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13番目の理由

ここは冥界。主任室。

主任のヘカーテがぼろぼろのローブを纏いながら椅子に座り

何やら書類を書いている。そこへノックの音。

天使のドミニオンが入ってくる。机前まで来て

「失礼します。ペルセフォネ様、」

「ドミニオン殿、ここではこっちに名で頼みます。」

「あ、これは失礼。どうにも慣れませんね。あまりこっちに来なかったので

今回の件が起こらない限り冥界には来ませんからね。」

「では報告を。」

その言葉を聞きドミニオンは机の上まで飛び机に降りる。

サイズにするとドミニオンが標準として主任ヘカーテは山のような大きさだ。

これは冥界としての主任という立場の優位性を誇示するためで

天使といえど客として迎えない限りは同サイズになることはない。

元来、主任は冥界では死神の主任だが天界にも立場が有り、

その時の名はペルセフォネという。神話では冥界の王ハーデスが見初めた

ペルセフォネをハーデスが冥界に連れ去り冥界の果実を食べさせペルセフォネは

冥界の住人になった。とされている。

がこの物語ではたまたま天界に来たハーデスをペルセフォネが気に入り、

猛アタックの末、冥界にまで押しかけるがあまりのデレっぷりに怖くなった

ハーデスがゼウスにどうにかして帰らせて欲しいと懇願したところ、

帰りたくないペルセフォネは冥界の果実を食ったという嘘をついて

冥界の住人になってしまった。嘘は簡単に見抜かれてしまったが

騒動のきっかけにはなり、その成り行きで本当に果実を食べてしまい、

本当に冥界の住人になってしまったという。しかし、天界にも仕事、

役割はあるので天界での体を作り、その時その時で活動できるように

しているという。ヘカーテの主任の経緯にはこういう裏があることを

先に知らせておく。

以前はカインとの事故によって天使を迎えるという形だったが

今回はその流れでの仕事上、こういう立ち位置ということだ。

ドミニオンの口が開く。

「やはりあの時の6号のプリンシパリティだったそうです。」

「・・・。」

「詳細な年数は測りかねますが、ざっと数十年前、人間界から転移し

天界に戻ろうとした天使、プリンシパリティの6号はたまたま天界前地の森で

獣の悪魔に遭遇、劣勢の中、カインと接触していたそうです。」

「それで?」

「カインがたどり着いた時には致命傷を受けていてもう肉体の維持も

ままならなかったそうでしたが、カインがマリアを使用したのでしょう。

その場のプリンシパリティの肉体は瞬時に復元。意識もあったそうです。」

「でも、中枢意識は・・・」

「はい、実は中枢意識はカインがマリアを使用する直前に、ゴルゴダに

転移してしまっていたそうです。」


ゴルゴダ。かのイエスキリストが十字架の刑に処された丘の名前。

それにちなんだかどうかは定かでないが、天界側の存在が何かしらの理由で

その肉体を維持できなくなった時、魔界にタンタロスという地下があるように

その肉体の復元場所としてあるのがゴルゴダである。

そこはただただ広い丘のような場所。建造物はおろか人工物は何もなく

小高い丘陵地に見えるがその頂上付近には決して近づけず、

その周りには海らしき水平線も見えるが決して海にも近づけない。ただ丘という場所。

しきりもなく区分けされてもないその場所に、天使たちの中枢意識(以下魂と表記)

は整然と整列するように並んで静かに肉体の復元を待つ。復元が完了した者は

何も言わずそのまま自分の場所へと転移する。そういう場所である。


「しゃべりづらいな・・・テーブルに行こう。」

山のような黒ローブの塊が机に手を置き腰から立つと地上から

伸びるように山がさらに高くそびえる。

ドミニオンが机から飛び退くように降りる翼ははためかず浮くように飛びながら

部屋の奥にある血のように赤い水の流れる滝のそばのテーブルに向かう。

巨大な山は椅子から立つと机を回り込むよに動く。

凄まじい大きさの体が動いているのに地響きもなければ振動もない。

足音も静かに机から離れると山はまるで塩をかけたナメクジのように

音もなく縮んでいく。テーブルに近づく頃にはドミニオンとさほど変わらぬ

普通と呼べるサイズになっていた。

黒いローブを纏った骸骨姿なのは変わっていない。

ドミニオンはそのまま真っ直ぐ下手のソファーに座る。

ヘカーテはドミニオンの背後を流れる滝に近づき右手を差し伸べると

隣にあるグラスの中から2つのワイングラスが音もなくひとりでに

浮かび上がり滝の水が勢いよく注がれる。落下する滝の勢いならば

飛び散る量も大変な量と思いきやたいして飛び散ることもなく

滝から出てくるワイングラスには適量の赤い液体が入っている。

それを手にすることもなくヘカーテは振り返り

ドミニオンのソファーを回り込みながら対面のソファーに座る。

ワイングラスは音もなくお互いの座るテーブルの上に置かれた。

「ありがとうございます。」

ドミニオンがグラスに手をかけ口に運ぶ。赤い液体は少し減り

テーブルの上にまた戻った。

「さて、続きですが2つに分かれてしまったプリンシパリティ。

これの今後をどうするかが今日の課題です。」

「ふむ・・・」

ヘカーテは硬いもの同士が接触する時の硬質的な音を立てながらグラスを

持ち赤い液体を口に・・・グラスは空になりテーブルに戻る。

「その前になぜ今になってそれを課題にしたのかを聞きたいのだが?

分離してそれぞれが一個体として存在し始めてそこそこ経っている。

管理社会である天界ならばこういうトラブルへの対処も

迅速に行えるはずではないのか?」

「・・・発見が遅れた。というのが言い訳であり実質的な理由です。」

「というと?」

「天界ではそれぞれの存在理由となる仕事、使命が最優先。

何かしらの異変があればそれに気づき修正するものもいるのですが

今回は同一体の分離。一つは帰還中に襲われ身体維持不可になりゴルゴダに

転移した、仮にAとしましょう。そして襲われ維持不可になる直前で身体

が復元できたB。我々の生命の核とも言える中枢意識は本来その個体に一つ。

ですがカインの持つマリアと名付けられたあの賢者の石は中枢意識そのものを

復元してしまいました。というこ」

「ちょっと待て、中枢意識を復元?

中枢意識は損傷していたのか?というより損傷するものなのか?」

「ヘカーテ様ですら知りえないことを我々が知る道理はありません。

ですが、今にある現状を理解するためにここからは仮説が入りますが

よろしいですか?」

ヘカーテはソファーにもたれ片手をあげる。

空のグラスが宙を漂い再び滝に吸い込まれては

今度はなみなみと注がれた赤い液体がテーブルに到着した。

しばらくの静寂の間、ヘカーテは体を起こしグラスの液体を少し口に含む。

今度は時間をかけて飲むようだ。

「報告、痛み入ります。それでは続けましょう。」

13番目と呼ばれ、本来の本体の存在が明らかにされたプリンシパリティ。

彼女がなぜカインを狙うのか、それはその仮説の中にあるのかもしれない。


SFやファンタジー、空想というものには確証がない。

あったらいいな。や、あるかもしれない。というものが現実で認知されているのは

あったらいいな。が有るという土台ができているから。だと思います。

人の欲や願望により生まれた存在の彼ら天使や悪魔のような者たちも

彼ら内で確証が持てない、説明がつかないことがある。

それを人間の想像ですらない内に自分たちの空想で埋めるには

人間への不確かな干渉を恐れ、ある程度の広がらない規模なら黙認されるが

天使からであれ悪魔からであれ世界をまたいでの内容には必ずその世界の

上層の立場のものへ報告し判断を受ける必要がある。

さっきの静寂はヘカーテの意識が天界にわたりペルセフォネとして

仮説の内容を聞くべきかどうかの判断を仰ぐための報告をしていたということです。

もちろん冥界でのハーデスへの報告も済ませてあります。

天使という不確かな存在であれ命とも言える中枢意識すら

復元してしまったカインの持つマリアと呼ばれる「賢者の石」。

その正体がなんなのか、針生戸の運命は・・・このつづきはまた。

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