久々の事件
ここはタークポートタウン。レンガ造りの建物が多く並んでいる町。それほど活気がある町でもなく、都会か田舎といえば田舎町だ。背の高い建物も町の真ん中辺りある三階建てのタークポートデパートくらいである。
そして、ここ最近妙な事件が起こっている・・・。
バタン!
「ピピンさん!また例の事件が飛び込んできました!」
「なに?またあれか」
勢いよく扉を開けて入って来たのは若い女性で探偵の助手であるサリア・ロリンズ。
そして扉を開けた部屋に座っていたのは、ピピンことピピン・ザ・ホルン。
ピピンがまたかと呆れるのを無視してサリアは
「今回のはいつも違って大勢の仕業らしいんですよ」
そんな事どうでもいいようにピピンは、
「いつもの犯行は大体1人でやるのに珍しいな。そんなにいい品物が入った店なんかあるのか?」
「あったんですよ。しかもこの町のこの辺りなんですよ」
「場所は?」
「タークポートデパートの二階にある〈ひま発堂〉です」
「本当に近くだな。で、何を盗まれたんだ?」
「コスルーク産のチョコレートが100キログラムです」
「何?!コスルーク産のチョコレートが100キロだっ!?」
いきなりピピンのやる気が出て急いで支度をし始めた。
「よしサリア行くぞ」
「は、はい」
探偵事務所からは3分くらいでデパートに着く距離だからすぐにデパートの〈ひま発堂〉に着いた。
そこにはすでに警察が数人で調べをしている。
「探偵のピピンだ」
ピピンが警察の一人に声をかけた。
「お疲れ様です」
探偵の依頼があった訳でもないのにピピンが出向けば大体はこう返される。ピピンは暇があれば散歩をし、騒ぎがあれば顔を出すのでこの町では自然になってしまった。
「うむ。ここの店主はどこだ?」
「あちらで休憩しております」
と、店の奥の方を指さした。
確かに歳の行ったおじいさんが座っている。見た感じ60歳は過ぎていそうだ。
ピピンは店の奥にいる店主のところに向かった。店の中が荒らされた形跡がないのは店の中を歩きながら確認した。
店主の所に着いて話しを聞き、それを助手のサリアが手帳にメモをする。
「私は探偵のピピンと言います。あなたの名前は?」
「コーラス・ヘルマーです」
「ではコーラスさん。チョコレートはどこに置いてありましたか?」
ピピンが質問を続けると店主はしぶしぶ応じた。
「はい。この店の裏に倉庫があってそこに保管してありました」
「鍵は?」
「はい。ちゃんと掛けておいてあったはずなんですけど…。しかもあの鍵は頑丈にできていて、ちょっとやそっとじゃあ壊れないしれものでして」
「うーん。盗まれた時間とかは大体でもいいから分かりませんか?」
「わたしが店を閉めてから開けるまでの時間だから多分日暮れの時間の犯行だと思います」
「うーん」
ピピンは頭を抱えている。
「ピピンさん」
ピピンの後ろからサリアが言った。
「どうした?」
「いえ。大した事はないんですけど、どうしてお店の棚に出さなかったのかなって」
「確かにそうだな」
サリアとの話を終えて店主へ話を続けた。
「どうしてコスルーク産のチョコレートを店に出さなかったんですか?」
「ああ。それは、来週にデパート全体でやる『大安売り』が2日間あるんです。それでコスルーク産のチョコレートはその時の目玉商品にしようとしてたんですけど・・・」
「そうか。そりゃ残念だったな。じゃあ店の中を少し調べさせてもらうよ」
店主がさらに落ち込みそうなので店の中を調べる事にした。
店に荒らされた形跡はない。ガラスなども割られているわけではない。
倉庫を見させてもらった。
チョコレートが棚の上にきれいに並んであった。しかし一部だけ空いている部分があった。おそらくコスルーク産のチョコレートがあったのだろう。そこだけすっぽりなくなっている。
ピピンは何となく天井が気になった。
「サリア。なんか棒かなんかあるか?」
ピピンが天井を見ながら言った。
「うーん」
サリアが周囲を見回してから。
「あ。ほうきがありました」
サリアがずっと天井を見上げているピピンにほうきを渡した。
ほうきを受け取ったピピンはほうきの持つ方を上にし天井を突き始めた。
コンコンコンコンコンズ。
『ズ』というにぶい音と同時に天井の一部が外れた。
「これだな」
「おお。お見事です」
サリアは歓喜の声を上げた。天井には60㎝×60㎝程の正方形に切られた穴が現れた。
「ちょっと店主を呼んできてくれ」
「はい」
サリアはいそいそと呼びに行ってすぐに店主が来た。
「どうしましたか?」
「いや。この天井は前から開くようになってましたか?」
と、ピピンがほうきで開けた隠し扉ができてた天井を見てもらった。すると店主が驚いたように。
「げ!なんだこれ」
「やっぱりこの開くようになった天井から数人が入って盗んだんだな」
「いつの間にこんなの造ったんだ…」
「ハシゴかなんかはありますか?ちょっと登ってみたいんだが」
「はい。ありますよ。ちょっと待ってて下さい」
店主がそういってすぐに用意してくれた。
「サリアは店主と待っててくれ」
「はい。分かりました」
ピピンはハシゴを登って、天井に開けられた隠し扉の中に入って行った。
--こんな通路どうやって造ったんだ。でも壁は薄いのかな?店の声が結構聞こえるな・・・
ピピンは匍匐前進して行っている。少し行くと真下に落ちている道がある。
--なんだよこれ。真下じゃん。よくこんなところを数人で子袋を使って?でしかも合計100キロなんて、何人で分担したんだろ・・・
そう考えながらもピピンは下にいった。
--何か臭うな。下水道か……
ピピンの予想通りまさに下水道だった。
--少し調べてみたいが何も準備してないしな。とりあえず戻るか……
ピピンは来た道を引き返した。
ガサガサ
〈ひま発堂〉の倉庫の天井がうるさくなってピピンの顔が出てきた。
「遅くなったな」
「どうでしたか?」
サリアがピピンに尋ねた。
「下水道につながってた」
ピピンはそう言いながらハシゴを降りてきた。
「おそらくこの下の下水道にこの店を襲った奴らと、アジトがあるだろう」
「本当ですか?ピピンさん!」
「んー多分ね。それより警察の方々はどうした?」
「それならピピンさんが天井の中に入ってちょっとしてから帰っちゃいましたよ」
ピピンがその事を聞くと店主に向かって。
「事情はよく分かりましたのでこれから事務所に戻って捜査の準備ができたらまた伺います」
と、ピピンが言って店主が礼をした。
事務所までは急がずに歩いて帰った。
「うちの事務所にこの町の地図はあったか?」
「んー。確かありましたよ」
「帰ったら調べたいから用意してくれ」
「はい」
ピピンがサリアに地図の用意を頼み終わった頃に事務所に着いた。
ピピンはいつも仕事をする部屋で待ってる事にして、サリアに地図の用意をしてもらった。
コンコン
ガチャ
扉がノックされ開いた
「ありましたよー」
「おー。ありがとう」
机の上に地図をバサッと広げピピンは赤いペンで下水道の道筋をたどった。
「やっぱりあそこから入った下水道だと出口が遠いし、すぐに下水処理場だな」
と、ピピンが言うとサリアが。
「では、やはりあの下の下水道のどこかに奴らのアジトがあるって事になりますかね。どうしますか?」
ゴーンゴーン…
サリアがしゃべり終わった直後にピピンの仕事部屋に置いてある古い振り子時計が鐘の音を鳴らした。
「もう夜も深くなるな。とりあえず休もう」
「分かりました」
「それまでゆっくり休んで次に備えておくんだぞ」
「はい。ありがとうございます」
サリアが眠たそうに振り返って部屋の外に出ようとした時に後ろからピピンが、
「そうだサリア。寝る前にピストルの用意をしておいてくれ」
「あ。はーい。分かりました」
サリアはあくびをしながら部屋の外に出ていった。サリアが部屋の外に行きのを見てからピピンは机の引き出しからピストルを取り出した。本体の色はシルバーのボディーに手持ちの部分がブルーに輝くピピン愛用の『シグカス V-72』である。このピストルの素材はすべて『オリハルコン』と呼ばれる素材でできている。
このピストルにピピンは弾を入れていく。シグカスには弾が10発入るように作られている。ピストルに弾を入れ終わると今度はピピンがいつも着ているコートの胸ポケットに予備を1セット入れておく。
ピストルの準備ができたピピンも寝て疲れをとる事にした。
日の出少し前になってピピンが目を覚ました。机に座り電話を取り出して、警察に連絡した。
「はい。タークポートタウン警察署です」
若い男性が出た。
「探偵のピピンです。昨日のひま発堂の事件の事なんですけど、その事件を担当してる者に変わってくれませんか?」
「はい。少しお待ち下さい」
「もしもし。お電話変わりました。ソンバク・クルーズです」
少し年輩の声が出た。
「この前のひま発堂の事件の事についてなんですけど、犯人の居場所がだいぶ分かったので護衛を頼みたいのですがよろしいですか?」
「おお。そうか、分かった」
「それで今から捕まえに行きたいので、今から30分くらいにひま発堂に来てくれるとありがたいのですが……」
「分かった。そのくらいに行けるようにしておこう」
「ありがとうございます。ではまた後ほど」
と、ピピンは電話を切った。
すると、ちょうどサリアが朝飯を持って来てくれた。
「朝ご飯できましたよ」
「おお。ありがとう」
コトッと食器が机に置かれた。今日の朝食はレタスとツナのサラダ、ピピンはレタスにツナを入れて食べるのが最近好んでるので、サリアに頼んで毎朝食べるようにしている。それから白米と焼き魚と味噌汁が並んでいる。
朝飯をすぐに食べ終えてからサリアにひま発堂に行く準備をさせた。
二人の準備ができて〈ひま発堂〉に行くと警察が来ていた。その中の警察がピピンたちに気付いた。
「おはようございます。ピピン探偵」
「おはよう。先ほど電話で話した方はどこにいますか?」
「あそこの角にいます」
と、手で差した。
ピピンは警察に会釈して上司の方に向かった。
「あのー。先ほどお電話させていただきました探偵のピピンです」
「おお。私は署長のソンバク・クルーズです」
軽く挨拶して要件に入った。
「昨日にひま発堂の倉庫を調べたところ。倉庫の天井から下水道に通じる通路を発見しまして。おそらくその下水道を少し下って下水道処理場の手前に奴らのアジトがあると推測できました」
「よし分かった。ではさっそく向かおう」
ソンバク署長が行こうとするのをピピンは、
「ちょっと待ってください。まずアジトには私と助手のサリアが入ります。相手は何人いるか分からないので、相手を油断させて隙を見てから逮捕して下さい」
「よし分かった。では向かおうか」
「はい」
ソンバクがしたっぱに大声でピピンが説明した事を話しだした。
みんな理解したらしくソンバクがピピンに行くように指示し、ハシゴをピピンが登った。そのあとをサリアそのあとにソンバクとそのしたっぱが続く。
みんなが下水道に着いた。
下水道を下ると予想通り奴らのアジトらしき部屋があった。その中から
「本当にうまくいったな」
「あんなにうまくいくとは思わなかったぜ」
「当分は食事に困らないな」
などと聞こえてくる。
これ以上聞いていると貴重なコスルーク産のチョコレートが無くなってしまいそうな気がしたピピンがいきなり
バタン!
「何がうまくいっただ?」
ピストルを構えて扉を開けた。すかさずサリアも銃を構えた。
サリアの銃は弾が6発、ボディーはブラックのリボルバー『サークス S-35』である。
アジトの中にはチョコレートを盗んだとみられる奴らが4人いた。
その中のボスらしきやつが
「ちくしょう!ばれたのか」
バンッ!
と、いきなり銃を取り出しピピンに一発撃ってきた。
それをピピンは交わす事なくシグカスを頭上から振り下ろしボディーで弾を簡単に床に叩きつけた。
「てめぇの弾じゃ当たらねぇよ」
「なんだこいつ!」
次に銃に構えていたサリアに2発撃ってきた。
バンバンッ!
しかしサリアは何事もなくしている。確かに銃声は2発聞こえた。逆に2発の音しか聞こえなかったのだ。この時4発の弾が宙を飛んでいた。相手が撃った2発の弾をいとも簡単にサリアのサークスで2発撃って正面衝突させていた。床を見れば一目瞭然だ。まるで雪だるまのように鉄の弾が繋がっている。
これを見た犯人達は呆然とした。
ピピンが待機させてた警察に入るように合図した。
「確保ー!」
警察が次々に犯人を捕えていく。
「ありがとうピピン・ザ・ホルン。噂には聞いていたけど、まさかこれほどとは思わなかった」
「いやー。それほどでもありませんよ」
ピピンは気軽に答えた。
「それではこれからこのチョコレートをひま発堂さんのところに運びますので。それと、逮捕させていただき本当にありがとうございました」
「いやいや。本当にたいした事じゃないんで。では私達は事務所に戻りますので」
「お疲れ様でした」
ソンバクは深く礼をした。
ひま発堂の倉庫の天井から出てきたピピンとサリアを待っていたのは、店主のコーラスだった。片手には何やら袋を持っていた。
コーラスが声をかけてきた。
「ピピンさん。この度はありがとうございました。お礼と言ってはなんですけど、これを」
コーラスは持っていた袋をピピンに渡した。
「こ、これは?」
「はい。コスルーク産のチョコレートを2キログラム用意しておきました」
「いいんですか!?コーラスさん!!」
ピピンは本当に嬉しそうに言った。
「いいんですよ。ピピンさんがいなければ、全部奴らに食べられていたかもしれなかったんですからね」
コーラスは微笑みながら言った。
「ありがとうございます」
ピピンとサリアは同時にお礼と礼をした。
「では事務所に戻って美味しくいただく事にします」
と、ピピンが言ってひま発堂を後にした。帰り道にサリアが
「まだお昼ご飯の前なんですね」
「ああ。ホントだな。とっくに過ぎてるかと思ったよ」
見上げれば太陽が上にあった。
「あ。そうだ」
「どうしました?」
「昼食を食べた後にこのチョコレートでスイーツを作ってくれない?」
「え?早速ですか?」
「せっかくもらったからね」
「いいですよ。1キロくらい使って作っちゃいますか?」
「お!いいね。じゃあ、おまかせでお願い」
「わかりました。まかせてください」
と、ピピンとサリアは探偵事務所に帰って行った。