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ハリネズミの旅  作者: 木村アヤ
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とても賢い選択

僕は一旦家に帰って値段以外の面ではこの前会った時の軍田と似たような格好をした。レザージャケットに、リーバイスのジーンズ。金属のチェーンを腰につけて、靴はなぜか革靴だ。勿論、ロレックスも忘れてはいけない。ロレックスなら僕も持っている。安物だけど。

身支度を済ませてしまうと、僕は部屋を出た。嬉しいことにベンツは待っていない。あんなものは一ヶ月に一回くらいで十分だ。

電車の中で僕は四人がけのシートに座った。二人ずつが対面する形のシートだ。すると目の前にいた大学生風の男性がカップ麺を食べ始めた。電車はそれほど混んでいなくて、僕が座っていた四人ようのボックスシートは一人空いていた。大学生は黒縁のメガネをかけて濃い青色のジーンズと茶色いダウンを着ていた。なんだか不器用そうな感じだった。もっとも僕も人のことは言えないんだけれど。大学生はカップ麺を食べてしまうとカップと割り箸をポケットから出したコンビニのビニール袋にいれて、口を結び、指に引っ掛けてぷらぷらさせた。そのまま次の駅に着くと降りた。

吉祥寺駅の北口に着くと、頭に真っ白なシルクハットを乗せた軍田が待っていた。

「じゃあ、行くか」

「ちょっと待ってくれ。僕はそんな変な格好をしたやつの隣を歩きたくない」

軍田は帽子を頭から下ろすと、潰せるペットボトルのように天辺を押して折りたたんだ。そして肩からかけていたバッグにいれた。

「このバッグはこの帽子を入れるためだけに持って来たんだ」

「とても賢い選択だと思うよ」

僕達はタクシーに乗って繁華街から裏の住宅地に入り、そのまま抜けて、山に入った。山の斜面に沿ってぐねぐねした道を登って行くと、途中でレクサスと、マセラティがすれ違った。窓から登って来た道を見ると、白いポルシェが見えた。

僕達がタクシーを降りたのは大きなホテルの前だった。茶色い壁面は太陽の光を受けて輝き、ホテルの前ではマーライオンが口から水を泉に注いでいた。

「部屋の方はあまり大したことはないんだけど、バーとレストランがめちゃくちゃいいんだ」

中に入ってレストランを利用することを伝えると、カードを渡された。大きなエレベーターに乗って二十三階へ向かう。

「一流のホテルを名乗りたければ、二十階は最低必要なんだ」

「一流の人物を気取りたければロレックスが必要なように」

「全くその通り。だけど中にはいいロレックスもある。一見シンプルだけど味わいがある」

「禅とか茶道のように」

「まさしくその通り」

二十三階に到達するとピカピカのタキシードに身を包んだ若い男性と、赤い上品なドレスを着て首にピンポン玉くらいありそうな真珠のネックレスを巻いた高齢の女性と、灰色で控えめな、だけど生地の良さが伝わってくるスーツに身を包んだ、恰幅のいいおじいさんがエレベーターを待っていた。僕は軍田に尋ねた。

「ドレスコードとかは大丈夫なのか?」

「バーの方は特にない。あるバーもあるけど、まあ、わざわざそんな堅苦しいところに行く必要もなさそうな感じだ。出されるものはそんなに変わらない。レストランにはドレスコードを守らないと入れないけど、貸出用のスーツやらタキシードやら燕尾服やらがちゃんと用意してあるはずだ」






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