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逢魔

「逢魔」という言葉がある。

禍時(まがとき)という言葉から色々とあっての言葉だという。

大禍時=逢魔ヶ時とも呼ばれる。

主に黄昏時、晴天の夕方の時間帯を指す。夕方の暗がり、西日に向かって

自分を呼ぶ人を見た時、その人のシルエットが影となりその人が誰なのか

解らないことからその人が知人なのか?他人なのか?それとも

何なのか不確定な存在に不安とも恐怖とも感じる事象から来ているという。

時間帯からの言葉だが言葉とは便利なもので逢魔は

意味合いを変えながら使うこともあるらしい。

カインたちは今、とある高等学校の体育倉庫の裏にいた。

カイン、プリンシパリティ、そして、影のような塊・・・。

「まさかお前さんだったとはな・・・」

カインが呆れながら影に向かって言い吐く。プリンシパリティは

カインを睨んでいた時以上の憎しみの表情で影を睨めり付けている。

「ふぇっふぇっふぇ、不思議には思ってたぜ。カインの妖気に

不自然に小さい聖気を感じてた。近寄っちゃぁ刻まれそうだったんで

警戒してたがふふっ、どこに売ってたんだぁ?天使のペットなんてへへへ」

影は輪郭が浮かび上がり下卑た表情で布一枚ながらある意味、

男らしくやりを構えているプリンシパリティを舐めるように眺めて言った。

「貴様!」槍を切っ先を向けて引き絞るがカインに制止される。

「俺が飼われてんだよ。なりゆきでな。」

「っへぇ~~。お前がね~」

「お前のせいだけどな・・・」

影が若干大きくなりながら挑発めいたセリフを吐くが

カインはそこまでだと言うように口の端を緩めながら睨みつけて言った。

影の動きが止まる。

カイン達の四方をガミジン達が囲んでいる。一角に3人。

日中ながら人の気配はこの周囲に一切ない。グラウンドでは

生徒たちが体育の授業をやっている。授業としてバレーをしているようだ。

しかし、体育倉庫に近づく人間はひとりもいない。

これが逢魔である。

魔がそこに集まる時、人は近づかない。死角に入っているというのか。

どんな賑わう繁華街ですら一つの路地に全く人の気配がなくなる時、

そこには魔が集まっているという。その魔が集まるところに時として、

足を踏み入れてしまう、踏み外れた足元が逢魔だった。という

事もあるようだがそれはまた別の話。

ガミジン達はカインのひらめきで逢魔を意図的に作り影、

この脱走した悪魔をおびき寄せたのである。

「ふふっ。で?どうするつもりだ?この場でやるか?」挑発する影。

「それができれば苦労しねぇよ。それともなんだ?

人から離れてくれるのか?」

「ふぇっふぇっふぇ・・・」

「宅間裕司君から・・・」

「!!?」

挑発に嫌気を顔に出し応えるカイン。その様子を見て笑う影だったが

続いて出た名前に笑いが止まる。

「・・・そこまで解ったのか・・・早かったな。」

「まぁちょっとした縁があったんだよ・・・」



前日の夜中。場所は映一の部屋。

カエルとヘビ。怯える映一とベッドに座り見つめるカイン。

『よりによって死神という部分を思い出したか・・・。

なにげに精神に親近感だけをすり込むつもりだったが

先に思い出されたか・・・。それにそもそもなんで死神の脚本なんか

書いてるんだ?こいつは・・・』

『こ、この人は死神だといった。間違いなく覚えてる・・・。

今年の文化祭の演劇の題材が死神なんだから・・・。いっぱい調べたんだ。

先輩の深海の変わりにわかりやすい死の象徴として死神にしてみたのに。

なんでこんなことに?』

それぞれの考えがそれぞれめぐる中、映一の顔に力がなくなった。

「あ!おいマリア!」カインの胸元の宝石が淡く輝き始める。

その輝きと同じ光が知らず知らず映一の体によく見なければ

気付かないほど淡くまとわりついていた。ゆっくり倒れこむ映一を

カインは立ち上がって抱きとめた。そのまま立ち位置を変え

ベッドに寝かせるカイン。

『どうしたんだ?その人間をどうするつもりだ?』

上からプリン(プリンシパリティ)が聞いてくる。

「こいつも疲れてるから本格的に眠らせて夢の中で説明しろ。

って事らしい・・・まぁやりやすいの・・・かな?」


・・・・・・・・・。


「ここは・・・?」

「おっす!」

さっきと同じような部屋。映一はそこが自分の部屋と

なぜか認識できなかった。そこへ挨拶が聞こえた。

「あ」

「改めて自己紹介するよ。俺はカイン。俗に言う死神だ。」

「!!」言葉を聞いた途端部屋全体が暗くなりだした。

その異変に映一も驚き出す。

「ああ、ちょっと落ち着いてくれ。ここはお前さんの夢の中なんだ」

「俺の夢の中・・・?」

「ああ、実際にゃお前さんはもう寝てる。おとなしく聞いて欲しいからな」

「・・・カインさんは・・・俺を殺しに来たんですか?」

「・・・まぁな」

「俺、死ぬんですか?」

「・・・まぁな」

「なんで・・・俺なんですか?」

「・・・わかんね」

「俺じゃなくてもいいじゃないですか!」

「・・・」

「俺死にたくないですよ!俺映画監督になりたいんです!

すごい映画いっぱい撮っていろんな人達に見て欲しいんです!」

カインは黙って聞いている。

映一の夢の世界。精神の世界では自己解放しやすい。

栄一の思いの丈をぶちまけさせるためにカインは、いや、

マリアは映一を眠らせたという事だ。

「世の中には悪い奴だっていっぱいいる!死んだほうがいいのは

そういう連中じゃないですか!なんで、なんで俺なんですか!!

なんでなんですかああああー!!」

強烈な叫びが部屋すべてを弾き飛ばした。

思いの丈を全部発散させた割には少なかったように見えるのは

彼自身、なんとなくだろうが言うだけ無駄なのが解っているようだ。

その理由は現実に見たカインやプリンシパリティの存在そのものを

認識したことにあるようで本物に出会ってしまった事による

事実の受け止めをしてしまっていたからのようだ。

周りは黒一色に包まれたが映一とカインの姿形だけ

そこにハッキリ見えている。

「・・・ごめんな」

カインがつぶやく。

カインの胸元から光が広がる。

「マリア・・・」

「・・・女の名前みたいですね」

カインが宝石を撫でながら再びつぶやくと映一から声が聞こえた。

その声は特に暗くもなく怒気もなく、普段の映一の言葉だった。

振り向くと涙を拭いながら

「死神も謝るんですね、はは」

涙目で笑いながらカインを見つめ返してきた。

「思い出しましたよ。カインさんが死神だと思い出して怯えていた時

急に頭の中にすごく優しそうな、悲しそうな声で「ごめんね」と

繰り返しながら聞こえてきて、そのカインさんの胸の光に包まれたんです」

「・・・そうか。こいつのおかげなんだな。」

カインはマリアを見ながら再び宝石を撫でる。

「すごく優しい声でした。死にたくないけどこれが運命ってやつなんだな。

と感じるとちょっと特したような気分ですよ!」

「得?」 不思議な顔をするカイン。

「事故で死ぬ人、殺されて死ぬ人、病気で死ぬ人。

いろいろ死ぬ時ってあるけど死神に実際殺される人ってそうそう、

いやまずいないですよね!っそう思ったらいい死に様なのかな。って」

「あ、いや、別に俺がお前さんを殺す訳じゃないんだ」

「え?」

「俺は本来いないようなもんだ。それはわかるよな?

俺がやるのはまぁ、その、運命に基づいて死ぬ運命を受けた人間を

運命に基づいての死を見届けてその魂を霊界に運ぶのが仕事なんだ。

俺が直接手を出すわけじゃないんだよ」

「そう、ですか・・・」

『落胆させてしまったか』

人間に心は不安定だ。カインはよく解っている。

どんなに安定していてもちょっとしたことで再び揺らぐ。

多感な夢を持つ空想好きな少年に一度納得させたことに

揺らぐようなことをすればどうなるか?カインは恐る恐る栄一を見る。

「でも・・・死ぬことには変わらないんですね・・・?」

声の感じに悲哀はあるが恐怖と共に憎悪が含まれている感じはなかった。

『この子供、本気で死を受け入れたってことか・・・すごいな・・・』

黒一色だった周りに気がつくと再び部屋に戻っていた。

栄一はベッドに座り、

「起きたら・・・死んでるんですよね・・・映画監督、なりたかったな~。

先輩の脚本で、映画撮りたかったな・・・」

ため息をつきながら未練の恨み節。そこへ

「ん?ああ、いやいや、別に今日死ぬんじゃないぞ!」

「え?」

「さっきも言ったが俺は運命に基づいて死を予定された人間の

運命を見届けるのが仕事だ。その人間が運命の死を迎えるまで

見守るのも仕事ってことだ。昼間変な天使に襲われたりその前に

不良に絞め殺されかけてたろ?」

「あれですか?ああ、確かに苦しかったですね。あの人達って

時々絡んでくるんですがあんなに苦しかったのは初めてでした。

いつもはもっと痛いくらいだったんですが・・・」

「いじめられてんのか・・・?」

「あ、ちょっとそんな感じ、なんでしょうか・・・?宅間さんと親しい

せいでもあるんですよね。あの人達もファンらしくてそのせいでも

あるんですが」

「宅間さん?」

「はい、先輩の妹なんですがアイドルの卵なんですよ!

しかもまだデビュー前なのにすごい人気で、それに演劇部にも

入ってくれてて、まぁそのせいであの人達来るんですけど」

「さっきから出てるその先輩ってのは?」

「・・・先輩は、俺の、俺に夢をくれた人なんです・・・

もう関係ないけど・・・」

「そんなに映画監督になりたいのか・・・?」

「それはなりたいですよ!そのために頑張って・・・」

「悔いを残すのもなんだ、映画監督にしてやるよ!」

「え?」呆然とする映一。

先輩のことを聞いてきたカインに先輩について話そうとする途中、

自分の夢を思い出し落胆しそうになった瞬間、

夢を叶えてやる。とカインが言ってきた。それは呆然ともなろう。

ふとよぎった疑問を映一が聞く。

「あの・・・俺っていつ死ぬんですか・・・?」

「ん?まぁ今じゃないのは確かだ。と言って詳しくは話せないけどな。

少なくとも一ヶ月は・・・」

と続いた瞬間カインの左腕がぐわっと上がった。

「カイン!そこまでだ!」女性の声が映一の世界全体にこだまする。

カインを見ると滝のような汗。

『一ヶ月は死なない・・・一ヶ月なんだ』

カインの顔、外からの女性プリンシパリティの声。

映一は自分の死の運命を受け入れるでもなく理解した。

その理由は本当は隠さなければならない事を自分のために

口走ってしまった事に狼狽えて汗びっしょりになってくれている

目の前のカインにあるようだ。

『この人はあの時も俺を守ってくれた。

この人は俺の夢も叶えてくれるかもしれない・・・

でも映画監督ってのは一ヶ月でなれるような生半可な夢じゃないんだ。

一ヶ月か・・・。文化祭は間に合う・・・ん?もしかしたら」

「カインさん、俺を本当に映画監督にしてくれるんですか!?

どうやってですか?」

「お!やる気になったか!?なぁにお前を映画作る会社に潜り込ませて

監督の立場に周りの人間を操作してやるよ!」

『おいカイン!』

「プリンは黙ってろ!ある程度の精神操作はいいんだよ!

必要経費みたいなもんだ!まぁどの程度の映画にもよるけどな。

でかい映画だと社会的影響もでかい。流石にそれはまずそうだが

映画監督にはすぐにでもしてやるぜ!」

『やっぱり・・・』

何かをひらめく映一・・・。

『貴様!今なんと言った!!』

怒気を孕んだ叫びがこだまする。だがプリンシパリティは

人の精神世界には入ることができない。カインは得意満面だ。

「カインさん・・・」

「ん?」

映一の声のトーンが変わった事にカインは気づいた。

「俺の夢を代わりに叶えてほし人がいるんです。でも今その人、

ちょっと立ち止まってて・・・俺死ぬんならその人に叶えて欲しいんです!

その人を映画監と・・・いや脚本家にしてもらえませんか!?」

「先輩のことか?立ち止まってるってのはどういう・・・?」


逢魔・・・カインと逢ってしまった運命を受け入れた少年は

悲しみを越えて物語を進み始めた。

久々に続きを書きました。忘れてるもんですね。

すじがきは頭にあるのと昔に書き留めてたメモを使って書いてるんですが

過去の話と照らし合わせると名前が違ってたりして・・・いやはや

お恥ずかしい。ヒロイン的なアイドルの女の子の名前、

「久美」と書いている話がありますが「紗栄子」に固めようと思います。

先輩の名前も決めましたが登場する人物の名前は全て架空の名前です。

フィクションですのでご了承ください。

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