でも私は、ペンギンかもしれない
僕は「茜音ちゃんと相談します」と言って、電話を切った。
「どうする?」
「仕方ないわ。田中さんのところに戻るわよ。でも嫌だな。わたし、あの人、どうも好きになれないのよね」
「一般論だけど、たまには嫌なことも我慢しなきゃいけない。飛ぶのが嫌いだからといって、飛ばなければ鳥は生きていけない」
「でも私は、ペンギンかもしれない」
僕は空を見上げた。雲が女性の性器のように見えた。
「冗談よ。さすがにその辺で寝るほど私は自分のことをどうとも思っていないわけじゃないわ。あなたのところへは行けないのよね?」
「そうだね。流石に君の年の女の子を家に連れ込むのは、何もなくてもまずい」
「仕方ないな、田中さんのところに行くか」
茜音ちゃんは結論に至ったようだった。
「それにしても、法的に決着がついてるっていうことは、茜音ちゃんの推測が当たってたってことだよね、たぶん」
「そうでしょうね。まあ、過ぎたことだし、仕方ないわ」
「じゃあ茜音ちゃんはハーフってことなんだね」
「そうね。私は日本人と中国人のハーフってことになるんでしょうけど、まあ、それ以前に私は山下茜音目山下茜音科の山下茜音だから、別に気にしてないわ」
僕らは電車と徒歩で理恵さんの家まで向かった。理恵さんの茶色い家の前まで来た時、茜音ちゃんが言った。
「ねえ、あなたもいてくれない? この家の雰囲気、怖い」
僕は茶色い家の、二階の窓を見上げた。白いレースのカーテンが閉まっている。中は見えない。カーテンがかすかに揺れて、その隙間から誰かの目が覗いた。僕はすぐに目を伏せたから、目は合わなかった。
「理恵さんさえいいって言ってくれたら、僕はいいよ」
「やった。大丈夫、あの人は断らないわよ。来るもの拒まずの底なし沼みたいな人だもの」




