火事が必要だ
話が途切れた。制服を着た男子高校生が一人入ってきて、セシルから席を一つ空けて座り、食券を渡すと頭を抱え込んだ。何かをぶつぶつ言っている。耳を伸ばすと聞き取れた。
「この世の奴らはみんなクソだ。クソな奴らが作った建物もクソだ。燃えちまえばいい。あのスターバックスは結局ボヤで終わった。あれじゃあダメだ。世の中の奴らにクソさを教えてやるにはあんなのじゃ足りないんだ。もっともっと広い範囲に火を起こさなければ。しかも同時に。そうすれば。いや、待てよ。それで捕まったらどうする? 今回はボヤだったから捕まっても数年で済みそうだ。だがその大火事を起こしておいて捕まったら? 終身刑、下手すると死刑かもしれない! だが、僕のこの高尚な気づきを奴らに分からせるためには、この方法を取るしかないんだ。それもなるべく早く。本を出版するのはどうだ? いや、奴らは口当たりのいい、面白おかしい本しか読みやがらない。深遠で高尚な考えを普及させるためには、本では時間がかかりすぎる。やはり火事だ。火事が必要だ。ボロボロになった焼け野原を取材に来たカメラを通して奴ら全員に見せてやるんだ。奴らの目はカメラに釘付けだ」
そこまで呟いて彼は低い声で笑った。セシルはほとんど顔が蒼白になっていた。
「何をぶつぶつ言ってるんだ、兄さん?」
とカウンターの中からエプロンをつけたおじさんがきいた。高校生は黙り込んだ。おじさんは奇妙なものを見る目で高校生を見てから、奥に引っ込んだ。
僕たち三人は雷に打たれたような衝撃にどうしたらいいかわからずにいた。ご飯を食べる手を止めることもできず、頭の中が空っぽになってしまったようだった。




