爆弾行動
お待たせしました
「私の名前は、矢野 ミナです。みんなこれから仲良くしてね!」
喋り方こそ違う物のその姿は完全に家にいるはずの少女の物だった
(本当になんでこいつはここに……手続きとか必要だろ。……というか何で俺と同じ名字を名乗ってるんだこいつは。)
とにかく一向に状況が掴めない終夜だが、取りあえず今は他人のふりをすることにした。
『なぁなぁ終夜。』
『……なんだよ』
『さっきまで興味なかったけどさ。……あの転校生すっげぇ可愛くね?』
『あぁ…うん。……そうだな』
後ろから真人に話しかけられたが、今はまともに返答することが出来ない。何故なら転校生がミナということは自分の隣の席になることが確定しているからだ。
それはつまり必然的に関わる可能性が高くなるというわけだ。向こうから話しかけてこなければボロは出てこないだろうが、そんなわけにもいかない。
『というか、あの子の名字ってお前と同じじゃね?』
『……珍しい名字でもないんだしそれくらい普通だろ』
あいつは絶対に話しかけてくると終夜には何となく分かってしまっている。
どうした物かと考えようとするが無情にもその時はやって来てしまった
「はい、自己紹介ありがとう。それじゃあ空いてる席に座って」
「分かりました」
ミナはそう言って終夜の隣の席に近づいていく……ように見せかけて明らかに終夜の席に近づいてきた。
(ぎゃあああ!何で俺に近づいてくるんだああああ!何でどんどん速くなってきてるんだアアアアア!)
終夜のいる所に近づいてくるにつれてミナの歩く速度がどんどん速くなってきている。そしてとうとう終夜の近くに来たときにミナは少しだけ膝を曲げ……信じられない行動に出た
「しゅ~う~や~!」
「キャアアアアアアア!」
終夜に思いっきり抱きついてきたのだ。座っている椅子が盛大に倒れるほどに。後ろにいる真人も少しだけ巻き込んで
『え?なに?どういうこと?』
『キャー、何かよく分からないけど凄いわー!キャー』
『おのれ、終夜の奴……羨ましいぞこのヤロー!』
(そりゃ騒ぎになるわな!いきなり転校生がクラスメイトに向かって抱きついてきたんだもんな!……にしてもミナのやつ……何だこの笑顔は……)
現在ミナは家では絶対にしなかったような、正真正銘の表裏のない純粋な笑顔を浮かべている。
そして終夜はその笑顔を見てそうとうに動揺している。
(だぁああクソッ!こういう演技なんだろうけど不覚にもかわいいって思っちまった!)
今のミナはたしかに演技も多少入っている。しかしそれはだいたい三割ほどしかない。つまり今のミナは素の割合の方が高い。
「おい、……終夜」
(うわぁ……真人の目がヤベぇ。……殺意すら感じるぞ。……取りあえず今は……)
「よーし!新しい転校生さん?取りあえず教室から出ようか!」
「え…ちょ――」
ミナが再びとんでもないことをやらかす前に終夜はミナを教室の外まで引っ張っていった
教室から少しだけ離れて誰もいないことを確認すると終夜はミナに問い詰め始める
「さーて!色々言いたいことがあるから質問させて貰うぞ?……お前何でここにいるんだ?」
「決まってるじゃない。今日から私もこの学校に通うからよ」
ミナの口から出て来た言葉はそんな分かりきった答えだった。
「いや、それは分かってるわ!俺が言いたいのは制服とか手続きとかどうしたっていうことだよ!」
「そういう面倒なことは悪魔的パワーでちょちょいっとやったわ」
「悪魔的パワーすげぇ!」
もうすっかりとオカルトを認めきった終夜は、もう悪魔って何でも出来るんだな……と自分に言い聞かせて無理矢理納得する
「……はぁ、分かったよ。もう今度からはお前が何かやったら悪魔的パワーで済ませておくよ……」
「それはよかったわ。話はもう終わりかしら?」
「んなわけねえだろ!……お前のキャラの違いはもう気にしないようするけどなぁ……何で席にも着かず真っ先に俺に抱きついてきた!」
終夜にとってはこれが一番の問題だ。いきなり女の子に抱きつかれるとか心臓に悪すぎる。
それに、クラスメイトからしたら。美少女転校生がいきなり自分の隣の席の男子に抱きついたのだ。これでは確実に変な噂が出るだろう。
「……昨日と同じ理由よ。それと唾付け行為ね。他の人間に盗られたら呪いが成功しなくなるもの」
要約すると好きな人を他人に盗られたくないので『こいつは私の物だ!』と主張するためということだ
「盗られるもなにも……そもそも俺って全然モテないし意味ないと思うんだが……」
「……アンタがそう思ってるならいいわよ。……念には念を入れただけってことで。……あ!それとさっきのも完ッ全に演技だからね!勘違いしないで!」
見事なまでのツンデレのテンプレートである。これなら終夜も流石に気づ――
「だろうな。最初からそう思ってたよ」
――く筈がなかった。この男、実に鈍感である。
「何で不満そうな表情してるんだよ」
「……何でもないわよ」
彼女自身は理不尽であることは分かっているが終夜の鈍感さへの悪い感情が表に出てしまう。
それもこれも終夜が鈍感だから悪いのです。
「はぁ……。過ぎたことは仕方ない。教室に戻る間に何かそれっぽい理由考えるぞ。いいな?」
「任せなさいな。いざとなれば最後の手段で悪魔的パワーで洗脳するなりでどうにかするわ!」
……やっぱこいつは悪魔だな。と終夜は心の中で呟くと、必死に理由を考えながら教室へと戻るのだった。