表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

また君と

 想いが摩りきれる程は長くなく、かといって短くもない日を過ごした男は、あどけなさを残していた面影は消え、しっかりとした雄の雰囲気を纏う程には成長していた。。



 透明な包みに結ばれたワインカラーのリボンを引く白衣の男。


 擦れる小さな音と 包みを開く大きな音。


 封を開けた途端に、チョコとバナナの甘く美味しそうな匂いが鼻腔を擽る。今すぐ噛り付きたい衝動に駆られるが、二つの匂いに混ざった別の匂いが彼の記憶を刺激する。


 長い耳を揺らし目を細める少女の姿を想像し誘惑に耐えた男は、彼女が一番気に入っていた皿へカラフルなチョコバナナを乗せると、同じテーブルに投影したバーチャルキーボードを入力し始める。



 想い人へ届ける様に優しく。

 想い人を包む様に優しく。

 想い人に触れる様に大胆に。



 マイナス2.14度よりも更に1度低く設定された室内に、男の吐く白い息がいつまでも残る。

 すでに太陽は姿を消し、星が瞬く鳶色の空には欠けた月。実験室の天窓に徐々に姿を納めていく。

 降り注ぐ月の光は【量子言語】により雫の様に集められ、紋様が刻み込まれていくプレートに染み込んでいった。


 男の指が動く度に雫の数は増え魔銀(ミスリル)を濡らす。


 青く滲む光は、やがて彼女の髪を彷彿させる白い色へ変化していく。プレートに蓄えられていくぼんやりとした優しい光は、少女を【召還】した時とは違い乱舞する事も無く雪が積もる様に魔銀を覆っていった。

 重なり層になっていく光が本物の雪みたいな反応を始め、六花の結晶を形作っていった。一つとして同じ姿の結晶は無く、男と少女の思い出の様に唯一無二の眩しさを秘めていく。


 男に自然と笑みが溢れる。

 仮初めのキーを叩く度に記憶は濃くなっていき、テーブルに置かれた彼女の大好物たちが目に入った。

 男は最初彼女の瞳と同色であるエメラルドをあしらった指輪を用意しようと考えたのだったが、結局は褐色の宝石(スイーツ)を選んだ。

 想い人の手作りチョコバナナと並ぶのは、彼女がとりわけ好んだチョコレート。特別な日以外では手を伸ばしにくい高級チョコ。

 甘く芳醇な香りは彼女を彷彿させ、男の本能を刺激する。


 軽やかにリズムを奏でる指。

 刻み込まれ紡がれていく【量子言語】の【扉】。

 逸る気持ちを捩じ伏せ確実に、間違いなく、正確に編み込む。


 やがて天窓から降り込む月光が頂点を迎えると、降り積もる光も勢いを増す。淡く揺らぐ光は今はもう無く、神々しく辺りを包み込んでいた。


 そして目を焼く程の光量に達した魔銀のプレートに変化が現れた。


 降り積もった六花の結晶が、ゆっくりと螺旋を描き舞い上がる。

 そよぐ風に、抱き締めた時に覚えた彼女の匂いが混じる。

 小さな紫電の火花が散る中に生まれる、懐かしいシルエット。

 しかし男の視界はぼやける。

 頬を伝う幾重の雫が男の白衣に小さなシミを作るが、拭う時間も惜しいとばかりに螺旋の中心へ意識を集中する。


 滲む世界でもはっきりとわかる程に姿が濃くなっていく。

 夜空に浮かぶ月の下、離れていてもわかる可愛い長耳。何よりも美しい白い髪。



 カテジナ・リスカを創る全ての要素が月光に照される。








 恋い焦がれた瞬間は直ぐそこだった。


hal様へ捧ぐ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ