天使と悪魔 (プリンとカイン)
「カインによろしく」シーズン2!
ってとこですかね(笑
今回はとある事件が魔界で起きてしまいその舞台が人間界になってカインもとばっちりを受けてしまう。というお話です。
とばっちりの受け方がアレですが良かったら読んでくださいね。
人の生き死にというのはどうやって決まるのか?
自ら命を落とすものもいれば、まるで思いがけず唐突な事故で死んでしまう事がある。
ところが今にも死にそうな環境から生還する事もあれば、直前まで近づいた死の足音に全力で逃げる自殺者もいる。
・・・戦争はこの際論外としよう。時代が進み生きる可能性が高くなってもそれでも人は勝手に死んでいく。
どれほど生きたくても環境がそうさせない。死ぬ必要がないのに心が死のうとする。理不尽で不条理で・・・不器用なもんだ。
それが人なんだろうけどな・・・。さて、帰るか・・・。
男の呟きは全て闇の中に溶けて消えた。下でうずくまる血溜まりの中の動かない男の体から闇を照らすにはあまりにも弱弱しい
光を放つ光を掌にのせては、腰の鞄に滑り込ませるように入れる。すぐさま蓋を閉めコートの内ポケットから手帳を取り出し、
数ページめくりなにかを確認すると手帳をたたみ、リフトに乗ってるかのように体をゆっくりと上へと浮かべる。闇の世界、
血溜まりから遠ざかる男は血溜まりを一瞥すると浮かぶ速さを上げる。
「なんだかな・・・。」
男の口がなにかに溜まりかねて呟いた。その時闇の感じは変わっていた。澄んだ星空。冷たい風は今まで濁った闇の中にいた
男の空気を洗い流すように男を吹き過ぎていった。ビルの屋上に抜けた男は再び下を見る。血の赤すら見えない闇の底に、
「何かが悪かった訳じゃねぇ・・・だがもっと上手に生きればよかったのにな・・・」
見えない誰かに呟きながら気付くと手は腰の鞄に乗せて慰めるように撫でていた。ふう・・・ため息を一つ、顔を上げた男だったが、
『・・・?なんかくる!』
後頭部少し右になにかしらの感覚に気付いた男、殺伐としたものではないと判断した男は体をその方向に向けて何かを待つ。
飛ぶ鳥すら寝ているのだろう。闇の中、半月のなお欠けた光の中視認する事はできないが近づく何かを
理解した男は
「なんだよ・・・お前らか・・・。」
表情はより柔らかくなりながら側まで来た彼らを迎えた。
「しばらくだな、カイン。」
彼らの中央に立つ一際大きな男が喋る。姿勢を崩さないカインという男。
喋った男の後ろが下を確認してはその男に何かを伝える。
「なるほど、仕事か・・・。精が出るじゃないか。昼もこの辺で確認してたぞ。」
照れくさそうに頭をかくカイン。
「なんだよ、気付いてたのか。それなら一声駆けてくれればいいのに。」
「ふっ。なにかに熱中してたみたいだしな。邪魔も悪いと思ったんでヘカーテ様に報告するに留めておいたよ。」
「!!!!なんだと!!?。」
「・・・ぷっぶわぁっはっはっははははは!。」
カインの予想通りのうろたえぶりに後ろの男たちは爆笑した。それには目もくれず大男に食って掛かるカイン。
「ちょ!じょ、冗談だろ!?なんで、なんでそんなこと」
「ヘカーテ様に言われてたんだよ。『カインがサボってたら報告しろ』とな。こちらは義務を果たしたまでだ。」
割り込んだ言葉を聞き終えると大男の喉笛にこめられていた腕の力がカインの姿勢と共に抜け落ちた。
「・・・ぅう〜わ・・・。ま、また減給か・・・?ヘタすりゃ」
「クビかもしれませんね〜〜!。」
大男の後ろの男がちゃちゃを入れてきた。突然カインの顔に怒りがこみ上げたかと思った瞬間。その男以外の全ての男達が
カインを抑えにかかる。
「てっめええ!この半端馬野郎!お前がいうんじゃねえぇ!。」
「待て!カイン落ち着け!悪かった!悪かったから・・・。ほ、ほらお前も謝れ6号!。」
「あ、え?・・・あれ?・・・は、はい!すいません!カインさん!言い過ぎました!ごめんなさい!。」
ドタバタの悶着も散々あやまる6号と呼ばれた男の姿勢でまだ釈然としないカインであったがひとまず距離を置いた。
「ふう・・・まぁ、減給はあろうが自業自得だろう。あいつの言葉も悪かったがお前も今後気をつけることだ。」
「・・・そりゃそうだな・・・。悪かったよ。あの言葉は俺も言いすぎた。謝る。許してくれ。」
頭を下げるカインを見ながら大男の後ろでめそめそしていた6号が
「い、いえ、グス。自分も調子にグス乗ってしまってすいまグスせんでしたグス。」
これでとりあえずの落着とすべきと見た大男が話題を変える。
「でも今は仕事が終わったのだろう?これで堂々と遊べるんじゃないのか?。」
「あ、いや、これからこの魂を霊界に運んで、
はあ・・・ヘカーテ様に報告、んで説教。報酬受け取り。で終わりだ。もうちょっとある。」
「そうか・・・。大変だな。」
この辺が引き時だな。そう考えたカインだったが改めて彼らを見て何かの違和感に気付いた。
「あれ・・・?なぁ、ガミジン隊って5人編成じゃなかったっけ?多くないか?。」
「ん?ああ・・・。ちょっとな。こちらの事情だ。まぁ、お前が冥界に帰る頃には戻ってるよ。」
「そうか。お前らも大変そうだな。まぁお互いがんばろうぜ。」
「ああ、それじゃまたな。カイン。またどこかで会おう。」「さよなら!」「さいなら。」「本当にすいませんでした!!」
彼らがそれぞれカインに挨拶する。それを見ながらカインの体は再び浮かび上がりながら景色に溶けるように消えていった。
ガミジン。堕天使に貶められながらそれでも天界に尽くす悪魔たちで主には人間の世界の取締りをしている。
言わば魔界の警察のような存在である。半人半馬で単独ではなく主に複数で行動する。それにはある理由があるが、
それは今後明らかになるだろう。ともあれ人間の世界で動くということでちょくちょくカインという男とは面識を持っている。
「・・・さて、道草をしたな。脱走者はもう少し西のようだ。他の隊も駆けつけている。これ以上ヘタに被害が出ると
面倒なことになり・・・」
ガミジンの大男が口を止める。
「隊長。どうしました?・・・まさか・・・。」
「・・・ああ、そのまさかだ・・・。やれやれ・・・ああ、心配するな、カインと会った事が原因じゃない。
それ以前に事態がそれ以上だった。ということだ。」
隊長はため息混じりに答えた。
「さて、まず現場に行く事が優先だ!総員続け!。」
隊長の号令に隊員たちは気持ちを入れ替えるように前足を蹴り上げる。闇に吹きぬける風すら貫くような速さでその一団は
有明月を目指すように空を駆けていった。
彼らのいたビルの谷の闇間には複数の赤色灯の明滅まぶしく闇の中で行われた殺人事件の現場捜査が始められていた。
しかしそれが自殺とわかるのはすぐのことであれ、それはこれから始まる物語には・・・さして関係ない話である。
自殺者の魂を運ぶカインの物語はこれから始まる。