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お昼休み (後編)

キーンコーンカーンコーン・・・

昼休み終了のチャイムが響く。

校庭に集合したとあるクラスの集団がざわざわしながら整列している。

ジャージを着た体格のいい中年男性が校舎から出てきたのが見えたのか

ザワつきが止まる。男性が生徒を数えながら数えていた手が止まる。

「針生戸いないな。誰か聞いてるか?」

きょろきょろしだす生徒たちだが各々思い当たるのは・・・

「ああそういやそろそろだったな文化祭。じゃあいいか。えーっと」

男性は再び生徒を数え出す。

「コミ、なんか聞いてた?」

最後の列の左側の二人がひそひそ話をしだす。

「いや、昼飯前は見たんだけどいつの間にかいなかったな」

「そういやあの先輩が来てたってよ。うちのクラスに」

「あの先輩って?あの?」

「ああ、あのキモいの。映一ってあの先輩と何かあるんだっけ?」

「いや~紗栄子ちゃんだろ?紗栄子ちゃんしばらく芸能事務所行ってて

学校にも出てないじゃん。今度の文化祭のに紗栄子ちゃんどうしても

出したいから掛け合ってるんじゃね?」

「おい!そこなにしゃべってんだ?今日マラソンだけどお前ら2週追加な」

「「えええええ~~!!」」

どっと笑う生徒たち。ひとしきり笑ったところで列が広がり体操体形に。

さっきのコミと呼ばれた生徒がふと体育倉庫に目を向けた。

「?」

立ち止まるコミ。何か違和感がある。でもなんなのかわからない。

「おーい小宮山ー!真面目にやれ~!」

叫び声に振り返り周りと同じ動きをするコミ。

倉庫に感じた違和感は失せていた。その倉庫の中のお話の続き・・・。


体育館に隣接された体育館の三分の一ほどの大きさの倉庫。

雨よけの渡り廊下は校舎=体育館=倉庫という並びで作られている。

校庭で使用する道具も格納されておりその扉は大きく作られている。

鍵は扉の取っ手に鎖を巻き南京錠をかけるようなつくり。が、

今、その鎖は巻かれているが鍵は開いている。

その中では扉側に一人の少年と長身の男。奥の跳び箱が重なっている所に

太めの少年が黒い煙のようなものに包まれて立っている。

『出来もしねえことを口にしてんじゃねえよ!』

扉側に立つ針生戸映一少年は先ほどの目の前の男、

宅間裕司少年の叫びを考えていた。裕司はまだ睨んでいる。

次の瞬間、裕司の目の前から煙が濃くなりながら鋭利な先端が浮かび上がると

映一めがけて飛んできた。びくっと反応する映一だったがその反応と

その先端をいつの間にか出した刀の側面で栄一の鼻の前で受け止めたのは同時だった。

だが映一にその反応以上にひるむ様子はない。むしろ

その行為に映一の裕司を見つめていた眼差しは攻撃的な睨みへと変わっていった。


『あの子供・・・』

ガミジンリーダーに肩を担がれながら、見下ろす帯びた光も弱々しい

天使プリンシパリティは、黒い切っ先の直前で恐怖すら読み取れないほどの

表情で、裕司、の周りにまとわりつく煙を睨む映一少年に

意識を向けずにはいられなかった。

絵空事、フィクション、そういったものに慣れきった連中ですら

生々しい紙で切った指の痛みに表情を歪ませる。

空想好きな高校生。いじめられて苦しみ、痛みも知っている。そんな男が

悪意を越える殺意を向けられ目の前まで自分の顔を貫こうとした切っ先が

まさに目の前に迫った時、その何かに気づいた反応こそあれ死の恐怖が

なかった事にプリンシパリティは考える。

『あのディブグの切っ先がわからなかったのか・・・だが殺気は

明らかに向けられていた。必殺の瞬間だったはずだ。

ただカインがそれ以上に対応力があっただけだ。

魔界の格付けで言えば病魔ごときが悪鬼と言われたカインに敵うはずないが、

あんな瞬間のあの早さを受け止めるのもすごいが少年は自分が

カインに守られることを知っていたというのか・・・?

カインは悪魔で死神・・・その真偽を確かめるために自分が監視する。

担当だから守っている。それが筋だ。だがヤツは・・・』

「カインさん、それ下げてください」

カインはいきなり声をかけてきたとなりの映一に少し驚いた。


『おいディブク、いい加減どいてくれ。あいつは俺を見てる』

裕司は心の中で黒い煙に言った。しばらく考え込む煙だが

ほどなくまるで吸い込まれるように男の頭の中に消えていった。

切っ先も大気中に霧散するとカインは伸ばした剣のようなものを

海外映画のチンピラがバタフライナイフをたたむようにカシャカシャ

回してたたんではいつもの背中のベルト裏へ押し込んだ。

いつもだったら好奇心の強い映一は今の動きに惹かれていただろう。

目の前が開けた映一は一歩進み出た。

裕二も煙が晴れてうつむいた顔を上げては映一を睨む。


「先輩。いま何時かわからないけどもう戻りましょう。

なんにせよ僕は死ぬまで夢を追いますよ。絶対逃げません。」


「どうせすぐ死ぬんだもんな。無駄な努力がんばんな!」


ぐいっ

「あのガキ、人の死をかけた生き様をなんだと思って・・・!」

身を乗り出したのはなぜかまたプリンシパリティ。

それをガミジンカインは呆れて見ている。

だが、この返しを聞いた映一は何故か笑って


「ありがとう!無駄とわかってくれて。だから俺は逃げたくないんだ」


!ズキッ!


意識内の世界。ディブクは今そこに存在していた。

人の形をとっていたディブクは胸を押さえていた。

「なんだ?今の痛みは・・・ヤツの言葉を聞いた途端、

心の中心に・・・まさか・・・カインのやつ・・・」


苦々しい表情になっている裕司。

「お前、今のセリフ・・・」

ニンマリと笑う映一。だが邪気はない。

「やっぱり覚えてましたか。でも逃げないのは本当ですよ!

さて、戻りますけど最後に言伝お願いします」


「言伝?」


「はい。今日芸能事務所に行ってて休みの紗栄子さんに」


「なんだと!紗栄子にだと!?」


「明日の個人練習は10時から体育館で。

予定通り二人だけだけど遅れないようにね!とお願いします」


「な!ふたり・・・だけ?紗栄子が・・・お前と?だとおお!?」

再び裕二の周りに黒く濃い煙が現れる。さっきの倍以上の濃さで。


「ええ、なかなか会えないから

伝えられないん出すよね~。じゃそういうことで!」

あっけらかんと言い放ち踵を返す映一。

その後ろ姿に今まで以上の槍が音もなく襲いかかる。

すっと割って入ったカイン。眉間に刺さる直前

凄まじい魔力をまっすぐ裕二に向けた。

一瞬にして煙と消える槍。だがその魔力は裕二には届かなかった。

殺意の霧はまだ裕二にまとわれてはいたがカインが間にいる以上

これ以上は何もできないと悟った裕司は煙を引っ込めた。

が、その目はカインとも映一とも見ていないものを見つめている。

ジャラジャラジャラ。体育倉庫の扉の取っ手に巻きついていた鎖が

勝手にするすると外れて落ちる。映一は左の扉を持ち力任せに引いた。

キュルキュルキュルと擦れる音も高く開く扉。


キーンコーンカーンコーン。

チャイムの音を耳にした映一は『昼休み終わっちゃったな』

と思ったが、

「よーし、今日はこれで終了!」と上の方の教室から声が聞こえた。

「え!」とカインを見る映一。

よく見ると映一の倉庫外の今の場所からグラウンドを挟んだ

向こうの校門に早めに終わって帰る生徒の姿まで見える。カインが言う。

「えーとな、外界にこの空間を遮断するってことは、

こっちの空間も外界から遮断するってことなんだよ。ま、そういうこった!」

そういってカインは映一に申し訳なさそうに笑うと、

結界が解けたことを確認して消えていった。

上のプリンシパリティやガミジン達もいない。

だが、ディブクの動向を気にかけており見えないだけである。

ため息をついた映一。目を上げるとこっち向いている裕二が見えた。

その表情から『どうやら理解してくれた』

映一はそう直感した。そのまま何も言わず向き直り、数歩歩いては

小走りになり渡り廊下を教室に向かって走っていった。


魔力の槍を消された時、裕司は意識内に呼ばれていた。

『おいおいおいおい、いきなりなにするんだ?お前の強烈な殺意のせいで

勝手に魔槍作っちまったよ!不完全にできたからあんなんだったが

やっぱ殺したくなったか?ああん?』

挑発的なディブク。意識内の裕二も外面と同じような陰湿さをもっていた。

そしてディブクの言葉を意にも介さず

映一に受けた言葉を反芻するように繰り返す。そして・・・

『紗栄子と二人・・・。させてなるもんか!紗栄子の全ては俺のもんだ!

あんなすぐにでも死ぬやつにわたしはしねえ!死神より先に殺してやる!』

『死神も殺してやるさ』

意識内の裕二の体が真っ黒に変わる。

裕二の欲がディブクに全て染まってしまった証でもあった。

『『そう、それでいいんだ。もうすぐ願いも終わる。妹の紗栄子の全て。

針生戸の死。そして死神の死。それをお前の欲にしろ!全て叶えてやる!

強く願え!命をかけて欲しろ!病的な偏愛を俺が叶えてやる!!』』



体育倉庫。少し開いた扉を部活の生徒がさらに開け入る。

雑然とはしていたが誰もいないその部屋からバレーボールのかごと

ポールを持ち出す。錠が外れていた違和感を

感じてはいた生徒たちだが部活が始まる頃には忘れていた。

その上空。見えてはいないそこにガミジン達はいた。

「隊長・・・」

一人のガミジンが一回り大きなガミジンに言う。

「あの様子・・・カインの思惑通りになったな。・・・賭けだ。

これは本当に賭けだが、あの完全に乗っ取られた少年からディブクだけを

捕殺する最大のチャンスが本当にきた・・・だがプリンシパリティ様は・・・」

ガミジンたちの集まるさらに上空。

中空ながら、あぐらをかいているカインとそのカインに

光り輝く矛の切っ先を向けて構えるプリンシパリティが

ただならぬ空気の中対峙していた。

遅くなりました。長いお昼休みでしたね。

ともあれ分かりづらい部分もありますがよろしくお願いします。

病魔ディブク。妹を愛するという偏愛に取り憑いての脱走でした。

偏った愛も病的なものといいますからね。もうちょっと続きます。

あとブログの方に書きかけをちょっとづつあげています。よろしく。

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