お昼休み (前編)
キーンコーンカーンコーン・・・
学校のチャイム。開校当初から変わっていないというそのチャイムは
いつの時代の生徒にも緊張と緩和を与え続ける。
チャイムがなる前後に行動を開始する生徒もいるが、その時間帯のチャイムは
一際学校中の人間たちが活気を取り戻す。太陽は真上に来ていた。
そこは例の体育館倉庫の裏。昼食時間帯。人はそうそう来ない。
というより誰も寄せ付けないようにガミジン達が結界をはっていた。
しかしその中に悪魔たちに混じり二人の人間がいた。
「先輩、演劇部に戻ってください」
「またそれか?自分が死ぬからって・・・」
「このままじゃあなたも死ぬんですよ?」
「お前よりは長生きするよ。しかも好きなことやって死ぬんだ。
大層な夢を持ってても叶えられない誰かと違うんだよ!」
あざけ笑いながら目の前の男に挑発めいた表情で言う男。
男の声を聞き唯一身を乗り出そうとしたのは何故か
上空で眺めているプリンシパリティだった。
『あのデブ・・・言いたい放題・・・』
ガミジンの一人が天使に触れられない規則を順守しながら
プリンシパリティをなだめている。
「ま、まあまあ!ここはひとつ!」
それを見上げながら微妙な表情で映一のとなりでカインは呆れていた。
「なぁんでアイツが煮えてんだ?おい、そいつ抑えてろよ。
下手したら人に向けてその矛投げかねん」
「そうだぜ。抑えてろよ~。まぁ俺はどうでもいいんだけどな~くっくっく」
挑発的なセリフを吐いた男、裕司の頭から湯気のように
黒い煙が出てきたと思ったらそれが人の形になるや笑いながら喋るディブク。
その煙を睨むカイン。ビュフォン!直後煙に穴があく。
その一連に驚く映一と裕司。
「おおぉ~。こええこええ。睨んだだけで風圧弾か。相変わらずこええな。
カイン。どの道、俺の核はこいつの魂に刻んでるからどうでもいいんだけどな!」
「前に俺に魔矢で攻撃してきたろ。そのお返しだ」
『へへへ。あ~、あれか』といった表情が煙に浮かび上がる。
「お前の悪魔の方が強いんだな。戦わせてみたかったけど負けそうだな」
「勝ったら部に戻ってくれるんですか?」
「ちっ!またそれか!いい加減早く死ねよ!死ぬんだろ?死んでくれよ!
邪魔なんだよお前!おい死神!お前が殺すんだろ!さっさと仕事しろよ!」
「このデブガキ・・・ガチでムカつくな・・・プリンより俺が手にかけそうだ」
「プリンはやめろ!その手もやめておけ!」
血管が浮かぶ表情で引きつり笑いしながら右手に知らず知らず
魔力を込めていたカインにプリンシパリティがツッコミを入れる。
カインの魔力は霧散した。
「ははははは!プリンか!なんかうまそうな天使だな~!
うまいんだろうな~・・・本当にひぇひぇひぇひぇ・・」
上下での漫才を見ていた煙がプリンと聞いてプリンシパリティを見る。
最初は普通に笑っていたが舐めまわすように羽衣一枚の天使を見ながら
笑いの質は変わっていった。
その嫌悪の念に勘弁ならなかったのかプリンシパリティの矛に魔力が込められる。
その動き素早く、止めに入るガミジンを押しのけながら振りかぶり矛から
強烈な光が裕司の頭上の煙めがけて一直線に進んだ!
ボヒュン!煙が光に貫かれる音。光は物理的な影響はない。煙は貫かれた弾みで
四散するように溶けていった。
「はあ、はあ、はあ・・・」
怒りではなった一撃。感情の爆発で起こしたアクション。
監視者というプリンシパリティとしての役割から逸脱した行為。
ガミジン達はこのプリンシパリティはやはり何かが違う。そう改めて思わされた。
「おい!気をつけろ!」
カインの上に向けての叫び声だった。
プリンシパリティの行動に呆気にとられていたガミジンがまず犠牲になる。
カインの叫びに我を取り戻した瞬間、屋根裏側面の影から黒い鋭利な剣が
ガミジンを背中から貫いた。その剣の切っ先はすぐさま形を変えていく。
その先にはまだ疲弊したプリンシパリティ。鋭利な剣は貫いたガミジンを
通過しながら接触している部分から溶かすように吸収していきながら
溶かしきれない部分をちぎり離しプリンシパリティに迫る。
ちぎれ消えゆくガミジンの隊員は死力を尽くしてディブクの影を掴もうとするが
その手も吸収されてしまう。
「動くな!」
結界をはっていたガミジン達が向かいかける姿勢を止める声。隊長の声。
結界をはっているガミジンは動けない。ガミジンの隊長の位置は裕二側だった。
隊長もまた動けない。いや彼は動かないのだ。
プリンシパリティが気配に気づいた瞬間。
咄嗟に振る矛に剣だった影が巻きついてきた。
蛇のように矛を伝いプリンシパリティの体に巻きつく蛇。
その蛇がプリンシパリティを縛り始めると同時に蛇が大きくなり
人の形をとっていく。
「くっ!離せ!」
「ふ、ふへへへへ!つ~かま~えた~プリンちゃぁ~んふへへっへ」
ディブクは埃の集合体のような悪魔。その形状は自由自在である。
あらゆる場所に入り込み、あらゆる形に変わる。硬度も自由。
煙のように消えることも人形になり人のようなこともできる。
ほぼ全裸で十分な美貌を持つプリンシパリティを羽交い絞めにするディブク。
その様は流石にその場のほとんどのオスを釘付けにするほど
官能めいた光景だったが何故かカインだけは呆れていた。
「へへへへこのままお前を食っちまおっかな~。色々な意味で~」
「く、たばれ!」
パアアアァァ!!
プリンシパリティの耳元でいやらしく囁いていたディブクだったが
直後聞こえたプリンシパリティの声、その瞬間すべてを白く包むほどの光が
体育倉庫に充満した。天使の光という魔力だ。
天使は魔力によってその意識を光に変換して発光することができる。
その光は邪悪な存在を消し去る効果がある。結界のため光が外に漏れることはなく
光がおさまった時にはプリンシパリティの拘束は解かれていた。
ディブクの痕跡そのものがない。
裕二も映一も目を押さえていた。隊長とカインだけ下を向いていたのか
「おい、映一、大丈夫か?」
とカインは映一を、隊長は光の消えて脱力しきったプリンシパリティを
支えている。ディブクはどこに行ったか。
「・・・くっそ~・・・もう一息だったのに・・・」
その声は裕二の頭から聞こえてきた。裕二自体はまだ目を押さえている。
「今なら襲えそうだが襲えそうにないな・・・。まぁ
デザートをメインディッシュの前に食うのは野暮だよなぁ。なぁ?カイン」
「そんなとこだろうな。考えてることは・・・。
こんなとこまで人間引っ張り出して。下手したら未成年にB級の
アダルトビデオ見せるとこだったぞ。直接俺を狙ってこいよ」
「いや~こいつ(裕司)が俺を呼んだ理由もこういうのだからよ。
サービスのつもりだったんだ。ちなみにこいつのメインディッシュは妹なんだぜ」
「っ!」
その声に反応したのは映一。
未だ痛痒い目をしばしばさせながら立ち上がる映一。
視界が定まってないがしっかりと裕司の方向に向く。
「先輩。妹って・・・紗栄子ちゃんに何をするんですか?」
「さっきお前が天使に見てたことだよ!」
よろよろしながらも裕司も重い体を持ち上げながら
負けじと映一に向きながら叫ぶ。
顔を赤くしながらも映一の表情は眉間にシワがよる。
「紗栄子ちゃんとは兄弟じゃないですか!それに紗栄子ちゃんも先輩と一緒に」
「うるせえんだよお!」
「そうだよ!紗栄子は俺の妹だ!俺のもんだ!
誰にも渡さない!俺だけのものなんだ!!」
その叫びとともに裕司の体にディブクと同じ煙がまとわれた。
『なるほど・・・あの願望がディブクとの最初の契約か。・・・ん?
ディブクは民間信仰での悪霊だよな?病魔ともとれると
聞いたことがあるがそれがどう結びついたんだ?』
「でも紗栄子ちゃんは 「うるせえっつってんだろうがあ!
お前の口から紗栄子紗栄子言うな!普通は苗字で呼ぶもんだろうがぁ!!」
「でも・・・ 「でももくそもねえぇんだよ!
お前はもうすぐ死ぬんだろ!何も出来やしないままよぉ!何が映画監督だ!
何が俺の脚本で映画が撮りたいだ!出来もしねえことを口にしてんじゃねえよ!」
「?」 『?』 「「?」」
映一だけじゃない。今の叫びを耳に入れたもののほとんどが
何か違和感を感じた。ディブクでさえも。
校庭に次の就業時間の準備か、学生たちが出てきだした。
しかし何故か誰も体育倉庫に寄り付かないその倉庫内では
まだお昼休みは終わりそうになかった。
(続く)
久しぶりの更新でまさか前後編にするとは自分でも思いませんでした。
なるべく更新頻度を上げていきたいとは思っています。
読んでくれている方たちのためにも頑張ります!