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ハリネズミの旅  作者: 木村アヤ
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カニパーティー

僕は生ビールをごくごくと勢いよく飲んだ。なんとなく自分の努力不足を認めていないだけな感じもあるけれど、こういう人もいる。

僕はしばらく荒井さんの話を聞いて、二件目まで付き合ったあと、別れて帰った。荒井さんは風俗店へ繰り出して行った。僕も誘われたけれど、断ったら強くは勧めなかった。悪い人ではないのだ。ただどこかしらバランスを欠いているだけで。

翌朝僕は普通に出勤した。勤め人なので、働かなければならない。当たり前の、地球には重力があるということと同じくらいのことだった。デスクに着くと、セシルの視線を感じたが、彼女は何も言ってこなかった。お昼に話をさせられそうだなと思ったが、実際にそうなった。

僕はお昼に屋上にメールで呼び出された。購買でパンを買って屋上に行くと、案外人はいた。社内カップルみたいな人達もいたし、普通に同僚同士という感じの集団もあった。ここでセシルと話したら意外と目立ちそうだったので、気がすすまないながらも、柵の下の出っ張りに腰掛けて弁当を食べているセシルを見つけたので、そっちへ寄って行った。

「やあ、セシル、何か用?」

「いや、別に。あれからどうしたのかなって思って」

「別に特に何もなかったよ。警察署に行って、やっぱり例の高校生だったから、そう言ってきただけだった」

「そう」とセシルは思案顔になった。

「どうしてあんなことやったんだろうね」

「悪霊に取り憑かれたんだよ」

「ドストエフスキー」

「そう。よくわかったね。日本語版を読んだことでもあるの?」

「好きだったからね」

「それはすごいね。普通あまりできることじゃない」

「あるいはそうかもしれない」

「村上春樹」

「当たり」

それから僕たちは適当に話をしながらお昼ご飯を食べてしまうと、一時の五分前には自分達のデスクに着いていた。いくら就業時間がフレキシブルとはいえ、時間を守ることが美徳とされている日本では、自分の意思で決まった時間に何かをする価値を重んじると、上司とかの印象が良くなりそうな気がするので、僕はそうしている。セシルはいつもは割と自由な時間に戻ってきているのだが、今日は僕に付き合ったので、この時間になったんだろう。

仕事を終えて自分のアパートに戻ると、両親からカニが届いていた。発泡スチロールの箱の中に立派なやつが四匹入っていた。北海道の出身なので、たまにこういったものが送られてくる。

僕はちょっと迷った挙句、セシルを呼んでみることにした。一人ではこんな量は食べられない。そういったことをメールで送った。

しばらくすると返信があった。来るとのことだった。それで明日の夜にセシルが来て、ついでに料理もしてくれることになった。

翌日、仕事場で会ったセシルとそのまま僕の部屋まで向かった。途中のスーパーで具材を買い込み、カニのサラダとチャーハンとソテーを作ってくれた。どれも美味しかった。

カニパーティーを楽しんでいると終電がなくなってしまったので、セシルはそのまま僕の部屋に泊まった。


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