一人が
優しく気配なく近づいて眠らせたのだ。そのわきから針生戸を今までにない優しい目で見るプリン。
「いいのか・・・?」
「ああ、最初からこうするつもりだった。俺らのことなんか知らんほうがいい。」
なぜか釈然としない表情のプリン。針生戸を横に寝かせたガミジンが腰につけていた革袋を取り出す。
チャプチャプいっているそれを少し手のひらに出す。シャンプーのように。
その液体を針生戸の頭にかける。なじむように少しなぜる。すると針生戸の頭が淡く光、すぐに消えた。
「・・・あっちもやっとくべきだろうな。女の子の方は大丈夫だろう。ってあいつうるせえな!!」
神妙な時間の中でディブグだけはいつまでものた打ち回り続けている。
「あれほどのものなのか?契約破棄とは・・・」
「俺も初めて見るから何とも言えないが主任の話じゃ魔に憑依つかれた者が改心したとき、
その肉体から浄化の炎が噴き出すんだと。その炎は契約した悪魔にしか感じず見えもしないそうだ。
あいつ熱い熱い言ってても俺ら見えんだろ?あんな無防備で・・・じゃ、あとよろしくな」
「え?ちょっと・・・カイン!」
「あいつの捕殺はお前の仕事だろ?・・・ん?」
「んんんんんんんんんぐううううううううぅぅぅぅあああああ!でゃ゛や゛ああああああああ!」
全身に燃え広がっていたのだろうか、苦し紛れにディブグは燃えているのだろう表面の部分を
脱ぎ捨てるように上に飛び上がった。燃えているディブグの抜け殻は
瞬く間に燃え尽きるように消えていった。
「脱皮?虫かあいつ!!構えろぉ!」
「くぞがああああああああああ!!!!!」今までため込んでいた鬱憤、とでもいうのか
優勝賞品が豪華なマラソンで余裕で優勝する目前に
出場取り消しを宣告されたような気持ちかもしれない。
その思いのたけを叫ぶディブグ。だがこの悪魔はまだ気づいていない・・・。
もう人質がいないということを。だがそんなこともうどうでもよかった。
「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!」
当たりの暗闇がうごめきだす。すると体育館内部の照明やカーテンの形や色が見え始めた。
暗闇をディブグが吸い込み始めたのだ。
「ばはぁっ、はあ、はあ、はあ、くそぉまさかしてやられるとは・・・あんな茶番が・・・」
「そぉかぁ?感性が鈍いんじゃないかぁ?お前以外全員見入ってたぜ?」
「ぬぅぁぁカインんんん!!余裕かましやがってェェェえ!」
「勝てると思ってんのか?あ?」
悪魔らしい挑発。少し妖気を攻撃的に向ける。
だがディブグは天界が戒厳令を敷くほどその地域の妖気や心霊エネルギーを
長く蓄え隠している自信があった。疫病の悪魔であり黒い埃の集合体のようなディブグ、
契約した裕司と妹である紗栄子に多少の貯蔵をしていたが自分の自由にしたい量を
持っておきたい性格がここにきて功を奏した。持っている妖気では
今のカインを超えているかもしれない。それも・・・
「あ!」
突如、横になっている紗栄子の影からいつしか光らなくなっていたカインの宝石へ
ディブグの影が手のように伸びてつかんだ。
それを奪い返そうとしたのはプリンだった。が、よんでいたのかプリンの方向に影のやりが伸びる。
「「「「プリン(様)!」」」」
無慈悲に貫かれるプリンシパリティ。が気骨ある性格の彼女はカインの宝石に手を伸ばそうとする。
「ぎゃははははあ!惜しい!惜しいなあ~ほれほれもうちょいで届くぞ!頑張れ頑張れ!」
拍手しながら高みの見物をするディブグ影は動かない。・・・カインも動かない。
「く、ぉぉぉぉぉおおおお!ぐ!ううう!やめ、ろおおお」
プリンを貫いた影がプリンの体を這いまわる。胸から足の付け根まで。
「いい~女だな~。天使にゃいい女が多いよな~。お前も狙ってたんだろぉ?
だからモタモタしてたんだよなぁ~あ?」
「・・・」
「カ・・・カイン・・・!!」
一瞬貫かれた苦しみと体を這いまわる苦しみにカインを見たプリン。
そのカインの様子に今自分の感覚を忘れるほどの悪寒を感じた。
「プリン・・・準備しとけよ。ただ・・・一発殴らせてくれ。
あんの病原菌野郎・・・疲れたマリアを・・・」
『マリア・・・ああ、この宝石の事か・・・。』
自分の心配をしてくれないのか・・・とプリンはふと寂しくなった。がさっきの悪寒での
感覚リセットがよかったのか、なぜ自分がカインに心配されないと寂しいと思うのか!?と
異常な気恥しさと今も確かに痛いし気持ち悪いけどここまで意識がはっきりしときながら
自分で何もしないのはなぜなんだ?カインに助けてもらおうとでもしてたのか?
と妙なテンションの上がり方で自分の天使として今この場にいる意味を再確認するように
「はあああああああああああああああああああああ!!!!」
「ぐぁ!くっそ殺しきれんのか!」
自ら天使の気を放ち発光し自身を貫いていたディブグの影を消滅させた。
体の傷も少しずつ回復させながら手にはカインの宝石を大事に添えて。
そのマリアをカインに返そうとするプリン。
それを手のひらを向けて止めるカイン。
「お前が持っといてくれ。マリアも安心する。・・・それと助けられんで悪かったな」
「え?」(トゥンク)
『『『『『『あ、キマっちゃったこれ』』』』』』
ガミジンたちは一斉に思った。カインがディブグに最終通告をする。
「ほれ、もう逃げられん、人質もない。タンタロスに帰るだけだな。どうよ
今の全力出し切って俺に勝ってみろよ。マリア無しの俺にな」
「くっくっくっありがてえ!お前を食らえばまだチャンスはあらぁな!!」
思えばこの時すでにディブグは負けるとわかってたんでしょうね。とは後にガミジン3号の談。
カインは死神であるがそれは職業的なもので分類は悪魔である。
故に性質は魔であり属性単体では魔に寄った魔法を使う。
ディブグは疫病などの病魔で埃のような細かい集合体。核などなくそのすべてがディブグである。
一粒でもディブグではあるが一粒ではどうにもできず何かしら活動するには
少なくとも10万粒は必要とされている。というのがこの類の悪魔の性質である。
核に近い「根」は存在しそれは契約した人間の心に根差したりする。
それらができないときは基本集合体そのものがディブグである。
多少の分離遠隔操作はできるが根の張ってない状態ではその距離は短い。
極度の力を集中させるとなるとより濃い濃度の集合体にならなければならない。それが今である。
カインとディブグが今回初めて遭遇した時ディブグの放った矢。
それはディブグ自身(一部分)だった。
超高濃度に集約した己自身の妖気を一本の矢にする際、ディブグの黒い集合体が
密度の影響かあの時ピンク色だったのに真っ赤に燃えんとするほどの色になっている。
深紅の巨大な矢がしゃべる。
「いくぞおおおおおらあああああ!!」
カインはプリンを止めていた手を握りその矢に向けて構える。
狡猾な病魔も誤解されやすい死神も、もうお互いしか見ていない。
超高密度の妖気の矢、属性が似ていても威力に変化はない。
物理的な被害は悪魔の肉体にも甚大な被害を及ぼす。
カインの使う魔法は良くは知らないが力技が多いという話しか聞かない。
肉体強化でどうにかできるとは思えない妖気をあの矢は放っている。
「さぁ、お前のタイミングでこ「おりゃああああああああああ死ねええええええええ!!!!!」
少しの沈黙、様々な思いが巡りカインがしゃべりだす隙を狙って矢はカインを・・・