黄昏
何故か詩的な事も書いてありますのでそこら辺だけ知っておいて下さい。
あ〜、私は何をしているのだろう。
また転校か……めんどくさいなぁ、だるいし。
前の前の学校は嫌だったな、イジメられたし。ってかアレじゃ成績落ちるよ…。
さて、今度の学校はどうかな……。
楽しみだなぁ…………。
カツ、カツ、カツ・・・・・・・・・・・・
前を歩く先生のハイヒールの音がやけに響く。
廊下側の生徒がドアのガラスに鼻をくっつけて、転校生の姿を見ようとしている。
やっぱどこも同じだぁ。
最初は。
「え〜、静かに!」
ざわざわしていた教室が少し静かになる。
「この学校に転入してくることになった夢野夜奈さんです」
この挨拶も同じ。
「宮咲高校から転入してきた夢野です。この高校については分からない事だらけですが、
精一杯がんばって行きたいです。よろしくお願いします」
パチパチとあんまりやる気のなさそうな拍手が起こる。
それもこれも経験済み。
「じゃあ飯島君の後ろの席で」
あつらえた様に一番後ろ。
ちょっと笑えるくらい男子も女子もガン見なんですけど!!笑うなあたし、笑うな〜
通路を通るとき、
「ちょっとあのメガネダサくない?」
「ってかショージキ、キモい」
でも何でも無いように落ち着いて歩くあたしって、もしかしたら女優向き!?な訳ないか。
などなど思いながら席に着く。
案の定、机に「メガネキモッ」って張ってあったけど、言われてるのは眼鏡だもんね。
つまり、
♪「そんなの関係ねぇ!」♪
ってか眼鏡ぐらい漢字で書け。ある意味、
「小学生か!!」
その時間は自習だったが、あたしにはクラス中の視線と、ときどき紙飛行機が飛んで来ては
刺さった。
だからなんだ!自分の勉強に集中しな。
転校生の第2の試練、休み時間!!
ここで運命が決まる(と言っても過言ではない)。
まず女子グループAのリーダーらしき女子が話し掛けてきた。
「夢野さんは宮咲高校で部活何やってたの?」
「弓道。この高校にも弓道部ってある?」
「あるよ、部員少ないけど」
こっちはまずまずだ。
今度は女子グループBだ。
「宮咲高校ってどんなところだった?」
「校舎はキレイだった。でも人が………かなり暗くて」
「暗いといえば、窓側の席の子。かなり暗くてヤバいから関わらない方がいいよ」
うん、と曖昧にうなずいてそこを見た。
確かに彼女らから見れば暗い雰囲気の女子が何気に分厚い難しそうな本を熱心に読んでいた。
アレじゃイジメられているなという空気を周りの女子と彼女から読み取ると、あの子には
最初の挨拶ぐらいにしとこうと思った。
その女子の名は『雲間 ひかり』と言う。
あともう2人、要注意人物を発見した。
その一方『横田 麻美』は、一見するだけであるレッテルを貼られる。
─────キモい。
ごわごわの髪を三つ編みにしている。………可愛いとでも思ってるのか。
目がやたら大きくて、それがチャーミングではなくただ単に目が飛び出しているだけ。
目の下の隈の様な線がそれを肯定している。
異様に飛び出た膝は、アザで埋め尽くされている。
容姿だけでなくその行動もキモいものだった。
周りの女子を品定めするかのような目つきで見渡し、最後に鏡で自分を見る。
多分周りの女子より自分が1番綺麗なんだって自己満足に浸っているんだと思う。
その横田麻美の取り巻き(と言っても1人しかいない)の『北河 林太郎』も要注意だ。
あからさまに色目でこちらを向いてくる。
教室に入ったときの格好なんかとてもじゃないけど言えない。
吐きそうになったから。
2人とも、いわゆる『イケてる人』の真似をして、やり過ぎて変な風になっていた。
今度は先生だ。
「夢野さん、うちの高校では茶髪禁止だってこの前言ったのに何で染めてこなかったの?
真似して他の子も茶髪になって校内が荒れたら取り返しが付かないっての分かってる?」
う〜ん、先生ウザいねー。だーかーら、
「これが地毛です。それにこの前染めましたよ、でもその後お風呂入ってドライヤー掛けたら
元に戻っちゃったんです。それにこの高校、染めるのも禁止じゃなかったですか?」
それにこの雰囲気、もう荒れてるな。
「そんな言い訳は通じないわよ。それに黒く染めるならいいの」
同じじゃねえかよ。
ボソッ「………ダメだこりゃ」
「何?」
「いいえ、何も」
「あと眼鏡のフレーム、地味な色に変えなさい」
「……はい、───嫌な学校」
他の子の眼鏡のフレームがピンクや赤なのに、何であたしだけ注意されなきゃいけないの?
訳わかんない上に、意味不明。
ホント、変な学校。
そして次の授業が始まった。
何でもグループを新しく決め直すらしい。
生徒達では公平なグループ分けが出来ないので、くじ引きで決める。なるべく横田や北河、それに雲間と一緒にしないで下さい神様ぁ〜。
と祈っていたけど、所詮現実は甘くない。
結局3人とも一緒だった。あ〜あ、ツイてない。
班員は6人。女子はあたしと雲間と横田。
男子は北河と身長175cmの『上久保 明』とガリ勉の『石川 将』だった。
上久保は結構フレンドリーで北河とうまくやってるけど、嫌々ってカンジだった。
石川は……誰とも話さないから何考えてんのかよく分からないタイプだ。
その上久保が話しかけてきた。
「夢野さんって今度から何て呼べばいい?」
「え〜と、何でもいいよ」
「僕も何でもいいよ」
「ん〜、じゃあかみちゃんで」
「………いいけどね」
「隣の石川君はしょーくんで」
「…………………はぁ」
「雲間さんは……雲ちゃんで」
「─────────────────」
「横田さんは……マミけるで」
横田は妙に甲高い聞きづらい声で
「ちょっとそういうの迷惑なんだよねーやめてくれない!」
……何であんたなんかに言われなきゃなんないんですかー
「んじゃあやめる」
あっさり引き下がってみる。
そして北河スルー。
案の定、
「何で俺だけ無視すんだよ!差別ですか〜」
───あんた、差別って言ってるけど意味分かってる?
「はいはい、じゃりんで」
「安易ー」
横からかみちゃんの合いの手。
クスッと笑う。
「班長かみちゃんでしょ、副班長誰にす…」
「あたしやりたい!」
私の言葉は横田の発言によって揉み消されてしまった。
「えっ、できんの?」
あ…………本音が。
「できるから〜、何言ってくれてんの〜?」
「……前もそう言ってやってたけど全然仕事やれてなかったよね?」
今まで黙っていたしょーくんがいきなり口をきいた。
「へぇ、そうなんだ」
やっぱりねというニュアンスを含めながら、驚いた表情をしてみせた。
…ちょっとつらい。
「じゃあ夢野さんやれば〜」
北河がへらへらしながら言った。
「………いいけど」
横田のあからさまな敵意の視線を横目で睨みながら言った。
「ぜ〜んぶハズレ、残ってるのは生活委員だけ」
「あ〜あ、しょうがない。やるかぁ」
放課後、かみちゃんとそんな話をして別れた。
帰り途中に買い食いをしている人がいたが、買いに行く労力が惜しいのでやめた。
そしてどんな部活に入ろうかなぁ〜と、悩みながら帰った。
そのとき私は知らなかった。
クラスの女子のグループがA、BだけでなくCもあったということを………
そのグループこそ「メガネキモッ」と、メモを書いてきたグループであり、クラスの最大勢力
であった………
その時に気付けばちょっとは構えや対策を考えておけただろうとのちのち思う事になった。
あ〜あ、あたしってほんと、バカ
A=綾美グループ
B=沙弥華グループ
C=泰菜グループ
以上があたしの調べたABCグループの頭領…じゃなかったリーダー。
綾美は気のいい人だから多分大丈夫だと思うけど、そういう人って買収されやすいんだよね…。
沙弥華は気が強いから自分の思い込んだ事は実行すると思うんだよね……。
泰菜は…ハッキリ言う。イジめるタイプ。
その事をハッキリ掴めたのは2ヵ月後だった………。
あたしは前の学校でも、その前の学校でも、特定の集団はつくらないでいた。
だから授業の前には、皆は友達と喋っていたけど、あたしは淡々とノートの整理をしていた。
別に悪い訳じゃないし、誰の邪魔もしてないからいいと思ったんだけど、やっぱそんな理由は
通じなかった。ってかあんなちゃちな脳ミソで分かって欲しくもないんだけど。
大概あたしは話すとしたら男子女子わけ隔てなく接していて、女子とはあんまり話していても
面白くなかった。
それより、異性の男子の方の見ている世界が女子と違っているのに興味を持ち、研究対象として
男子を見ていた。
たぶんそれが2人の女子は気に入らなかったんだと思う。
1人は出川泰菜。
もう1人は横田麻美。
両者が手を組んだのは転校してきた1週間後の事。
丁度(って言うか運悪く)現国の資料を教室に置き忘れて取りに戻った時。
って言うかマジドラマみたいでキモぃ展開なんだけど〜。
ちょっとどころじゃないほど嫌だな。
「あの転校生、マジ調子乗りすぎじゃね?」
「そーそ、ウザいし〜」
「片付けちゃう?」
「そーしよ、あたしの男にも手ぇ出してきて目障りなところだったしぃ」
えっ、泰菜のオトコ!?
そんなん居たっけ?
「そうそう、私の慎にも手を出してるらしいし」
「どんだけ〜」
でた!どんだけ〜
ってかあの慎!?
生徒会長の?
ありえんありえん!
横田に限ってそんなことは……
ってか会長カノジョ居るんですけど!!
「じゃあそういうことで明日からヨロシク」
その夜、あたしは奴らが集まるサイトをずっと開いていた。
ちなみに麻美のハンドルネームはサンセット。
ちなみにちなみにあたしも登録してあって、ネームは月。
あ、忘れてた。泰菜はダイヤ。
するとまずダイヤが、
ダイヤ『今度ぉ、夢野をシカトってかいじりたい人ー?』
鏡『はい!!』
シーサー『はい!!!』
その他省略………………
しょうがないからあたしも一応
月『はいぃ!!!!』
って書いといたけど。
ダイヤ『あんた誰?』
って言われた。
もちろんシカト。
あーあ、明日万全の対策してもし足りないだろうなぁ〜。
まぁ、あの学校でのイジメのお陰でちょっとは強くなったけどね。
あいつらの泣きっ面がみたいね。
思い知らせてやる。
なめんなよ。
「おはよー」
いつもの様に(誰でもいいから)笑いかけながら教室に入っていった。
すると、(やっぱり)一瞬
しーん
としてから、
ワイワイ
となった。
……情報まわんの早くね?
ってか男子もシカト?
「おはよう」
嗚呼、かみちゃんだけが永世中立国・スイスみたいに見えるよ……。
キラキラしてるよ………。
「おはよー、ありがとね」
最上級の笑顔で感謝。
感謝っていいもんだね。
ウン。
「ねぇ、今日どうしたの?みんな冷たいんだけど」
超分かりきった事を尋ねる。
「ちょっとココじゃ言えないから後で」
一部の女子には大人気のフェイスを曇らせてかみちゃんは言った。
あ、一部の女子ってのはもちろん麻美の事だから。
「うん、OK」
かみちゃんが前を向いた途端、4人の女子と男子1人が取り囲んできた。
泰菜と取り巻き2人。あと麻美と麟太郎だ。
麻「あらー、転校生さん。よく学校の場所が分かったわね」
(あんたに言われたくないよ)
「………………………………………」
完璧、無視っ無視っ無視っ無視っ無視っ無視っ無視っ無視っ無視っ無視っ無視ぃぃ!!
麻「シカト!?やるじゃん、おい誰にやってんだよ!!」
胸倉掴みかかられた。
「汚い手で触んないで、しかも今日クリーニングから戻って来たばっかりなんですけど。
皺になんの嫌なんだよねー」
笑顔で言ってやった。
ってかマジキモぃ手で触んないで。
「穢れる」
今度は真顔で言った。
こういうイジメには目で押さえつけた方が楽。
林「俺のカノジョにそういう風に言わんでくれる?ウザいんだけど」
えっ!?麻美って北河のカノジョだったんだ。へぇ〜。
「そういうあんたの方がウザいよ」
あっさり言い返す。
「んだよ、チョーシ乗ってんじゃねぇ」
右足に蹴りを入れようとした。
けどさ、
「遅い」
右足上げたら思惑通り、後ろの机にぶつかった。
ざまぁみろ。
「あ、ごめーん。でもあたし痣残んの嫌だから〜、誰かさんの彼女と違ってね」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
林太郎撃沈〜〜♪
ド楽勝〜♪
ちゃっちいね。
残りはあと3人。
どうしようかな………。
夜奈は知らないが、この時の夜奈は不敵な笑顔を見せていたらしい。
こっ、怖いな。
そんな夜奈に救いの手が差し伸べられた。
「お〜い、プリント集めるぞ〜」
おお神よ。じゃないけど。
自分でノリ突込みをして心の中で大爆笑していた夜奈であった。
次の休み時間もその次の休み時間も付き纏われたけど、
なんとか撒いて昼休み。
かみちゃん御指定のバスケ部の部室でお昼ご飯。
「部室ってもっと薄暗い所だと思ってたけど案外明るいんだね」
「でも隅の方に行くと蜘蛛の巣張ってるよ」
「げっ、あたし蜘蛛嫌い」
などなど自由奔放な話題で盛り上がっていよいよ本題。
「で、イジメの事だけど今朝メールが回って来て夜奈さんをイジメろって
言う内容だったから、僕は無視したけど他の人は真に受けたみたいだね…」
「誰から回ってきたの?そのメール」
「出川泰菜」
やっぱし。
「はぁ〜、疲れる」
「前にも出川はいじめてきて雲間さんとか…前には横田もそうだったんだけど
先生に咎められたらしくて、終わりになった。大体出川は相手によって態度を
変えるから嫌な性格だって僕も思うよ」
永世中立人のかみちゃんでさえそう言ってんだから、他の人は相当ブーブー
言ってんだろうな。
「どうする?多分不登校になるか転校するまでヤるつもりだと思うよ」
かみちゃんの心配顔可愛い!
「大丈夫、あたし結構強いしかみちゃんだけでも喋ってくれるからヘーキだよ」
わざと笑顔で言ってみた。
「そうか、僕が手伝えることは何でも言ってくれていいから」
「さんきゅ、かみちゃん」
帰り道まで付けて来るなんてよっぽど暇なんだね。
コソコソ付けて来てるっぽいけどバレバレだっつーの!
こういうのは無視無視。
そんなこんなで人気の無い(元から人気の無いとこばっかりなんだけど)公園を通り
抜けようとした時、其処かしこから人影が立ち上がるのを視界の隅で捉えた。
多分、クラスの男子+サッカー部のでかい奴らってとこかな。
そういえばあと50m先にコンビニがあったっけ?
そこまで持つかな〜?
100m走14秒だからギリってとこかな。
せーの!
ダッシュ!ダッ〜シュ!!
「あっ、追え!!!」
う〜この声は泰菜だな。
あんの腹黒馬鹿女〜。
汚い仕事は部下にやらせるなんてホントにボスって感じ。
いや、女王様か。
あと約10m。
あっ、あれは仲間か。くそー、待ち伏せ作戦成功だね。
取り合えずコンビニの中に避難。
雑誌を読んでいるフリをしてどうしようか考える。
雑誌のふちをとんとんと指で叩く。
ピーン!閃いた!!(ドラ○もんか!!)
まずジンジャーエールを買って外に出る。
もちろんぞろぞろと襲い掛かってくる。
かわしながら、避け切れなかった奴はジンジャーエールを目に掛ける。
痛そうだけど自己防衛だからしょうがないし、自業自得ってモンでしょ。
なんとか撒いてやっと家に帰る。
本当、いろんな事起こり過ぎ。
疲れちゃうじゃん。
それから1週間、ずっとシカトされ帰りは付けられた。
かみちゃんだけが優しくしてくれたから多分乗り切れたんだろなー。
でも、あんまり頼らないようにしなきゃ。
泰菜に知られたらどうなることか。
知ったこっちゃ無いけど。
そう言えば、雲間さんって全然出てきてないな。
最後にキバ突き立てられないといいんだけど。
案外最後にトドメを刺す人かもね。
朝からご丁寧に水先案内まで付けて頂いて本当にありがとうございます。
まったく暇な連中だね。
ディ○ニーストアで見つけたミ○ーちゃんのストラップをブラブラさせながら、
そう思った。
だいたいワザワザ先触れまで用意しなくてもいいじゃん。
ただの転校生なのに。
また(って言うかまだ)シラー、っとした空気で迎えられた(?)あたしは早速
英単語のチェックに入った。
だってこれしかやることないから。
「ガリ勉〜」
「キモ〜」
クスクス、クスクス、くすくす、くすくす、クスクス、くすくす、クスクス、くすくす、クスクス
うるさいって言うと付け上るからシカト。
次のテスト……満点いけるかも。
こんなに勉強ばっかしてんじゃね。
クスクス、くすくす、クスクス、くすくす、クスクス、くすくす、クスクス、くすくす、クスクス
ピきッ。
よく続くなぁ。
上「辛いと思うけど頑張れ、抑えろ」
「分かってる」
目の端に薄っすら、涙が浮かんでいる事を夜奈は知らなかった。
それでも、唇の端に笑みを浮かべている彼女は凛々しく見えたのは、かみちゃんだけらしい。
最近かみちゃんと一緒にお昼を食べる事が多くなった。
「かみちゃんってどこに住んでるの?」
「………(トンカツが口の中に詰まってるから)っ、森丘団地」
「おー!うちの団地の隣の団地だ、うちの穐田団地って変な名前だよね〜」
「…………(今度はおにぎりが詰まっているが激しく首を縦に振っている)」
「いいな〜、お弁当ゴージャスでさ〜」
「…!そんな事無い、自分で作ってるだけだから」
「!自分で作ってんの、すっご」
「べっつに、本見てるだけだから」
「いやそれでも凄いから」
ありがと、と、にこっとするかみちゃん。
かわいいから!!それやめてってば!
沈黙………………………。
慣れたけど。
かみちゃんとの間で、多少の空白はしょうがない。
多分それが原因で、かみちゃんは過去の彼女と別れたって聞いたから。
って言うかそれぐらい簡単に我慢できるから。
「一緒に帰る?」
「はい?」
「だから、帰り一緒に帰る?」
「まったく話の内容がズレてるんですけど」
「それは置いといて、いい?」
「いいけど……変なことしないよね?かみちゃんに限って」
「どんなこと?」
これなら大丈夫だな。
そういう(どういう?)訳で、かみちゃんと帰る事になりました。
どっかの誰かさんはビービー弾(昔懐かしの)で撃ってきたわけですよ。
周囲の人に当たって、今頃生徒指導の先生にこってり搾られている(はず)。
「どした?」
「ううん、別になんでもない」
「横田のビービー弾ってのが珍しくて興味深かった」
興味深いってなんか学者みたい。
「だよねー、10年?位前のだからなお更ね」
「僕が小学校低学年ぐらいの時はお祭りでエアガンとかあったけど皆爆竹の方を買ってたから
あんまり売れてなかった」
その後もたくさん喋りながら、例のコンビニのところで、
「どうする?家まで送ろうか?」
と、聞かれたが、
「親に知られたくないしいいよ、ありがとう」
と言った。
「じゃあ明日も同じ時間で」
「OK」
別れ際にふと、芥子の匂いがした。
久し振りにすっきりとした朝を迎えれた気がする。
なにしろAM5:30だから。
おいおい、いくら何でも早過ぎるだろ。
と、言うわけで毎日恒例の日記タ〜イム!
で、これまでの事を書いていると涙が止まらなくなってきた。
その時に言われてもなんとも無かった事が、後になって現実味を帯びてくる。
そんな感じだった。
こんな朝っぱらから泣いている高校生も珍しいが、起きてこない家族も珍しい。
そして、かみちゃんの優しさに今更ながら身にしみてきて、また涙が出てきた。
泣き疲れてふと顔を上げると6:15になっていた。
ちぇっと舌打ちをして、自分の朝食とお昼のお弁当を手早く作り、後は出かけるだけと余裕を
持ってテレビを見ていた。
「……今日は全国的に曇りの一日となり、東京は一時雷雨になるでしょう。以上お天気でした」
オイィィィィィ〜!雨ですか、やだな。
パラパラと、傘に当たる雨粒の音がなんだか寂しく聞こえる。
そんな事をかみちゃんと歩きながら思った。
話の切れ間に覗く、寂しそうな顔のせいかも知れない。
「どうしたの?いつもより寂しそうだけど」
答えないならそれでも良いや何て思ってた。
「……先に落ちていく雨の雫があんまり綺麗だからつい」
「つい?」
「このまま砕けないといいなって…………」
「……………、ほんと皆とは考え方が違うんだね」
「変?」
「そんな事無い、すっごい素敵な考え方だと思う」
「……そんな事言われたの初めてだ」
「そ、そう?」
うん、と雨の音に混じって聞こえてきた声は、まるで雨が返事をしているようだった。
かみちゃんがあたしの土を潤す雨なのかもしれない。
1時間目も2時間目も、3、4時間目の間も雨はずっと降っていた。
しとしと、ぽつぽつ、ぱたぱた、ひたひた。
雨の精はステップを踏み違えることなく、ひたすら踊る、踊る。
校庭には水溜りが出来、道には咲いた花が濡れていた。
いつもは明るいバスケ部の部室も、今日だけは薄暗かった。
「他のとこにする?」
「うん、そうする。音楽準備室が空いてるよ」
「じゃあそこにするか」
音楽準備室はグリスとオイルのにおいが混ざって不思議な雰囲気を醸し出していた。
「今度吹奏楽部に入部してみようかなって思ってるけど、他にオススメの部活ってある?」
「今、男バスはマネージャーを募集してるけど来る?」
「うんうん!何か面白そうだし、それにする!!」
「ぜひお願いしたいだろうね、ウチの部の部長は。可愛いのに目が無いし」
「え〜、そうなの?感じ悪いな」
「だから近付かない方が身の為かも………」
「じゃあ応募用紙ちょうだい」
「ハイ、これが応募用紙」
「あんがと」
応募したら、2人が希望したと言う事で呼び出された。
もう1人はご想像のとおり、麻美だった。
噂の部長は小栗悠治で男バスらしく184cmの超巨体だった。
「条件は2つ。一生懸命仕事をすること、そして嘘をつかないこと」
麻「大丈夫です」
ボソッ「ほんとかな?」
麻美がキッと睨んだ。
「出来ると思います」
こういうのは謙遜しといた方が後で受かる可能性が高くなるんだよね〜。
「夜奈ちゃんに決まり!!」
「早っ、何で決めてんの?」
「見た目とか性格とか噂とか今さっきの言い方とか」
おっ、おいおい………………………………………(汗
たっ、確かに可愛いのに目がないタイプだな…………。
さすが(?)かみちゃんの情報収集能力。
あ、同じ部活だから当たり前か。
帰り道──────────────────────。
「無事受かったよ〜!」
「よかったね、僕もお願いしといてよかったよ。麻美は採用しないようにって」
「え〜、しなくてもあたしなら受かってたから〜(笑」
自分よりも頭1.5個分大きいかみちゃんを見上げて抗議した。
「はいはい、そーですね」
「棒読み〜」
「ごめん」
2人してあはははと、笑いながらほのぼのとした雰囲気で帰った。
コンビニ近くの公園で、ベンチに腰掛けたとき、辺りはすっかり暗くなって街頭の明かりが遠くに
ポツンと寂しく見えた。
「さ、寒っ!やっぱ秋は寒いしすぐ暗くなるし………」
「部活の帰りも早くなるし……だろ?」にやっと笑い掛けたかみちゃんは丁度光のただ中にいて、何か消えちゃいそうだった。
それが怖くてそっとかみちゃんの肩に頭をもたせかけた。
「?どうした」
「………何でもない、ちょっとこうしていて」
ちょっと困ったような笑顔が優しく包み込んでくれた。
蒼い、なんて蒼い月なんだろう。
どうしたらあんな色になるのだろうか。
蒼はあたしの好きな色。──────揺るがない孤高の色。
空の蒼い月は目となり、あたし達のすぐ傍に、舞い降りる。
手で触れられそうなほど近くに、でもまた遠くに。
空の藍色、月の蒼色、あたしの目のこげ茶色、かみちゃんの目の漆黒。
色々な色が、色々な目が、世界をぐるぐる廻って地球なのだと思う。
地球自体が宇宙の中では目なんだと思う。
こんな気分になったの初めて…………。
「分かった?」
「いつもこんな世界で生きてるんだね」
「すごく素敵な世界だからおいでよ」
「来ていいの?」
「いいに決まってるじゃん」
「他に住民はいるの?」
「居ないよ、僕ら2人だけ」
「それは楽しい夢になりそうだね」
「だね」
2人してふふっと笑った。
そんな時を見ていたのは蒼い月と、出川泰菜だけだった。
あーあ、折角ロマンチックに終わろうと努力してたのに何で出てくるの〜?
そういうのこそウザいって言わない?
どさっ
鞄を下ろすと待ってましたとばかりに女子8人が取り囲んだ。
手にモップを持ちながら。
て、典型的…………。
「ねえここに大きなごみがあるよね〜」
「うわっ、超臭っ。掃除しないとこりゃ駄目っしょ」
「だよね〜」
最後の1人が言い終わると同時に8人全員がモップを振り上げて、4人は鞄、4人はあたし狙いで
振り下ろしてきた。
咄嗟に右手で鞄を払って床に落とし、左手で頭をガードした。
いや〜、反射神経万歳!
鞄の方の4人のモップは虚しく右手を叩き、もう4人のモップの柄は左手の甲と手首、腕を叩いた。
バァンッ!!!ゴンッ
「っつ!」
あぁ〜、痣出来る。やだな。
なおも攻撃は止まず、頭、首筋、腕、手、至る所痣だらけになった。
唇も切れて血が出てきた。
ガァン!!ボクッ
こんな調子じゃ骨折れるって。
あ、ヤバイ。意識朦朧としてきた。
これもう一発食らったら…、
ガァン!!
夜奈の意識は暗い水底に落ちていった……………