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指令

「カアカアカア…」

数十羽のカラスの群れがバサバサと音を立てて森の中から空へ飛ぶのが見えた。

この森はタークポートタウンから東に十キロくらいの場所にある。そのカラスの群れを崖の上から眺める茶色いコートを着てカバンを手に持った男がいた。

「また、仕事が増えたか」

と、その男は呟き森の方へ足を向けた。

カラスが飛び立った下ではとある組織が動いていた。

「まったくこんな事やってらんねぇよ」

「ああ。だがボスに逆らったら後が恐いからな」

二人の男は地面に地雷の様な物を周辺にいくつか埋め終え、立ち去って行くところだった。

「こんなところに地雷なんか置いて誰が引っ掛かるってんだよ」

「そりゃあ念には念をってやつだろ」

「そうか。でも、こんなに埋めといたらカラスかなんかが引っ掛かるだろうけどな」

「もしかしたらそれが狙いだったりして」

などと二人は話しながらアジトに帰っていく。

それを見ていたカラスが一羽地面に下りた。すると、カラスが踏んだところから……

ドンドンドンドンドンドン--

と、密集して埋めてあった地雷が次々に爆発し始めた

「やべ。やっちまった」

「すぐボスに報告だ」

そう言って急いで走って行った。

その様子を陰から茶色いコートの男が見ていた。

「あいつら何がしたいんだ」

と、呆れた様に言い、奴らが走って行った方に歩いて向かった。地雷が爆発した場所は大きく穴が空いた。



タークポートタウンの探偵事務所。ピピンがせかせかと書類を書いている。

「ぬお~。なかなか終わらんぞ」

変な言葉遣いで独り言を言っていた。その書類は『犯人の手がかり』で、まだ捕まってない犯罪者の特徴などの手がかりを書いて、早めに逮捕できるようにする書類だ。

「くそ…。サリア~」

しーんとしている。

「あ。そうか、友達と旅行に行ってるんだった」

探偵事務所はサリアがいても静かなのに、ピピン一人だけだとさらに静かに思える。

「ん~。なかなか犯罪者なんか思い出せないな。少し書いたし、こんな時は気分転換に散歩でも行くか」

そう言って、コートを着てピストルを脇にしまった。

外に出た。

「すーはー」

深呼吸をして歩き始めた。今日は青空に雲が少しあるだけで綺麗に晴れて、歩いているだけで気持ち良くなってくる。

散歩の道はいつも決めておらず、適当にふらふら歩く。

鳩が一羽、目の前に降りてきた。

「お、ハトくんこんにちは」

と、呼び掛けたが、すぐに飛んでしまった。

「やっぱり動物を手なずけるのは難しいな」

そんな事を言っていると後ろから声がした。

「あれ?ピピンの旦那。こんなところで何してるんだい」

「ん?」

と、後ろを振り返ると、このタウンで寿司屋をしている平田小太郎がいた。

「なんだ。小太郎か」

「なんだとはなんだ」

「ああ、ごめん。ただの散歩だよ」

「ほう。ただの散歩ねぇ。気晴らしってやつか」

「まあ、そんなところだ。でもなんでお前もこんなところににいるんだ?」

「見て分からないのか?出前が終わって帰る所だよ」

なるほど、確かにいつも寿司を握っている時の服装だ。

「まあ、なんだ。立ち話は疲れるだろうから、うちの店に来るかい?」

「おう。そうするかな」

そうして、小太郎が営業している[竿寿司]にやってきた。

のれんをくぐり店に入ると、テーブルを拭いている女性がいた。

「おう。こんにちは、美織ちゃん」

と、ピピンが声をかけるとテーブルを拭いている女性、美織(みおり)が振り返って、

「あら、ピピンさん。こんな時間に珍しいですね」

ピピンが来たのでテーブルを拭くのを止めて、台所に洗いに行った。

「いやあ。散歩してる時に小太郎と会って、立ち話もなんだから、店に来るかって誘われたんだよ」

「て事はお父さんも帰って来ますか?」

「そうだな。店の奥にいるんじゃないか?」

そう言うと、美織が店の奥に行ってしまった。ピピンは適当に椅子に座ろうと思い、なんとなくエビが目の前に置いてある奥から三番目の椅子に座った。

並んでいる寿司を眺めていると奥から小太郎と美織が出てきた。美織は皿洗いをし、小太郎がピピンの相手をした。

「おう、ピピン。なんか注文はあるか?」

「あんまり金持ってきてないからな」

独り言の様に言い、

「エビをもらおうかな」

「あいよ」

小太郎が米とエビを握り始めた。

「で、どうして気晴らしの散歩なんかしてたんだよ」

「大した事じゃないんだけど、書類を書いてて疲れたから散歩してたんだよ」

「へぇ。お前も疲れる事ってあるんだな。エビお待ち」

エビが出てきて、それを口に放り込んだ。

「人をロボットみたいに言うな」

「ああ、ごめんごめん。そういやあ。サリアちゃんがいないがどうしてだ?」

「今、友達と旅行に行ってるところだ」

「じゃあ事務所で一人ぼっちって事だな」

「まあ、そういう事だ。イカをくれ」

ピピンはイカを注文した。

「あいよ」

小太郎がイカを握りだした所で、皿を洗っていた美織が何かを思い出した。

「そうだ、お父さん。ピピンさんに伝える事があるんじゃなかったっけ?」

小太郎に向けて言った。

「あ。そうだった」

と、思い出した。

「おい、ピピン。射的は上手いよな!?」

と、小太郎はイカを右手で握りつぶしそうなくらいの力で握りながら、身を乗り出してピピンに言った。

「まあ、そこそこに」

お茶をすすりながら平然と言った。

「お前はそう思うかも知れないけど、なかなかの腕だと思うぞ」

「お、おお」

「そこでだ。この前、瓦版屋のお佐紀ちゃんが来てだな、来月の下旬にオークスシティの射撃場で15年ぶりに射的の世界大会をやるって言うんだよ。お前、出る気はないか?」

「オークスシティって事はあの馬鹿デカい射撃場でやるのか?」

「ああ」

「どうやって申し込むんだ!」

と、店の外まで聞こえるくらい大きな声で言った。

「おう。お佐紀ちゃんに言えば申し込んでくれるぜ」

小太郎は待ってましたというように答えた。すると、美織が、

「お父さん。イカ」

「あ。いけねぇ、つい力が入って潰しちまった」

小太郎の手の中にはへにゃへにゃになったイカがあった。

それを見たピピンは、

「イカは遠慮しとくよ」

「あ、ああ。そうか」

小太郎は潰したイカを食べて手を洗い出した。

「食べるのか」

「まあ、もったいないからな」

「そうか」

と言って、ピピンは立ち上がり、

「これからお佐紀の所に行って申し込んでくる」

「おう、そうしな」

「寿司代はいくらだ?」

「10コルだ」

ピピンは財布から10コルを取り出し小太郎に渡した。

「あ、ピピンさん」

出ていく所で美織が言った。

「なんだ?」

「ピピンさんが書く書類はお佐紀ちゃんにも手伝ってもらったらどうですか?」

「ああ。その手があったな。ありがとう」

と言って、外へ出て瓦版屋のお佐紀の元へ向かった。

竿寿司から瓦版屋までそんなに時間はかからない。歩いて大体5分で着く。

瓦版屋にピピンが着いた。

「お佐紀ちゃん、いるかい?」

中に入って、お佐紀を呼ぶ。店の中は机や印刷機などが並んでいて、意外とごちゃごちゃしている。店の奥から声がした。

「はーい」

お佐紀が出てきて、

「あらピピンさん、いらっしゃい。射的の申し込みですか?」

「ああ」

「じゃあ、これにサインして下さい」

お佐紀は机の引き出しから紙とペンを出して机に置いた。ピピンはそれにサインをして、お佐紀に渡した。

「書いたぞ」

「じゃあ申し込んでおきますね。それにしても最近事件という事件がないからつまんないな~」

そう言いながら店の奥に向かった。

「あ、そうだ。お佐紀ちゃん」

店の奥に行こうとするお佐紀を止めた。

「はい」

「今時間大丈夫か?」

「ええ、まあ大丈夫ですけど」

「ちょっと手伝ってほしい事があるんだが」

「はい。何ですか?」

「最近、いや最近じゃなくても犯罪を犯したけどまだ捕まえられてない奴らを書類に書いて提出しないといけないんだよ。それで私は全然思い出せないから、教えてもらえるとありがたいなって」

「ああ、そういう事なら私が書いた瓦版がありますから持ってきますね」

そう言って店の奥から瓦版を持ってきてくれた。

「おお、これだけあれば十分だ」

そう言うと、犯人を捕まえた事件と未解決の事件を分けていき、未解決になっている瓦版を借りていこうとした。

「じゃあ、この瓦版を借りていくよ」

「どうぞ」

笑顔で貸してくれた。

「ありがとう。お佐紀ちゃん」

ピピンは瓦版屋を出て事務所に向かった。

しばらく歩いていると後ろから誰かが付いてくる気配がする。ピピンが振り返るとそこにさっきまで話していたお佐紀がいた。

「何してるんだ?」

「あ、いや。ピピンさんに付いていけば何か面白い事件とかに出くわさないかなって思って」

お佐紀の瓦版は、情報が速くて解りやすいと、タウンではなかなか人気なのだ。

「そんな私に付いてきたって何も起きないぞ。事件なんか最近ないんだから」

「そんな事知ってますよ。だから、少しでも事件を見つけそうな人に付いているんじゃないですか」

「なんだそれは。私が疫病神みたいみたいじゃないか」

「そんな事は言ってませんよ」

「ふーん」

と、呆れたように言った。

「あ」

と、お佐紀が何かを思い出した。

「どうした?」

「長官はまだ元気にしてますか?」

長官とはピピンを含め、数多くの探偵達をまとめている人の事だ。

「おいおい。こんな所で長官の事を話さないでくれよ」

ピピンは長官の事が苦手だ。

「え。なんでですか?」

「いつ何時現われるか分からないんだよ」

「そんな。こんな所に現れるわけないじゃないですか」

お佐紀が手をぱたぱたさせ笑いながら言った。

すると、話ながら歩いていた二人の前、五メートル先の地面が盛り上がってきた。

「げ」

ピピンがイヤそうに立ち止まった。

「まさか…。そんな事あるわけないじゃないですか」

ムクムクと出てきたのは、長官ではなく、小さいモグラだった。

「あ~。よかった」

「まあ私は長官に会ったのは少ししかないので分かりませんがどんな人なんですか?」

「ん~。一言で言うなら面白い人だな」

「ほ~。ワシは面白いか」

と、二人の後ろから声がした。

後ろを振り向くと長官が腕組みをして立っていた。

「ちょ、長官どうしてここへ?」

「散歩がてら脅かそうと思ってな」

「いつから後ろにいたんですか?」

「ワシのモグラの使いを出すちょっと前だよ」

--この人、気配を消してたんだ……

と、お佐紀は感心した。

「そうですか。じゃあ用事は特にないんですね」

この時ピピンはふと思った。

--今、私の手にはお佐紀ちゃんが書いた瓦版を持っている。もはやこれはカンニングと一緒だぞ。見つかったらまずい……

「ふん。そうだな。書類の方は書けたか?」

「はい。順調に進んでいます」

と言ったが心の中で最後に

--あなたがこの書類に目がいかなければ……

と、付け足した。

「ならいい。ところでサリアはどうした?」

みんなサリアの事を聞くんだなとピピンは思った。

「友達と旅行に行ってるところです」

「そうか。だったらこの仕事は止めておこう」

「え。どういう事ですか?」

「さっき指令本部から、タークポートタウンから東に十キロ行った辺りに位置する森で爆発があった。なにかあるやもしれん。そこで、現場から近くの者を送るようにと言われた」

「それで、私のところに?」

「まあ、そういう事だ」

ピピンは、ただの散歩じゃなかったのかと思った。

全くじれったい長官である。

「だが、サリアがいないと大変だろう」

「いえ。一人ででも行けます」

とピピンが言った所でお佐紀が、

「私も一緒に行きたいです」

「お佐紀ちゃんがかい?」

「いや、行けるかもしれない」

「え?危険ですよ」

「お佐紀。おぬしは手裏剣ができるのか?」

「はい。主に忍びの物が使えます」

と、お佐紀が答えた。

「行かせてみる価値はありそうだ」

「いいんですか?」

お佐紀が嬉しそうに言った。

「ああ。サリアがいないのが残念だったがいいだろう」

「まあ、長官が言うなら連れていきます」

と、ピピンが言った。

「よろしく頼む」

「ありがとうございます」

と、お佐紀が頭を下げた。

「ところで森って結構広いですけど、正確な場所は分かってるんですか?」

ピピンが長官に聞いた。

「この衛星写真で撮れた写真で我慢してくれ」

と、長官がポケットから写真を取り出してピピンに渡した。

「これは…」


茶色いコートを着た男がまだヤツらのことを歩いて追っていた。

森の土を踏みながら歩く。前後左右の景色が特に変わらないまま進む。

歩いていると違う感触の土を踏んだ。

「ん?」

土が若干硬い。

しゃがんで指で確認する。土に見せ掛けた硬い扉だった。近くで見ても扉とは分からないほど上手く造られている。よくもまあ、この上を踏んだものである。

その扉に小指も入らないだろう大きさの小さな丸い穴が開いている。どうやらこの小さな穴が鍵穴だろう。

男はカバンから針金を取りだした。針金の先を鍵穴らしき穴に入れていじくってみる。だが、何も起こらない。

針金を戻して次は、先から五ミリの所を九十度曲げる。

斜めに入れてから針金を地面に垂直に立てるように入れた。

綺麗に入った。

それを回すと、カチッと音がした。

すると、自動的に開いた。

普通ならカガガガと音がしそうだがサーーっと静かに開いた。

地面から開かれた扉は幅二メートル、縦一メートルの横長の扉だった。

「こんな簡単に開く扉は初めてだな」

と、軽々言った。

「そうだ」

と呟いて扉の回りをぐるっと一周土に線を引き、目印を付けた。

扉の中には地下に行ける幅の狭い階段が見える。

この奥がヤツらの本拠地だろうと男は考えた。そしてその中に足を踏み入れ階段を下りはじめ、扉が静かに閉められた。




写真に写っているのは、右側にタークポートタウンが小さく写っていて、それ以外がほとんど森で、中に爆発現場がある、見てもあまり分からない。

お佐紀も写真を見た。

「位置があんまり分かりませんね」

「何を言ってるんだ二人とも。ここのタウンの大きさを見て距離を測れば、大体の距離は分かるだろう」

と、長官が当たり前のように言った。

「まあ、分かりました。それでは行く準備をしたいので一旦事務所に戻ります。」

「そうか。では、ワシはここで待っているぞ。準備が終わったらここに集合してくれ」

「はい、分かりました。お佐紀ちゃんも準備するよな」

「はい。そうさせてもらいます」

「では、準備ができしだい戻ります」

「うむ」

今話している場所はちょうど探偵事務所と瓦版屋の真ん中辺りだ。ピピンとお佐紀は反対方向に別れて行った。

「そうだ、ピピンよ」

「はい」

歩き始めたら呼び止められた。

「サリアの旅行はいつ終わるんだ?」

「明後日くらいに帰ってくると思います」

「そうか。じゃあ何も知らずに終わるかもな。じゃあそれだけだから」

「あ、はい」

と、ピピンが言った後、長官がまた後でと言うように軽く手を上げた。

ピピンは会釈をして事務所に向かって歩きだした。

--あ~。危なかった。瓦版が見つかるところだった……

歩きながら考えているとすぐに事務所の前に着いた。

事務所に鍵は二つ付いている。ポケットから事務所の鍵を出して鍵穴に入れて、左に回転させる。

開かない。

「ん?」

扉を開けてみると、開いた。

警戒しながら入る。書類を玄関の横にある棚の上に置き、ピストンを手に持って玄関をゆっくり閉めた。

奥から物音がする。向こうはこっちに気付いてないらしい。

物音がする部屋に近づく。

サリアの部屋だ。

ピストンを構えながら扉を勢いよく開けた。

「動く……」

動くなと言おうとしたが止まった。その言葉と同時に部屋の中で着替えをしていた上半身裸の女性があわてて胸の辺りを服で隠した。

ピピンの目に映ったのは、サリアが着替えをしている姿だった。

それを見た瞬間にピピンは扉を閉めて、部屋の外で少し立ちつくした。

サリアの素肌をあんなにはっきり見たのは初めてだ。目をつぶるとサリアの白く綺麗な肌が浮かび上がって来てしまう。

--前々から綺麗だと思ってたけど…。駄目だ。最近の記憶が全て消えてしまいそうだ……

「あれ?帰ってきたの?」

と、冷静さを取り戻したいがためにサリアに聞いた。

「そうですよ」

「す、すまなかったな」

「本当ですよ。いきなり入って来られても心の準備ができてないんですから」

「はへ?」

ピピンはますます頭が変になってきた。

といった所でサリアが部屋から出てきた。

「でもどこに行ってたんですか?」

「いや、ちょっと散歩に…」

シャワーを浴びたのだろう。それにしても、いつもより変にシャンプーの香が強い気がする。

「今日帰って来るって言いませんでしたっけ?」

「そうだっけ?でも旅行だよね?」

「はい。一泊二日って言いましたよ」

「そうだっけ?」

「はい」

「あ~。言ってたかも」

「かもじゃなくて言いました。まあ、そんな事はいいですけど」

「ごめんなさい。あ、そうだ」

「どうしました?」

「長官から指令が出たぞ」

「長官から?」

「ああ。タークポートタウンの東に十キロ行った森で爆発があったからそれを調べに行くんだ」

「え?あの中途半端に長い名前のダレイサンタルメイソアトナっていう森ですか?」

「そう、それそれ。よく覚えてるな」

「んまあ」

「で、写真が…。あれ?」

ポケットを探したが無い。

「無くしましたか?」

「いや、玄関だ。ちょっと待ってて」

と、言って玄関に向かった。

棚の上に瓦版と衛星写真が置いてあった。それらを手に取ってサリアの方に戻った。

「これだ」

と言って、写真を渡した。

「小さ…」

「やっぱりそう思うよな。タウンの大きさから測ればおおよその距離が分かるだろうってさ」

「なるほど」

写真を少し眺めた後、ピピンの手の中にある物に気付いた。

「その手に持っているのは何ですか?」

「瓦版だよ。お佐紀ちゃんから借りてきたんだよ」

「瓦版屋に行ってきたんですか?」

少し皮肉な表情を浮かべながら言った。

「まあね。これで無事に書類が書ける」

「よかったですね」

「あ。いけない。こんな事をしてる場合じゃなかった。早く行く準備をするぞ」

「え?はい」

二人は急いで支度をした。

ピピンは[シグカス V-72]を。

サリアは[サークス S-35]を持ち準備完了だ。

待っている長官の所に向かった。


「遅いぞピピン」

長官がお佐紀と待っていた。

「すみませんでした。サリアが帰って来てたので」

「本当だ。サリアがいるじゃないか。これで三人で行けるな」

と、ピピンの後ろにいたサリアに気付き言った。

「お久しぶりです。長官」

サリアは長官に頭を下げた。

「うむ。ではもう一度確認しよう」

と長官が言い、

「はい」

と、ピピンとサリアとお佐紀が同時に返事をした。

「先ほどピピンに渡した写真を元に爆発があった場所を調べてほしい。そして、何かあった場合でも臨機応変に対応してもらいたい。以上だ」

「はい」

また三人同時に返事をした。

「それでは出発だピピン・ザ・ホルンよ」

「はい。行ってまいります」

と言って三人はタークポートタウンの東に位置するダレイサンタルメイソアトナへ向かった。




コトコトと堅く細長い幅ニメートルくらいの廊下を歩いて行く茶色いコートの男。所々にきちんと消火器が置いてあるのが印象強い。それと、格好よく宇宙みたいな背景に[ガンラーズンクロー]と、組織の名前が壁に書いてある。

--こんなの書いて誰か招待するのか……

と、思いつつ歩いて行く。

廊下の奥から話し声が聞こえてくる。

「まさか爆発を使ってホルンって探偵をこっちに来させるなんて思ってもみなかったぜ」

「だが、こっちに来させた所で何をするんだろうな?この組織が見つかったらどうするつもりなんだ」

「まったくだ。だがこのダレイサンタルメイソアトナの地面に扉があるなんて誰も気が付かないだろうよ」

と自信満々に言った。

「それもそうだな」

この時男は思った。

--ヤバイ。このままだと鉢合わせだ。仕方がない。やるしかないか……

曲がり角で話ながらくる奴らを待って、近づいて来た所で男が姿を現した。

「扉を見付けられないって?俺は見つけたぜ」

無理やり格好良く現れてみせた。

「誰だ貴様」

敵は二人、銃をすかさず向けてきた。こいつらはさっき地雷を埋めていた奴らだ。

「まさかあの地雷は探偵君を呼び出すための物だとは思わなかったよ」

からかう様に男が言った。

「話を聞いてやがったのか」

「てか、貴様はその探偵の事を知ってるのか?」

「まあな」

これには意外だったらしい。

「ど、どこでその探偵の事を…」

「それは探偵君が来てから分かるんじゃないかな。まあ、お前達は知る事は一生ないと思うがな」

「どういう事だ!」

「お前ら二人がこの世から消えるからだよ」

と言った次には二人が倒れていた。

「まったく。面倒くさいのは嫌いなんだよな」

いつの間にか出したピストルをしまいながら言った。

「まあ、ショックガンだから死なないけどね。しかし、こいつらどうしようかな…」

倒れている二人に目をやり困った表情をし、

「まあ、いっか。どうせ後一時間くらいで目覚ますし」

放置して廊下を進み始めた。

--ピピン君が来るのか。楽しみだな。しかし、俺はピピン君を知っているが、ピピン君は俺の事知らないんじゃないのかな……

「ん?」

男が何かを警戒しはじめた。

騒がしくなってきた。人数がかなりいる。耳を澄ませて聞いた感じで五十人くらいはいそうだ。なにやら忙しそうだ。

「探偵が二人、護衛らしき人を連れてこちらに接近中です」

「二人くらいは構わん」

「じゃあ百人くらいだったらどうしますか?」

「少してこずるもな」

「じゃあ護衛の一人ひとりが百人力だったらどうしますか?」

「しつこいんだよ!」

叱った方がボスのようだ。それにしても仲が良い組織である。

奴らが話している場所は、この通路が鉄の橋に変わり、広いドーム状の場所に出て、下を見下ろせる様な型になっている。その橋の下で話している。

「人工衛星の映像は正常に動いています」

と、パソコンを動かしている奴がいたり

「探偵達が森へ入りました」

など、ボスへ簡単な状況を説明している。

だか、人数が凄い。パッと見た感じで二百人はいるだろう。

--うひゃ~。結構いるな。よく地下にこんな基地造れたもんだ……

廊下から橋になっている手すりの隙間から下の様子を覗き混んだ。

--しかし、コレだけいるとピピン君達じゃあキツいんじゃないかな。無理ではないだろうけど。問題はガンラーズンクローの連中がいかほどかだな。てか、この基地を見つけられかな。あ、でも目印付けてきたから分かるか……

と考えた後、見つからなさそうな場所に隠れた。



「しかし、この地図は今までにない酷さだな」

ピピンが呟いた。

「そうですね。指令本部の方から直接届けられたんでしゃうか?」

「そうなんじゃないか?写真のうらに[ジェニクタクホンボルンソメイサ指令本部]って書いてあるから」

「じゃあ作ったのはプリンちゃんですね」

「ああ、あの背の小さい小柄な女の子か」

「はい。あの子本当に可愛いんですよ。もうペットにしちゃいたいくらいで」

サリアが一人で語り始めた。

お佐紀が話す事がなさそうでつまらなそうにしている。

「どうだいお佐紀ちゃん?」

「何がですか?」

「緊張とかしてないかなって」

「ああ、大丈夫です。こういう事、前にもした事あるので」

「そうなのか?」

「はい」

「へぇ。それは知らなかった。忍びの技とかも知ってるのか」

「そりゃあ、まあ」

少し照れくさそうに言った。

「ちょっと教えてくれないか?」

「いや、それは困ります。教えてはいけないと言われているので」

ピピンは軽く突き放された気持ちがした。

「そうか。すまないな」

「いえ、大丈夫です。それにしても長官って歳はいくつくらいなんですか?」

「ああ。えー、六十くらいじゃないか?」

「そのくらいなら納得です」

「何歳くらいだと思った?」

「五十歳くらいです」

「まあ、そのくらいなら妥当だろうな」

「カアカアカアカアカア」

「カアカアカア」

十数羽のカラスの群れが木から空へ飛んだ。

しかも、この辺だけカラスの巣らしき物があちこちにある。

地面には木の上から落ちたのか、形が崩れてぼろぼろになった巣もあり気味が悪い。

その辺りから地面に無数の石ころくらいの土の塊が転がっているのに気付いた。

「この土の塊は何だろう?」

ピピンがサリアに聞いた。

「なんでしょう」

と言って落ちている土の塊を拾い上げた。

「土の中に爆発する物があってそれが爆発すればこんなのができますよ」

「それってさっき長官が指令本部から指令が出たってやつの話の元なんじゃないのか!」

「そう考えられますね」

とサリアが腕組みをして答えた。

「見てください」

と、お佐紀が森の奧を指差した。

見ると先ほどより大きな土の塊があり、木の根や、木の破片も散らばっている。

「そろそろ爆発の場所に着くかもな」

と、ピピンが呟いた。




「探偵達がタークポートタウンから基地まで半分の距離まで接近しています」

モニターを見ている部下がボスに報告した。

「うむ。だが、どうやって誘い込もう」

「考えてなかったんスか?」

部下の一人がボスに言った。

「あ、ああ」

「だったら、オレが行って来るっスよ」

「大丈夫か?」

「任せて下さい」

「まあ、外に出ればこっちのモニターから確認できるからな。分かった。行っていいぞ」

「分かりやした」

部下は楽しそうにしている。だが、まだ外には出ずにくつろいで紅茶を飲んでいる。ピピン達が近づいて来てから行くようだ。



「あれ?これサリアちゃんじゃない?」

ジェニクタクホンボルンソメイサ指令本部で机の上に置いてあるモニターの画面を見を椅子に座りながらプリンがら言った。

「え?どれどれ?」

と、その声に誘われてプリンの同僚のロモが座っていた自分の席から、プリンが座っている前のモニターを覗きこんだ。

「あ、ホントだ。ピピンさんもいるね」

「あれ?この人は?」

プリンがモニターの画面を拡大していく。

「ロモこの人知ってる?」

「あれ?この人どこかで見たことあるよ…。誰だっけ?」

頭を抱えていると長官が帰ってきた。

「あ。長官、おかえりなさい」

と、プリンが椅子に座りながら手を大きく上げて迎えた。

「おう。ただいま」

「長官」

ロモが長官を呼んだ。

「どうした」

「この方は?」

プリンの机のモニターの中を指差した。

「お佐紀だ」

「あ。思い出した」

名前を聞いてロモは思い出したらしい。

「え?誰なの?」

「プリンは聞いた事ないかしら。あの瓦版屋のお佐紀こと、情報屋のお佐紀の事を」

「え?知らない」

「ほう。ロモはそんな事まで知っているのか」

「ええ、まあ」

「いかにも、彼女は情報屋のお佐紀だ」

「どうして、お佐紀をこの任務に?」

「奴らの組織について何か知ってるやもしれんと想ったからな」

「さすがのお佐紀でもそれはどうかと」

「まあ、いないよりましではないか?」

「はあ、まあそうですね」

「お話はもう終わりましたか~?」

プリンはすでにモニターの方に向き直っていた。

「あ、うん。おわったよ」

ロモがプリンの横に立った。

長官はモニター室の隣の部屋へ向かった。

「やっぱりあの地図じゃ見にくかったかな?」

「この三人の動きを見るとちょっと迷ってる感じがあるね」

「あ~あ。やっぱり分かりずらかったか」

と、プリンが残念そうに言い、机の三つある下の引き出しから物を取ろうと開けた。その時、ロモはプリンの引き出しの中身に目を疑った。

「え?何それ?」

「見て分かんない?プリンだよ」

プリンはモニターを見ながらプリンを口に運んでいく。

「いやいやいやいや。おかしいでしょ。なんでプリンが机の引き出しの中にいっぱい入ってるの!?」

ロモは下の引き出しをガラッと開けた。そこには、きちんと列を成し、縦六つ、横四つに並び、さらによく見ると二段になっている。

--なんだこれは……

目が点になってしまう。

「ねぇ?」

「ん?」

「真ん中の引き出しは何が入ってるの?」

「見たい?」

「うん…」

しぶしぶうなずいた。

「いいよ。見ても」

下の引き出しを閉め、真ん中の引き出しに手をやり、ゆっくり開ける。

少し開けるだけでもカップのような物が見える。ロモは涙が出てきそうになった。

焼きプリンが四つ出てきた。

--こ、これはいけないかもしれない……

ゆっくり引き出しを閉めた。

「上の引き出しは何なの?」

「上?」

「うん」

「見たい?」

「気になるから」

「ちょっとだけならいいよ」

ロモは少し心拍数が上がってきている。息を飲みゆっくり開ける。

紙がある。

中は仕事の書類があった。

--はぁ。全部プリンじゃなくて良かった……

「こんなにプリン大好きだったっけ?」

「うん。じゃなかったら引き出しにプリン入れないし」

「そ、そうだよね。でも、引き出しに入れてて悪くならないの?」

「下と真ん中の引き出しは温度調節できるように改造したの」

「あ。そうなんだ。凄いね」

と、ロモがプリンの机に目を戻した時にも目を見張った。

--なんだこれぇぇぇぇぇ……

ペン立ての中にペン数本と混じって銀色のスプーンが三本刺さっているではないか。

「ちょっと。なんでスプーンが刺さってるのよ!?」

「いちいち食堂まで取りに行くのめんどくさいから」

「え?だったら引き出しの中に入れておけばいいじゃない!」

「でも、ペン立ての中に入れておいたらオシャレみたいじゃない?」

なぜかプリンが最後に笑顔できめてきた。

「あ、うん。そうだね…」

プリンはプリンを食べながら黙々とモニターを見ている。

--しかし、なんで今まで気が付かなかったのかしら。堂々としすぎて目に入らなかったのか。きっとそうね……

無理やり納得させた。

「あ」

モニターを見ていたプリンが声を出した。

「どうしたの?」

「爆発したところに着いた」「え?結構早いね」

「ほら」

と、プリンはモニターに指差した。




ガンラーズンクローでもその姿が確認された。

「探偵達が爆発位置に着きました」

「よし、そろそろいいだろう。では行ってこい」

「はあい。それじゃあ、行って来るっス」

部下がらせん階段を使って上へ向かった。

その頃、男に撃たれた二人が目を覚ました。

「おいおい。大丈夫か」

先に起きたほうがもう一人の方に聞いた。

「ああ。大丈夫だ」

横になっていた体を起こしながら答えた。

「なんでこんなところで倒れてたんだ?」

「さあ。何でだろうな」

「ただ寝てただけだっけ?」

「まあ、寝てた事がばれたら面倒だから行こう」

「ああ、そうだな」

と、言って本部の方へ向かって歩いた。すると、奥から誰か歩いてきた。

「おやおや?さっきから見ないと思ったらこんな所にいたッスね~」

と、さっきまで寝ていた二人に上から目線で言った。

「ヤバイよ。ラウリーさんに会っちゃったよ」

と、小声で囁いた。

「まあ、大丈夫だ。まかせろ」

囁き返して、うなずいた。

「地雷を埋めてボスに報告した後に外が気になったもんで」

寝ていた事をあくまでも隠すための嘘だ。

「ほ~。一時間も偵察してたのか」

「ええ、まあ。そんな事よりラウリーさんは何を?」

「探偵達を迎えに行くんッスよ~」

「え?探偵達って?」

「お前たちが偵察してる間に、ボスの企み通り探偵が地雷の爆発に誘われて森の中へ入って、もう爆発位置に付いた。だから迎えに行くんッスよ」

「そんなに事が進んでいたのか」

「申し訳ありませんでした」

「そんな事より早く戻った方がよくないッスか~?」

「あ、はい。そうですね」

「そ、そうだな」

と、二人でうなずきあい

「ではこれで」

と、ラウリーに言って奥へ小走りで向かった。

ラウリーは出口の方へ向かって行った。

出口のところは階段になり、扉は地面と同じ高さにあるので、階段と天井がくっついているから中から見るととても面白い。

階段の途中に、手のひらくらいの大きさの隠し扉があり、その中にボタンがある。中からはそれで暗証番号を入力しないと扉は開かない仕組みになっている。

ラウリーは暗証番号を入力して扉を開けて、外に出た。

「なんだこれは…」

思わず呟いてしまった。

それは、二人組を追っていたコートの男がつけた印だった。

--なんだろうね~。あいつらはこんな印をわざわざ付けてたんスかね。これだから下っぱは困るんだよ……

と思いながら扉の周りに付いている印を足で消して、爆発位置に向かった。




「これは、凄いな…」

ピピンが削り取られたようになっている地面を見て呟いた。

「地雷ですかね?」

サリアがその周りに散らばっているビンや缶のような形の物を見て言った。

「しかし、これは凄すぎじゃないか?まるでダイナマイトを地面に埋めて爆発させたみたいだ」

と、ピピンが言った。

「二人とも。ちょっと」

と、お佐紀がピピンとサリアを呼んだ。

二人が駆け寄ると、

「あれ足跡じゃない?」

と、お佐紀が指差した先には走って行った足跡のような物が二人分付いている。

「まだ新しいかも」

サリアが土を触って確認した。

「とりあえずこの足跡に沿っていけば何かあるかもしれないな」

「え?もう行っちゃうんですか?」

とお佐紀が、まだ調べていたいように言った。

「まだ調べたいかい?」

「少し…」

「よし、じゃあ少し調べ物をするぞ」

ピピンが言った時には、すでにサリアが何かを見つけていた。

「これはどこかの組織の名前ですかね?」

サリアが地雷の缶に付いている名前に気が付いた。

「どれだ?」

ピピンとお佐紀がその缶を見た。

「ガンラーズンクロー?」

お佐紀が呟いた。

「なんだ?ガンラーズンクローって」

ピピンが缶に付いている文字を見て不思議そうに言った。

「でも、これはどこかの陰謀ですよ」

サリアがピピンに言った。

「そうかもしれないな。だけど、なんで地雷をこんなに埋めたんだ?」

「安い地雷で経費削減?」

「かもな。てか、名前入りってなかなかいないぞ」

「ですね。もしかすると、この組織のボスは面白いのかもしれません」

「例えば?」

「みんなと仲良し」

「マジか?サリアは結構当てるから本当なら凄いな」

「この組織のアジトに入ってみたいですね」

「まったくだ。でもこれで、どこかの組織が動いている事が分かったな」

「そうですね」

この時お佐紀が奇妙な行動をしていた。

「お佐紀ちゃん。何してるの?」

サリアが地面に耳を付けていたお佐紀に聞いた。

「ああ。これ?これはこだま拾いよ」

「こだま拾い?」

サリアが首をかしげた。

「何かあるのか?」

ピピンも初めて聞いた名前だった。

「地面に耳を付けて、誰かが近づいてくるのを聞き分けるのよ」

お佐紀は得意げに言った。

「何も聞こえないぞ」

ピピンが地面に耳を付けて言った。

「そりゃ、鍛えてないと聞こえませんよ」

「そうなのか。ところで何を聞いてたんだ?」

「地面の中に大きな基地があるみたいです」

「なに!?」

ピピンが目を見張った。

「基地が地中にあるって事?」

サリアもお佐紀に問い質した。

「そう。この真下から何か大きな空間があって、歩いている音が数多くするから間違いないわ」

「じゃあ、この周辺に入口があるのか?」

「それは分かりません。だけど、この森はとても巨大だから、この森の中に小さな入口を作ってしまえば、この下にある組織にとっては好都合というものです」

「じゃあ、この森の中に入口がある確率は高い…」

「おそらく」

お佐紀はうなずいた。

「ピピンさん」

ピピンとお佐紀の話を聞いていたサリアが、森の奧が気になってピピンを呼んだ。

「向こうの方から気配が」

指を差さず軽く目を向けて言った。

「……」

ピピンも静かに向けられた方に目をやった。

三人が気配のする方に目を向けていると、木の影から誰か出てきた。

「あー。助かったッス」

出てきたのは森で迷っているような男を装ったラウリーだった。

「あなた方は今、道に迷ってるんスか?」

ラウリーが聞いてきた。

「いえ。この森を調べている者です」

ピピンが何の不信感も持たずに答えた。

「へ~。じゃあ森を抜けられる道を知ってる?」

「ああ。向こうにまっすぐ進めば抜けられるはずですよ」

と、来た道を指差した。

「お~。ところでこの地面が爆発したみたいな、これはなんッスか」

「さあ、まだ分からない。私達はその事を調べている者だ」

「そうなんだ。この足跡みたいなのは…」

ラウリーは足跡をみて、考え込むようにした。

「どうしました?」

「さっき、この足跡の主を多分見たよ」

「え?」

「本当?」

サリアとお佐紀がそれぞれ声を出した。

「え?本当に見ましたか?」

「ああ。間違ってなければあいつらッスよ。なんか怪しげでしたから」

「どこら辺で見たか分かりますか?」

「ああ。分かるよ。案内するッス。付いて来てください」

三人はラウリーに案内を任せ、森の奥に進んで行った。

「ロモちゃんロモちゃん」

ジェニクタクホンボルンソメイサ指令本部のモニター室でプリンが手招きしてロモを呼んでいる。

「今度は何?」

ロモは自分の席のモニターを見ていたが、しょうがなくプリンの方へ来た。

「この人誰かな?」

プリンはモニターに映っているピピン達の前にいる人を指差した。

「あ。ホントだ。誰だろう」

ロモはプリンのパソコンを使って先頭にいる人物を拡大し始めた。

「知らないなぁ…。調べてもらおうかな」

「怪しい人かな?」

「さぁ。とりあえず調べてもらおう」

と言って画面に拡大されて映っているラウリーの顔を静止画で保存した。

「よし。じゃあ」

その静止画をメールでどこかに送ろうとしていると同時にポケットから携帯電話を取り出し、どこかに連絡しようとしている。

「あ。私です。ロモです」

「調べてほしい人の写真があるんですけど、今平気ですか?」

「分かりました。じゃあ、今からメールを送ります。よろしくお願いします」

話し終わり電話を切ってメールですぐに静止画を送った。

「どこに話してたの?」

「あなたのお兄さんのところよ」

「え?お兄ちゃんと話してたの?」

プリンのお兄さんの名はスィオン。『総合調査機関』別名『カブウェブ』に働き、数多くの部下達を従えている。

「うん。あそこが一番早いからね」

「お兄ちゃんは渡さないからね!」

プリンが口を尖らせてすねた。

「は?誰もお兄さんは取らないわよ」

プリンは物心が付く前にお父さんが病で亡くなりお母さんとお兄さんの三人で暮らしてきた。お母さんは主婦だったがお父さんが亡くなり、お母さんが働くようになってからずっとお兄さんに面倒を見てもらっていたから今でも誰にも取られたくないのだ。

「本当?」

「少なくとも私は取らないわ」

「ふ~ん」

まだ少しすねている。

その時プリンのモニターにメールが入ってきた。

「来た。やっぱり早いね」

カブウェブからメールが届いた。

名前から生年月日、今までの職業など様々な物が書かれている。だがそれは8年前までの物で、そこから先は記録されていなかった。

「要するにこのラウリーって人は曲者って事ね」

「じゃあ、ピピンさん達危ないかな?」

「まあ、ラウリーって人がピピンさんより上回ってるっていうのは考えづらいけど…」

「上には上がいる?」

「かもしれないわね。何にしても今は見守るしかできないわ」

「そだね」




「そういえばあなたのお名前は?」

ピピンが地中から出ている木の根をまたぎながら聞いた。

「ん?俺ッスか?俺の名前はラウリー。あなたは?」

「私はタークポートタウンで探偵をしているピピンと言います」

「へ~。探偵やってるだ」

「全然探偵に見えないでしょ」

「いや。探偵って他から見て探偵って分かったらまずいからそれでいいんじゃないスか?」

「それもそうだな…」

顎に手をあて呟いた。

「あ、そうそう。この辺ッス。うわ!」

その時ラウリーがつまずいて転んだ。

「大丈夫ですか?」

「ああ。大丈…」

ラウリーが立ち上がろうとした時、地面だと思っていたところからラウリーを押しながら鉄の扉が開かれた。

実は、ラウリーが転んだ時に左手に隠し持っていた針金をアジトにつながる扉の鍵穴に差し込み、気付かせないように開けていたのだ。

「なんだこれは…」

「コレがさっき言っていた地下への道でしょうか」

サリアが呟くようにピピンに言った。

「かもな…」

「いててて…」

ラウリーが開いた扉の向かい側から顔を出した。

「あ~。幽体離脱したかと思った…」

「ラウリーさん。これは凄いですよ」

ピピンは驚きを隠せないでいる。だか、無理も無いだろう。たまたま森で道に迷っている人に足跡の主を知っているかもしれないと言われ、後をついてきて突然転び、転んだ所から扉が出てくれば誰でも少しは驚くのではないだろうか。

「階段ッスね」

その言葉に軽くうなずき、

「サリア、お佐紀ちゃん。行くぞ…」

「はい」

二人同時に返事をした。

「ラウリーさんは道がだいたい分かったと思うので森を抜けてください」

「あなた方はどうするんで?」

「この中を調べてきます」

「ふ~ん。なら同行させてもらうよ」

「え…?」




「出た出た出た。扉が出たよロモちゃん」

「見つけたね~。これは長官に報告しないとね」

二人でさっきからずっとプリンのモニターで動きを観察していた。

「お~。見つけたな」

二人の後ろで長官の声がした。

「うわ。いつの間にいたんですか」

ロモが驚いて振り向いた。

「ふん。ワシを呼ぶ声が聞こえたのでな」

「はあ。そうですか…。ていうか、この扉は」

「ラウリーってやつのアジトなんじやないのか?」

「やっぱりそうなりますかね…」

--なんでラウリーって名前だってしてるの?こっちにしかメール来てないはずだけど。どんだけ情報網すごいのよ……

「この扉の場所をマークしておいてくれ」

「分かりました」

そして長官は別の部屋へ行った。

--長官には神出鬼没というハイセンスがデフォルトで備わってるのかしら……

ロモは長官の後ろ姿を見ながら思った。




「どういう事ですか?」

「同行は同行ッスよ」

「いや。どうしてあなたがこの中に入る必要があるんですか?」

「知りたいか?」

ピピンはうなずいた。

この時サリアは警戒し、銃のサークスに手をかけようとしている。

「それは俺がこの中にあるアジトの人間だからだ」

「それじゃあやっぱりこの中に組織が…」

「その通り。感がいいッスね。じゃあ入りやしょう」

そう言うとラウリーが階段を下りはじめた。

「行くぞ」

ピピンがサリアとお佐紀に言った。

二人はうなずきピピンの後に続いて中に入った。

そして扉が閉められた。


「一体こんな地下で何をしてるんだ?」

ピピンがラウリーに問いかけた。

「それはここのボスに聞いてもらえるとありがたいッスね」

「ラウリーとは偽名ですか?」

これはサリアが聞いた。

「いや、本名です。ほら」

と、ラウリーはポケットから保険証を取り出してサリアに渡した。

「ふーん」

--これ本物か?てか、保険証を持ってるってどんな組織だよ……

少し眺めてラウリーに返した。

「にしても、なんで消火器が置いてあるんだ?」

さっきから歩いていると感覚が開いて置いてある消火器を気になっていたピピンが口に出した。

「え。皆さんの家にも消火器ありません?」

「あるけど、こんなにないな」

「ふーん。ボスが設置した方がいいって言ったんスよ。何でも用心にこしたことはないって」

「へぇ。用心深いんだな…」

「まあ…。あ。コレが俺らの組織の名前ッス」

と、ラウリーが壁に注目させた。見ると[ガンラーズンクロー]と書かれている。

「何でバックが宇宙の絵なんだ?」

「そりゃ、かっこいいからじゃないッスか?」

「そんなもんかねぇ」

そんな事を話ながら歩いていると廊下の奥がざわざわしてきた。

「もうすぐッスよ。お三方」

もうピピン達は廊下から鉄の橋が見えている。三人は息をのみ廊下を出て橋に足を乗せた。

「これは…」

ピピンは橋の下にいる人数を見て驚いた。

「すごい…」

お佐紀は地中に基地があるとさっきの『こだま拾い』で分かってはいたが、これほどとは思わなかったようだ。

「階段を下りるッスよ」

階段を下りはじめると、モニターを使って作業をしている奴らがピピン達を見はじめた。

「探偵を連れてきたッスよ。ボス」

ラウリーが前の方にいる人に声をかけた。

「おお、連れてきたか」

と、待っていたのはガンラーズンクローのボスであった。

ラウリーはピピン達をボスのところまで連れていった後、自分の持ち場に戻って行った。

「なぜ私達をこの組織に連れてきた?」

「ふん。いきなり本題に入られるとは思わなかった」

「……」

「教えてやろう。お前をこの組織の仲間に入れてやろうという事だ」

「笑止。誰がこんな組織の仲間になるかよ」

「だか、このモニターに映る物をみたらどうかな?」

「何?」

ボスは自分の後ろにある映画館のスクリーンくらいの大きさのモニターを見せた。

「こいつは一体…」

モニターに映っているのは縦横5センチ、厚さ1センチの大きさの物が大きく拡大されて映っている。

「これは部品のほんの一部だ。完成形としてはこうなる」

ボスが机の上のボタンを押すと、映っているものが変わった。船のような形をしている。

「こいつは…」

「タイムマシーン…?」

と、サリアも呟いた。

「その通り。タイムマシーンだ。だが、まだ完成は先だ」

「こいつを完成させたとしてお前は何がしたいんだ」

「お前が仲間にならなければ13年前に行く」

「なんだって!?」

ピピンは胸騒ぎがした。

「そしてサバリーシティへ行きお前を殺す。シグカスと共にな」

「なぜお前がその事を!」

「あの時、シグカス最後の襲撃を覚えているか?」

「ああ」

「あの探偵事務所を襲撃したのは俺の兄とその部下だったんだよ」

「何!?ようは復讐がしたいって事か」

「そういう事だ。どうする?」

「どうするもこうするもない。また一つの組織を捕まえるだけさ」

「三人でこの組織をつぶせると思うのか?凄い自身だな」

このボスは余裕たっぷりである。

そして、さっきからお佐紀が気になっていたがある。それは、さっきから部下の様子が全く変わらず、ひたすらモニターを使っているからである。少しは警戒してもよさそうなのに全くその気配もない。

「じゃあ、やるか。サリア。お佐紀ちゃん」

「はい」

「やっとね」

三人ともすぐに武器を持った。

一番早いのはやはりピピンだった。

一番近くでモニターを使っているヤツの後頭部をピストルの底で殴り気絶させた。

それを見てようやく部下達がピストルを持ち戦う姿勢をとりはじめた。

ピピンは次々とピストルの弾を避けたり跳ね返しながら気絶させていく。

サリアはなるべく殺さないように敵からの弾を避けられるなら避けて、当たりそうな弾は弾を当てて落とす作業だけをしている。

お佐紀はピストルの弾を避けるのに手裏剣を器用に使い逸らして避けたり、跳ね返してモニターを壊したりして遊んでいる。

「こ、これは予想外だ」

それを見ていたボスが脱出用のボタンを押した。すると、ボスの立っているところの床を鉄の棒がボスを乗せて上へ上へと上げて行くではないか。

「お前たち作成Aだ!」

と、大声で叫び天井が開き姿がその中へ消えてしまった。

「ちっ。止めだ止め」

と、ピピンが言い

「ふう」

「ボスがいなくなってしまっては」

そうは言うものの最初二百人くらいいたのが今は五十人くらいになっている。あれだけ動いていて三人は全く息を切らせてない。

「それじゃあ帰ってこの事を本部に報告だな」

「そうですね」

「あ。お佐紀ちゃん。オークスシティの射的のやつは申し込んでくれたか?」

「はい。ばっちりです」

など話ながらアジトを出て行った。


「やっぱり俺が出る幕じゃなかったか。出口の鍵は解除しておいたから問題はないな」

さっきから換気扇の隙間からピピン達を見ていたコートの男。

「さてと俺も出口に…。ん?」

男が帰ろうと思ったら心を揺さ振られる物があった。

「おいおい。これさっきモニターで映してたタイムマシーンってヤツじゃないか?」

そのタイムマシーンへ近づいてみると『重要機材』と書かれた箱が床に置いてある。

男は開けて中を見ると、よく機械の中に入っているチップやらコードやさっき、最初にモニターに映っていた小さな四角いやつが入っている。

「こいつらを埋め込むんだな。お?」

何か思いついた。

「こいつを全部もらっていこう。ついでに…」

タイムマシーンの近くに置いてあったパソコンをいじり始めた。そして自分のカバンからメモリーカードを取り出した。

「このデータは俺がいただくぜ」

と言ってパソコンのデータをメモリーカードに全部移した後、パソコンのデータを狂わせて電源を切った。

「これでここのタイムマシーンは使えなくなるな」

そして重要機材を持ち、このアジトを出て行った。


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