主任室にて
ザシュ!ズブズブズブ・・・ブシャッ!
「4号!くそ!よりによってこんな事態とは・・・。」
真っ暗の中なのに不思議と一人一人が確認できる空間に大男の悲痛な叫びが響く。
大男と容姿が似ているが少し小振りの、それでも常人の倍はあろうかという体躯が四散して転げ落ちていった。
「さあ、どうするね?ガミジン諸君?逃げてもいいんだよ?君らには今なにもできないんだからふふっ。」
暗闇で確認できているのはガミジン達だけ、それも3人。動かなくなっている者は2つとなって床に散らばっていた。
『隊長。ここは私が時間を稼ぎます!逃げてください!』
『いや、それには及ばん。もう手遅れだ・・・。』
暗闇に聞こえない会話をするガミジンの大男を含めた二人。その会話を聞いていたもう一人も大男の力を抜いた態度と言葉を
聞いて悲痛に肩を落とした。
「ん?どうしたね?ボクの本性はすでに晒している。君らくらいならいくらでもどうにでもなるだろう?
ははは!さあ、ボクを仕留めたければ仕留めればいい!」
「下衆め・・・!今の貴様に手を出せる訳がなかろう。・・・やってくれたな!」
「くくくっまぁね。俺みたいな悪魔が外に出るにはこういうことくらいしかなくてね。でもそうそう出れるもんじゃない。
だから出た以上はとことん暴れたくてさ!もちろんやる事はやるけどね!」
「・・・すまん!」
意を決する断腸の言葉を叫んだ瞬間。ズババ!大男の構えた大槍が凄まじい回転を見せ、
その内にあった2人のガミジン達の首を跳ね飛ばした。しかもそれだけでは終わらない。
そのままその振り込んだ槍を上空に投げ上げたのである。
「現状で我々に貴様に対処する術は持たん。この止まる体、食うなり何なり好きにすればいい。
だが得た情報は天界に収めたからな!貴様の下卑たわがままもここまでだ!・・・がふっ!」
まるでセリフを待っていたかのようなタイミングで投げ上げた槍が真っ直ぐ落ちてきて大男の喉を貫いた。
宙に浮いていたガミジン達の体はそのまま力を失い落下した。
「・・・ふん。自殺の許されない天界の者が投げ上げた槍ならセーフだ。とでも言いたかったのかね?ふふ。
しかしもう少し素早く殺しとけばよかったかな?そうすれば向こうに出す情報を絞れたかもしれないな。まぁいいか!
遅かれ早かれどうせ戒厳令は免れないだろうし、それまでこいつらでも喰って力をつけて・・・それに、
こっちを終わらせれば・・・俺をどうこういってられなくなる・・・。俺は人間になれるんだ!」
暗闇にはもう人影はない。人影はない、が、暗闇に不気味に光る瞳が浮かんだ。瞳はガミジンに下品な笑みを浮かべ、
そのまま向きを変えその後方にあるベッドで寝息を立てている大きな男のほうを見る。
「・・・だが用心はいるな。戒厳令を敷かれれば俺も閉じ込められてしまう。俺をコイツから引き離せる力を持つヤツも
きっとくるだろう・・・。いくらか手回しをしなければ・・・。」
そこまで呟くと瞳は眠るように閉じ、それと同時にゆっくりと暗闇が一箇所に集まるように小さくなっていった。
集まりながら床に落ちているガミジン達の死体はその闇に溶け込むように沈みながら消えてゆく。
暗闇の去ったあとにはガミジン達の血のりすら残ってはいない。
しかしその空間はその暗闇とさほど変わらないような暗さとじめじめとした湿っぽさを漂わせていた・・・。
人の部屋、学生なのだろう壁には同じアイドルのポスターが数枚貼られていた。カップ食品、お菓子の袋、
飲み残しのペットボトルなども散乱している。時計の針は十二時半、暗い部屋だが窓の隙間に差し込む光。寝ている男。
一つの集まっていた浮いている黒い塊はそれらを眺めるようにフワフワと揺れながら寝ている男に近づく。
「・・・なんにせよこの男の望みをさくさく叶えてやらないとな。まだこんな人間がいる・・・。
俺らがなくなる通りはないな!」
塊は男の頭部に重なると溶けるように中へと消えていった・・・。
「・・・ご苦労。」
一言呟いて汚いローブを纏ったガイコツは机の後ろを向く。巨大な机の上にポツンとアグラをかいているカイン。
カインの前に広げられた大きな紙の橋をカインが掴むとシュルシュルシュルという音はないがみるみる小さくなりカインの手に
ちょうどいいサイズになった。その神をジッと目を通してそのまま片手に持っていた手帳の隙間に畳みながらしまう。
「・・・こんなもんですかね?引かれすぎな気もするな〜。」
ゆっくりと立ち上がり伸びをしながら愚痴ってみた。
「・・・最後の仕事終わりが昨日の三時頃・・・。報告が今、人間界でなにしてた?」
「う・・・。」
ガミジンから報告を受けててな、明細の時間見てみな。時間は訂正しておいた。その虚偽捏造もマイナスしといたからな。」
『!!そうだ!あいつら!』
カインのいる部屋は主任室。この部屋では部屋の支配者以外の心の声を音に出す事ができ、嘘をつけない空間である。
嘘でなくても思わず思ったことも出てしまう。
「・・・自業自得だ。これに懲りたらもうゲームというものは辞めるんだな。」
「・・・そうすね・・・。」
バツが悪そうに机から返事を返しながら飛び降りる。慣性のまま扉までの距離を進む。
「・・・そういえばそのガミジン達がやられたぞ。」
取っ手に手をかけていたカインが止まる。
「「やられた」っていうと?殺されたんですか?外で。」
「ああ・・・ついさっきのようだ。意識にそう伝えてきた。・・・お前と会ったガミジン達もそうだろう。」
「脱走者ですか?」
「・・・間違いないな。相当やられている・・・。戒厳令を敷くようだ・・・。」
言葉の間は主任はリアルタイムで天界と交信しているらしくそのまま喋っているようだ。
「・・・あいつらやられたのか・・・。ざまあ見ろだが脱走者ってどんなヤツだろ?ガミジン隊は俺でも手ぇ焼くのに。」
「人伝の脱走者らしい。人質とられてその人質を引き離す術を持たないあいつらでは荷が重かったのだろう。
ヘタをするとこちらにも鉢が回ってきそうだ。」
「へぇ、そりゃ楽しみだな!」
「言っておくがお前には回さな・・・」
「俺は仕事終わってますよ!他のヤツラは忙しいでしょうに。」
勝ち誇るように主任の言葉をさえぎって言うカイン。いつの間にやら机のど真ん中に立っていた。
「・・・時と場合だな・・・最悪の事態にはそうなる。」
椅子の背中越しだが肩を落として落胆する主任を見て笑うカイン。
「なる気がするな〜。最悪の事態!」
「なぜだ?天界とて事態収拾のため力を尽くすだろう。お前の出る幕はない。」
少しカチンときたのか、主任が向き直る。
「だってそうじゃないと話が進まないでしょ?」
「・・・。」 「・・・。」
と、とりあえず話は進んでゆく・・・。
だが事態はカインの予想すらはるかに上回る事態へと進んでゆく・・・。