主張したいこと
僕は店の名前と、自分の外見を伝えてから電話を切って二人に聞いた。
「僕は渋谷警察署に行ってくるけど、二人はどうする?」
「一緒に行ってもいいかな?」
と茜音ちゃんは聞いてきた。
「いいんじゃないかな。王さんから電話があったらすぐに教えてあげられるし」
「私も行きたいけど、ちょっと用事があるから。ごめんね」
「いや、ありがとう。僕らだけで行くよ」
それから少しして、店のドアが開いて、デニムパンツを履いたカジュアルな格好の女性が入ってきた。目で僕を探し当てて、近づいてくる。
「すいません、それではよろしくお願いします」
「はい。この子は連れて行って大丈夫ですか?」
女の人は少し渋い顔をしたが、うなづいた。
「ロビーで待っていていただければ大丈夫だと思います」
渋谷警察署での確認は比較的スムーズに行われた。例の高校生が取り調べを受けている隣の部屋から、マジックミラーを通して顔を見ただけだった。高校生はなかなか顔を上げなくて、取り調べの警官が誘導してもずっと顔を伏せていた。十分くらいして、彼は顔を上げたが、彼の目はこちらを見ていた。僕は隣にいた警官に間違いありませんと言った。
「なぜこんなことをやったんだ。なにか、言いたいことがあるんだろ? 主張したいことが!」
と、隣の部屋の警官は叫んだ。
あなた達の世代とは違うんだ。と僕は思った。主張したいことなんてまるでない。ただ、何かに影響されているだけだ。漫画とかテレビとか小説に。
茜音ちゃんと警察署の外に出ると希望の場所まで送ると言われたので、僕は新宿御苑までと頼んだ。いささかくたびれていたので、自然の中で休みたかったのだ。
陽の光がオレンジ色になって来て、やっと王さんから連絡があった。
「私がその子の実の父親だったからと言って、それがどうしたんだ? 法的に言ってその子との決着はもう着いているんだ。君のやるべきことはその子を早く田中さんに引き渡すことだ。下手に騒いだら会社でどういうことになるかわかっているのか?」
僕はもちろんわかっていたから黙っていた。(彼は一ヶ月後に僕が書いた匿名の告発状によって停職され、すぐに自主退職した。彼は他の女の子もストーキングしていた)




