プライベートな癖を直すとパブリックな方にいってしまう
自分の家に帰ってから、僕はまず家事を片付けた。洗濯機で洗えるものは洗い、そうではないものはクリーニング屋へ持って行った。やっていなかった部屋の掃除もやってしまい、ついでにユニットバスもゴシゴシと磨いた。
僕の部屋は家賃は安くて、感じのいい部屋だ。カーペットを敷かない、木のフローリングの上にニトリで買った家具がいくつか置いてある。ほとんどは学生時代に一人暮らしを始めるときに買った物をそのまま使っている。そろそろ買い換えてもいいころかもしれないけど、今のところそういう予定はない。
固定電話は持っていない。全ての連絡はスマートフォンの電話かメールに来る。電話もメールもパソコンでもチェックできるし、多少の違和感があるけど、パソコンから電話することもできる。両方持っているのは、どちらかが壊れてしまったときのためと、キーボードの大きさの違いのためだ。パソコンの方がキーボードを使った作業はしやすい。
スマートフォンの方でメールをチェックすると、荒井聡から飲みの誘いが来ていた。大学では僕が一年生の時、同じアカデミックな英語の基礎クラスを取っていて、三つ年上だった男だ。一浪して他の大学に入り、二年生を終えたあと、僕の大学の二年生に転入してきた。そこでは彼は一年生に混じって基礎クラスをとらなければならず、そういうわけで、僕らは少人数の同じクラスで、英文のエッセイの構成を学んだり、3Dプリンターに関するプレゼンテーションを行ったりした。大学にもなれば、さほど珍しいことでもない。
そんな彼からの飲みの誘いだったが、僕はいつも通りOKと返事を返した。彼との飲みは好きだ。彼の抱える闇が僕のなにかを癒してくれるのだ。
僕は指定の時間に彼が勧めてくれた居酒屋へ行った。そこでは軽く夕食も食べられる。いつも通り五分ほど遅れて店に入ってきた荒井は僕を見つけると「よう」と言いながら僕の前に座った。
「ごめん、遅れて。癖が治らなくて。本当にごめん」
「いいよ、別に。そういうプライベートで多少遅れるという癖を直そうとすれば、パブリックな部分にいってしまうって前に言ってたよね。パブリックで遅刻するよりはこういうところでそのどうにもならない君の一部を吐き出しちまった方がマシだろ。気にするなよ。僕のプライベートの五分の価値なんてマックフライポテト五本分とどっこいどっこいなんだから」
「いや、申し訳ないと思ってるんだけどね」
腰が低い。もはや卑屈と言ってもいいレベルだ。
「今日は愚痴を聞いてもらいたくて。大丈夫かな」
「大丈夫ですよ。どうしたんですか?」
「いや、やっぱ人って生れながらにして不平等に作られてるなって。バスケットボールの話なんだけどさ、僕は元々小学生の頃は結構上手かったんだよ。小学生クラブのレギュラーで県大会とか全国大会とかにも出てた。でも僕は背が伸びなくてさ、高校まで続けたんだけど、背の高いやつは僕のシュートなんか全部カットしちゃうんだよね。そこら辺から僕は勝てなくなっていって結局バスケットボールやめちゃったんだよね」
「まあ、そういうこともあるかもしれない」と僕は相槌をうった。
「バスケにおいては背が高いやつはそれだけで有利だし、他の分野でも親の遺産を相続したり儲けて資産のあるやつは種銭が多いっていうところで株取引で有利だったり、足の速いやつはサッカーとかラグビーとかいろんな種目で有利だったり、自分ではどうにもならないところで差がつくから、世の中って不平等だな」




