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ハリネズミの旅  作者: 木村アヤ
32/42

わかるわかるって思うと思う

僕は警官に背を向けた。茜音ちゃん達がいるという喫茶店には心当たりがなかったので、とりあえずさっきの定食屋まで行って、周りを探すことにした。

歩いている僕の後ろに女の子が二人いて、こんなことを話していた。

「私この前エスカレーターで転びそうになったんだよね」

「え、マンションの中で?」

「普通に横浜駅のエスカレーターで」

「それはやばいね。でも私が周りにいる人だったら多分、ああ、わかるわかるって思うと思う」

わかるわかる、と僕も思った。そういう意識失う状態ってたまに陥るよね。実際に転ぶまでにはいかなくても。心神喪失っていうのはああいう状態なんだろうか。多分違うけど。

喫茶店らしきものが見つかった。言った通りであればここに茜音ちゃんとセシルがいるはずだ。

ヨーロッパ風の重い木のドアを開けて薄暗い店内に入ると、奥の方に二人が見えた。二人は何か熱心に話しているようだった。二人は興奮しているみたいで、顔がこころもち赤かった。僕が店に入ったのにも気がついていなかった。

「やあ、なんとかなったよ」

「あっ、よかったです。無事で」

「偉かったね。捕まるといいね」

「ありがとう。久しぶりにあんなに走ったよ」

「どこまで走ったの?」

「恵比寿のあたり」

「それはお疲れ様でした」

「あとは警察に任せてきた。それより、なんの話をしていたの?」

二人は顔を見合わせた。

「(僕の名前)さんはどうていですか?」

「そうだよ。この前ちょっと危ないところだったけど」

というのはもちろん理恵さんの家での出来事だった。アンドロメダ星雲からやってきたアンドロメダ星人である理恵さんは僕が彼女の家に泊まった夜にもっと奇妙なことをした。あれは夢だったのではないかと疑いだすくらい奇妙なことだった。そのことは多分いずれ書くのだろうと思う。

「それはチャンスを逃したというのでは?」

「多分法的にはそうなる。でも道徳的にはおそらく危ないところっていう表現であっているはず。その人は僕の妻というわけでも、婚約者でもないし」

「ということは(僕の名前)さんはどちらかといえば、道徳を重視する人間だと。女の敵ですね」

「なんでやねん」

「やーい。チキンチキンー」

「セシル、覚える日本語は選んだ方がいい」

「チンキチンキー」

「それは別の意味でやめておいた方がいい」

「はあ、どこかに紳士的な肉食男子がいないかしら?」

「フランスだと、そんなことはなかったの?」


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