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始まる舞台(後編)

体育館特有の防火扉を兼ねた両引き戸の左が重そうに開く。


すぐ前にたれているカーテンが膨らむ。その膨らみがモゾモゾ移動し切れ目から人影が姿を現す。


少し暗い体育館。所々に外からの日差しが漏れながらも低い光量を補うために照らしている


天井の照明によって屋内がほどほどに明るいせいだ。


「あ、おはようございます」


「針生戸くん、おはようございます。今日はよろしくお願いします」


「あの、男の人は?」


「館井さんなら職員室行ってそのまま車で待ってるって。針生戸くんによろしくっていってた」


「そ、そう。あんまり知らないけど信用されてるようでちょっと嬉しいですね」


「去年の演劇コンクールですごい感心してたのが館井さんなの。どっちかというと


私よりあの脚本をすごい褒めてた」


「そうなんだ。じゃあ今度のはもっと見てもらわないとね!」


「・・・この話。やっぱりお兄ちゃんの、だよね?」


「・・・実はね。今だから言うけど去年のあの「上昇気流」も宅間先輩のなんだよ」


「え!?そうなの?」


「やっぱり気づかなかった?いろいろ変えたところあるけど大筋は先輩が中学の時に作ってた


「風の丘」っていう小説からなんだ。ちょっと中二病くさかったけど話の流れがはっきりしてて


盛り上がりとおとなしい展開もちゃんとある。すごいと思った小説だったんだ。


まぁ、ちょっとある映画に似てた部分はあったっていうのはしょうがない事だけど、中学時代に


自分でそういう創作ができる人ってすごいよね!だから形にしたかったんだ」


「お兄ちゃんのパクリだったんだね。読みたいな~それ」


「今言ったら怒られるよ(笑)」


「で、今回のこの話も一昨年のお兄ちゃんの話の・・・?」


「うん、焼き直し、かな?」


「海底調査の船に乗る主人公の彼女の乗った船がトラブルで沈没。その前日の大事な場面」


「うん、あんまり時間ない所ほんとうにありがとう。宅間さん」


「ううん、どうしても私もこの文化祭の演劇だけはやりたかったし、


デビュー前だからあんまりお仕事もないしね」


「メディアに硬い学校の体制はあんまり感心できないけど、宅間さんみたいに直接業界に


進もうとする人が学校行事の演劇に協力的でその上での学校が守ってくれるって点では


学生の本分が~っていうのは本当にありがたいよ」


「私はアイドルがどうとか女優がどうとかじゃなくてお兄ちゃんのお話で針生戸君が監督して


私が脇役でもその映画に出る!っていうのが夢だから」


「今一番業界に近いのに、脇役はないと思うよ(笑)・・・それに・・・」


クッションの噛み合う重かった扉が閉まる音が風で揺れていたカーテンのおさまりの中で


かすかに聞こえた。重い扉は閉まるのも時間がかかる。


その時には宅間紗栄子はステージ脇まで近づいていた。


広い体育館、一階二階の窓は全て中ほどまで開いている。そこを遮るようにカーテンが敷かれている。


風のない穏やかな日。カーテンの揺れはとても穏やかだ。外からの光は時折漏れてくるくらいしかない。


キーンコーンカーンコーン


10時半を知らせるチャイムが体育館に響いた。


「じゃあとりあえず始めようか!ぱっぱとやってぱっぱと終わろう!」


「え、あ、はい!」


2回目のチャイム音の時には紗栄子はステージに上がっていた。会話の終わり際、


ふいに映一の顔を見た紗栄子。「~それに」のあとの言葉を待っていた。が、


その時の映一の顔はその続きを言えるような表情をしていなかったと紗栄子は感じた。


不安に思うその表情に紗栄子は何をしようとも迷う中でチャイムが鳴った。


そのチャイムがきっかけでかはわからないが映一は気持ちが切り替わったように明るい表情で


紗栄子を見ながらお辞儀してきた。紗栄子はただその対応にお返ししかできない。


~~~~~~


「役者はそろったな・・・」


体育館の上、の中空。屋根から数メートル上の位置、カインとプリンシパリティとガミジンのリーダー。


学校敷地内を区画する壁伝いに妖気が近づいてくる。近づく前からマークはしていたガミジンとプリン。


来る前に仕掛けたところで契約した人間の精神に逃げ込まれるだけ。と、この作戦に乗りはしたが


二人ともやはり気持ちに落ち着きがない。というよりガミジンはその落ち着かないプリンに


オロオロしているように見える。


「落ち着けお前ら。網の中にすすんで獲物が入ってくれるんだ。ほら、妖気はこっち向いてるが


あの人間は全くこっちに意識が向いてない。ディブグも何も出来やしないさ」


「カイン・・・出来ると思うか?契約破棄・・・見るにあの男の家は仏教だろう?


あいつだけではない。この国のほとんどがそうだが宗教観自体「持っているだけ」というスタンス。


信仰しているわけでもない人間が己を省みると思うか?」


「その通りだ!悪魔の契約を破棄させる。つまりそれは己の愚かさを悔い改めることだ。


己に神を持たない者がどうやって己の悔いを改めようというのだ!え?どうなんだカイン!?」


「うっせーなぁ、この期に及んで言うことか?目の前の妖気に手ぇ出せないからって


俺に当たるなよ!・・・ま、なんとかなるって!」


ちょっとでも安心が欲しいガミジンが口走った言葉がプリンの信仰心と焦りの苛立ちに


火をつけかけたがカインはだいぶプリンのあしらい方がうまくなっていた。


この頃にはプリンもカインと口喧嘩だけをするだけで終わることが多くなった。


『こないだまで問答無用で切りかかってたのに・・・プリン様いやプリンシパリティ様・・・』


スルスルスルスル


するとカイン側からカインとプリンを繋いでいるグレイプニルが伸びている。少しのたるみが


2メートルくらいに伸びて止まった。


カインとプリンシパリティの腕に巻かれているのはグレイプニルと呼ばれるかつて


北欧神話で魔狼フェンリルをつないでいた縄にちなんで名付けられた捕縛用の魔法の帯である。


あるきっかけでカインとプリンシパリティがお互いを結び合わされた。


期限はカインの予定者の完了か、戒厳令下の脱走した悪魔ディブグの捕殺完了までである。


このグレイプニルは結ばれたお互いの側の魔力で伸ばしたり縮めることができるのである。


だがどんなに伸ばそうと、また、なにをやろうとそれを結んだ本人が解除しない限り


外れることはないが、腕を切り離せば離れることはできないことはない。が、そんなことをするのは


ちゃんと期限がありそれさえやれば終わる以上そんなことをする気は今更お互いないのである。


「カイン、どういうつもりだ?」


急なカインの行動、たるんだグレイプニルの帯を見て不思議そうに聞いてきたプリン。


「作戦を忘れたか?あいつが入ってきて針生戸がちゃんと仕事してあの男から悪魔を追い出したら


即座に仕留める。だろ?動きやすいようにしとくんだよ」


「! ああ、そうだな。てっきりいきなり嫌われ・・・ゲフン!グフゲフ!」


「ん?」


「プリンシパリティ様?」


ビビュン!ビシュッ!


「うわああ!」


咳き込んだ瞬間旋回して一瞬で出して構えた三股の槍をカインのスレスレに突き出した!


そのまま別方向に素振りをはじめるプリン。心なしか体が赤みを持っていた。


急な動きのせいなのかもしれない。


「うん!よし!動きやすい。そういうことか。確かにあらかじめ伸ばすのがいいだろう。いい案だ」


「お、おう」


「・・・と、とりあえず私は隊士達の巡視警戒にあたります。二人は作戦通りの行動で」


「ん?ああ、ありがとなリーダー」


「ああ、人間を巻き込むとは思わなかったが、我々も悪魔に食われる人間は望まない。


人を見てきたお前の考え、そしてあの人間に真剣さを感じたから作戦に乗った。成功させよう」


カインにそういうと、プリンに向き姿勢を正し一礼してその場を離れた。


プリンシパリティはガミジンの方を見ず手だけで合図した。


体の赤みは顔に集中しているのがその白い肌が災いしガミジンに丸分かりだった。


『プリンシパリティ様・・・まさか・・・』


飛行しながらガミジンリーダーの考えていたこと、それはまぁ・・・置いておくとする。


~~~~~ ~~~~~~


読み合わせ、折りたたみ椅子を使っての立ち稽古、1時間ほどたった当たりか


「よし、少し休憩しようか」


ステージ中央。椅子に座ってうつむく姿勢の紗栄子。役の姿勢のままだ。


左脇からステージに出てくる針生戸。


「宅間さん?」


シーンの終了カットは針生戸の「よし」で入っている。練習はそこで一旦の終わり。


この一時間のあいだに説明や本読みを合わせて20回くらいはやっただろう。


学生ながら二人だけの練習でもこれだけ熱心な練習もなかなかない。


針生戸は事前にカイン達がなにかしらをしてこの状況を作っていることを知っているから


不思議でもないが、紗栄子は「体育館で練習をする」としか認識していなかった。


学生が演劇の練習を体育館でする。このワードで二人きりになることを想像できる人間はそうはいない。


まして複数人でやる演劇の練習である。自分の一人演技の練習でも普通は顧問の先生くらい


就くはず。その顧問すらいないことに疑問を持たなかった紗栄子に違和感を持たなかった映一。


その油断がこの段階を生み出したようなものだった。


「・・・捕まえた」


上手(紗栄子の左側)から近づいてきた映一が椅子に手をかけた瞬間、咄嗟に動いた紗栄子の右手が


映一の服の胸部分を掴んだ。


「え?」


「カインは近づいてこないな・・・うかつすぎだったんじゃないか?くっくっく」


女性の声に妙な声が交じる。不安というより恐怖を感じる映一。


離れようとする映一だが、ただ服を掴まれているだけなのに体が後ろに退けない。


椅子に添えた手も離し後ろに退こうとしても紗栄子の手が服を抑えていて離れようとしない。


一応男子高校生の映一、力づくで離れようとしても紗栄子はおろか、椅子もピクリともしない。


紗栄子の足元から黒い何かがゾワゾワ広がっていく。光差し込む体育館。影はほとんどない。


照明もついている。


ガコ・・・ゴコォン


ステージの対面側の外への扉が少し開いて閉まる音。カーテンが少し大きめに膨らむ。


その音に対面側を見る映一。紗栄子はまだうつむいている。


映一はその扉があろうカーテンの向こうに、いるであろう宅間裕司を感じていた。


『きたんだ、先輩、で、これは・・・』


「た、宅間さん?・・さ、紗栄子ちゃ」


「ああ゛っ!!!!!!!」


宅間裕司が来たことを確信しせめて身構えようと体勢を整えるために紗栄子の腕から逃れようと


紗栄子の腕をつかみながら離そうとする映一。その時の映一の感じた感触は


冷たい鉄の棒を掴んだようだった。


離そうと紗栄子に呼びかけ思わず下の名前が出た瞬間だった。カーテンの膨らみの叫びと共に


カーテンから半紙に墨汁を染み込ませその染みが広がるように黒い何かが溢れてきて


体育館の内側を飲み込もうとする。広がる黒は窓を閉めカーテンを押さえつけ照明を隠し


バチバチン


ステージ側の電子制御盤のある方向から電源操作盤のブレーカーを落としたであろう音が聞こえ、


照明の息の根を止めて・・・体育館の中は何も見えない黒一色となった。


「お前が紗栄子を気安く呼ぶんじゃねえええ!」


バサァ!


叫びと共にカーテンが大きく開く音。しかし何も見えない。


「紗栄子は俺のもんだ・・・もう、俺のものなんだ・・・」


闇の声がおとなしくなりながら映一の方に近づいてくる。


目を開いているのか閉じているのか、今自分はどういう姿勢なのかすらわからないくらい黒い世界。


映一はそれでも、動けば動けなくしているそれを外そうと、掴んで引っ張ることで


わかる腕を引っ張っている。別の腕は椅子を押さえ体を離そうとする。紗栄子に少しでも


触れないようにしているのは思春期の配慮だろう。だが抑えられた服以外の


自由はきく。そう把握した映一。右手を椅子から離しズボンのポケットに入れて何かを取り出す。


「カインさん!使います!!」


それを握った瞬間、ズボンのポケットから光が漏れ出す。


黒い世界にまるで強烈なライトがいきなり最大で光るように指から漏れる光で、


指すらかき消すほどの光。それを服を掴む紗栄子の腕に当てるように近づける


「うおあああああ!」


うつむいたままの紗栄子が大きくのけぞる。光に照らされても周りが黒すぎ逆光が強すぎて


いまいち可愛く見えない。映一は一瞬そう思ったが服を抑えていた手が離れる。


映一は紗栄子が気を失っているのに気づく


『おそらく先輩の悪魔が何かをしたんだろう。かわいそうに』


映一は紗栄子を照れもなく背中、と足を抱えようとする。が、人の体は重い。


気絶中の人体はなおさらだ。抱きかかえるのは無理と即判断した映一は、


そのまま下ろすように椅子から離し、ステージ奥の方によせた。


椅子を横に倒し紗栄子を守るように遮る形で置く。


光っているマリアと呼ばれる賢者の石を手に暗闇の中、勇敢に見える、が、やはり怖い。


映一は紗栄子によりながら紗栄子と自分の真ん中あたりにマリアを置き怖がりながらも


ステージから宅間がいるであろう先の闇を見ている。


映一と悪魔ディブグに魂を売った宅間裕司の戦いはこうして始まった。



本当に遅くなりました。アッチを書いていたらだいぶ書く事に慣れてきまして

こっちもぜひどうにか終わらせたい。と思い、読み返し、思い出しながら勧めてまいります。

毎週できればどれかを更新していきます。

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