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偽造の心   作者: 彩乃
5/6

五話 夕焼け

偽造の心5

 

~十二月二十五日・七時八分~

 

寒い。


もう、寒い以外の何者も私の脳を侵すことはできない。

 

寒い。

 

クリスマスは好きだが、寒すぎる。今日は学校を休んでやろうかと思うくらいの寒さだ。だが、尾海君のために用意したクリスマスプレゼントの為に頑張って登校している。手作りの生チョコとクッキーが入った袋を見る度、渡す時のことを考えてニヤついてしまう。


前言撤回、彼のことを考えると寒さなんて忘れられる。


そんな下らないことを考えつつ、”楽しみは最後にとっておくもの”理論で、プレゼントは渡さずに、特に会話もなく一日を過ごした。


~十二月二十五日・十八時三十二分~


夕方、もう六限目も終わって空の雰囲気が暖色の中に寂しさを醸し出す時間。

寒さで凍った水溜り達は今にも割れてしまいそうに薄く気を張っているように見える。まるで彼みたいに。


六限目の後すぐプレゼントを渡すつもりでいたのに、委員会に時間を持っていかれた。しかもプレゼントを教室に忘れてしまった。今日は図書室で勉強と言っていたから、入れ違いになったら最悪だ。

 

教室へと駆ける一歩一歩の中で、何か、何か違和感を感じた。その違和感は具現化できないものだ。漠然と、ただ漠然と、何かが起こる、そんな警告を受けているような気分。


教室の前へ行く私の呼吸が荒いのは階段を駆け上ったからだと信じ込ませる。


「んっ……。」

 

夕方の中、私の足音を踏みにじるように”誰かの声”が耳を劈く。”誰かの声”はより具現化された、先へ入ってはならないという警鐘なのだろう。危険と分かっていて踏み込む私は、物好きなのだろうか。

 

過ごし慣れた自分の教室を、初めて来た新入生のように覗く私は傍から見れば滑稽なことだろう。

 

私は目を輝かせているのか、今から訪れる絶望に恐怖する顔なのか、今、私自身がどちらの表情なのか分からなかった。

 

「先生、駄目です…。」

 

そこには不思議な光景が広がっている。


担任であり男性である滝沢先生が尾海君の服をは抱けさせて、首筋に吸い付いている。

 

何も考える間はなく、扉を開けた。

 

「なに、してるんですか。」

 

滝沢先生は驚きに余裕を重ねた表情を作る。

 

「はは、まだ人がいたのか。ふむ、武田じゃないか、お前、こいつのこと好きだよな?」


なんだこいつは。

 

「はい。」

 

「こいつさ、金がないんだよ。今こんなところでバレたら大変だよねえ、俺とこいつお互いに。アーンド、大好きなお母さんと離れ離れぇ~。意味わかる?」

 

こいつは尾海君の何をしってる。

 

「分かります。」


丁寧な言葉と裏腹にきっと私は今、こいつを視線だけで殺せるくらい酷い表情だろう。


「それならいい。今日のことは忘れるように。」

 

ふっ、と糸が切れたようにいつもの猫仮面をを被り笑顔を浮かべる。

 

「じゃあ、また来週な。」

 

 

ピシャッ。

 

 

扉を閉める音は、私と尾海君の会話を開く音となる。

 

「ハッ、終わったぁ~…、お前さ、なに。俺の人生の邪魔したいわけ?もういいよ。全部この機会に話してやるよ!俺はぁ、なんか良く分かんねえけど病気なんだと!長くは生きられないって言われて、治療のために、親のために俺が頑張って稼いでんだよ!俺が死んだら誰が母親守るんだよ、どうせ、前みたいに仲良くなったって、病気なんだって言えば避けられるか、腫れ物みたいに扱われるかのどっちかなんだよ!どうせ、お前だって

 

我慢ならなかった、気づいたら身体は尾海君を抱きしめていた。


「もういいよ…、それ以上話さないで、尾海君が壊れちゃうよ…。」

 

「離せよ!」

 

「離さないよ。」

 

「離せよ!」

 

彼が離せという度に強く強く抱きしめて、彼の肩を私の涙で濡らしていく。

 

「くっそ、くっそくっそ!」

 

床を叩く音は、私と彼の存在をこの世に証明するように空気を伝って響き渡る。

 

「お前さぁ、俺のこと好きなんだよな?」

 

「え?」

 

「それなら、

 

抱きしめる私の両腕を取り、床に私を叩きつける。


「ヤらせろよ。なぁ、好きなら出来んだろ?」


「いいよ、それがいいなら、させて。」

 


彼は、慣れた手つきで私の服を脱がせていく。

だけど、私のことなんか何も考慮せず、すぐに彼と繋がる。

 

痛い。

 

この痛みは彼と繋がってるただ一つの証拠な気がした。


「好きだよ。尾海君…。」


彼は一心不乱に腰を振る。


彼の腰が、息が乱れる度に、私も少しずつ乱れていく。

 

「所詮、みんな口だけなんだよ。」

 

「好きだよ。」

 

「そうやって、優しくして徐々に突き放していく。」

 

「好き。」

 

「俺のことなんか…

 

「好きだよ、尾海君…。」

 

彼は先ほどの私のように、腰を止めて抱きしめてくる。


「くっそ……。」

 

彼は声を殺して、私の上で泣き続けた。


泣きながら、哭きながら、鳴きながら、私と繋がり続けて、最後には二つの涙と二つの身体で海に溺れるように繋がり続けた。

 



 

その夜、私たちは一緒に帰った。

 

帰り道で、彼は私に言った。

 


「俺のことが好きじゃない振りをしてて欲しい、そしたらいずれ本当に好きじゃなくなるから。」

 


彼からの初めてのお願いであり、私への告白だった。







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