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第十七話 私、得点王になりますっ!


 クラスの男子の目は想像通りギラギラとしていて恐ろしかったが、それも妬みからくるものだと考えれば少しはやり切れる。

 サラのペアというのはきっとじゃんけんに負けまくった俺への労いのようなものなのだ。



 「今日も一緒に頑張りましょう!」


 「あぁ……」



 片腕を突き上げるようにして俺に呼びかけるサラは笑顔を絶やさない。

 絵に描いたような百点の笑顔だ。



 それを皮切りに早速向かい合って準備体操を始める。

 向かい合っているのは互いの体操を確認し合うため……ではあるのだが、実際そのようにしているペアというのはあまり見受けられない。



 準備体操なんて流れを覚えてしまえば間違えることはまずないうえに、あくまでも準備である体操に対してそこまで情熱的になる奴もいないからだろう。



 だから俺は体操をしながらもいつしか唯さんに関することを考えていた。

 それも体操をしていることを忘れてしまうくらいに。



 「……うたさん。 優太さん!」


 「――え、あ、どうしたんだ?」


 「どうしたんだもなにも優太さん。 腕の角度、もうちょっと上げた方がいいんじゃないですか?」


 「ほんとだ。 ありがとう、気を付けるよ」



 言われた通り腕を見ると確かに思っていたより角度が落ちていた。

 体は案外自分が思うように動いてくれなかったりする。



 「体操はケガをしないためにも大事ですから。 ばっちりやり遂げちゃいましょう!」


 「準備体操でばっちりやり遂げるか……」



 少し大袈裟な台詞に俺が笑うとサラが不安げに首をかしげる。



 「あれ……? 言葉を間違えていましたか?」


 「大丈夫大丈夫! むしろ凄く良いこと言ってるよ」


 「そうですか? ふふふっ。 おだてても何も出ませんよ?」



 サラは何も間違っていないのだが、思わずその健気な姿に笑みがこぼれてしまった。



 みんながどうとかきっと関係ないのだろうなこの子にとっては。

 ただ一生懸命にあらゆる物事に真剣に取り組もうとしているのだ。



 それは本当に模範となるべき姿勢で、だけど簡単には出来ないことで。

 だからこそ尊ばれる。



 何なんだろうかこの天使のような生き物は。

 穢れとか嘘とか怠慢とかそういうものを一切感じさせないその雰囲気。



 唯さんに嘘を吐き、姿をくらまされた俺とは対のような存在に感じてしまう。

 下手な宗教に入るくらいなら俺はサラ教に入信したい、そう心から思っていると、



 「あの、何かとても変なことを考えています?」



 まるで俺の心を読んでいたかのようにサラが俺にそう訊ねてきた。



 「いやいやとんでもない。 大事なことを考えていたんだ」


 「それならいいのですが……」



 なおも怪訝そうにこちらを見つめるサラ。



 ひょっとして変な顔にでもなってしまっていたのだろうか。

 だが付き合いの長い梓や友人二人組に指摘されるならまだしも、比較的付き合いの短いサラにこういった指摘をされるというのは少々意外だった。



 準備体操が終わって早速今日の活動に移る。

 今日の体育はサッカーだ。

 最初にペアにパスを出し合ったりして練習を行い、頃合いを見て男女別の試合が始まるという流れだ。



 言わずもがなこの活動において俺に目立つ場などは設けられておらず、智也のようなサッカー部含む青春謳歌し隊がぶいぶい言わせるであろうことは目に見えていた。

 だから本来なら練習もある程度で済ませるところなのだが……。



 「佐藤さん、私やるからには得点王になろうと思うんです」


 「体育の授業にその得点王って言葉はあまり釣り合わないんじゃないか……?」



 どうもそうはいかなくなってしまいそうだ。



 「梓さんに聞きました。 佐藤さん昔サッカーをやっていらしたんですよね?」



 サッカーボールを持ってくるや否や期待に満ちた目で見てくるなと思っていたらそういうことだったようだ。

 梓には後できつく言っておこう。



 「確かにやってはいたけど……智也に誘われてい仕方なくって感じだったし何年かですぐ辞めちゃったからなあ。 言っとくけど偉そうに教えられるほど上手くはないぞ?」


 「全然かまいません! サッカーを教えて頂ければそれで!」


 「いや、でもなあ……」


 「前に私に協力してくれるっておっしゃっていたじゃないですか……」


 「くっ……! それを言われると……!」



 協力せざるを得なくなってしまった。



 そんなにサッカーが好きだったのだろうか。

 あまり見ないくらいに今のサラは張り切っているように見える。



 まぁしかし得点王ともなればサラとは敵チームになっている梓と張り合う必要があるわけで、そうなれば今の張り切り方もわからなくはない。

 梓は運動神経に関しちゃ化け物だからな……。



 直近の話で言うと俺の乗った自転車を受け止めていたことだろうか。

 ――いや、そもそもあれは運動神経関係あるのか?

 よくわからないがとにかくやばいということだけがわかっていればいいか。



 「じゃあ時間もないし早速始めよう」


 「はい先生。 よろしくお願いいたします」


 「新鮮だな、先生呼びされるのって」



 綺麗なお辞儀をしてみせたサラに対して俺も頭を下げてそれに応える。

 こういう形から入るのは俺としてもモチベーションが上がるので悪い気はしない。



 さて、だが教えるとは言ってもこれだけの短時間で上達させるというのは普通に無理がある。

 そこで俺が考えたのは――。



 「梓に勝つなら覚えることは一つ。 フェイントだ」


 「フェイント、ですか?」


 「そう、フェイント。 ボールを蹴りながらスッと避けるあれだ」


 

 凄く単純な話梓は基本的に自分のスペックだけでなんとかするような奴なので技もなく強引に相手を抜き去る形になると予想される。

 それでどうにかなってしまうのも凄いが、梓に穴があるとするならおそらくここだろう。

 つまり要約すると、



 「力には技を以て制すんだ」


 「わぁー! なんだか本当に先生みたいでかっこいいです!」



 サラの尊敬の眼差しが眩しい。

 そこまでかっこいいことを言った覚えはないのだがサラのよいしょ力は俺の想像を越えていたようだ。

 両手離しで喜んでいる。



 しかし浮かれて見えるサラに俺は一つ大事なことを言わなければならなかった。



 「サラ、でもここで問題があるんだ」


 「問題ですか?」



 確かに梓に足りない分の補強としてフェイントを教えるのは良いが、それを一朝一夕で覚えて試合で繰り出すともなると人並みのポテンシャルではまず無理なのだ。



 あくまでも俺にできることはこういう技があるぞ、という知識面の補強だけなのだから。



 それ故、酷な話だが結局サラにそこそこの能力があるのが前提の話になってきてしまう。

 それが問題点だった。



 「俺は俺の知ってるとっておきのフェイントを教えるつもりだけど、それを教えられてすぐ出来るなんてそんな簡単なことがあるわけがない。つまりここではサラの持つ力が必要になってくる」


 「なるほど。 その通りだと思います」


 「それにもし会得したとしても試合で咄嗟にできるかもわからないし、出来ても普通に止められるかもしれない」


 「そうですね」



 俺はサラの目をしっかりと見て言う。



 「やるか?」


 「やります」



 返事は即答だった。

 きっと聞かずともよかったのだろうが、彼女のやる気が少しずつ俺の抱える疑問の数々を溶かしていってくれているような気がして。



 「よし、十五分しかないんだ。 ばっちりやり遂げよう」


 「遂げましょう!」



 俺は自分が何かに期待しているのを感じていた。


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