表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/121

第21話 保健室で

 私も好きになってもらう自信はまったくない。でも、好きになる自信ならあるかもしれない。ただし、自分が相手を幸せにする自信は、やっぱりない。

 

 でも、藤堂君も自分に自信がないんだっていうことを知れて、ちょっとほっとしているような気がする。

 そんな藤堂君も、好きな人の幸せを望む藤堂君も、やっぱり好きだなあって思ってしまう。

 私、重症かな。


 ドーナツをぺろりと2個食べてしまうのも意外だったし、アイスコーヒーにガムシロップをいれるのも意外だった。

 そんなところも知れて、喜んでいる私がいる。


 それに、あの陸上部の子のことも、何とも思っていないようで、安心した。

 あれ?でも待てよ。もし、相手が幸せであることを望むのなら、野坂さんに彼氏がいても、野坂さんが幸せならそれでいいってこと?


 私はお風呂に入りながら、そんなことをずっと考えていて、のぼせてしまった。


 翌日、あまり具合がよくないのに、無理して学校に行った。

「なんだか、顔色悪いよ?穂乃ぴょん」

 美枝ぽんがそう言った。

「わ、わかる?」


「わかるよ。なんで学校に来たの?休んじゃえばよかったのに」

 う。だって、やっぱりなんだかんだ言いつつも、藤堂君に会いたいんだもん。

「保健室行って、休んでいたら?」

「そ、そうする」


 1時限目が終わり、私は美枝ぽんについてきてもらって、保健室に行った。

「次の休み時間に、様子見に来るからね」

 美枝ぽんがそう言って、戻って行った。

「熱はないようね」

 養護の先生がそう言って、

「少し横になっていなさいね」

と言ってくれた。


「はい」

 私はベッドに横になった。

 うん。熱はない。でもきっと、貧血だ。頭がくらくらする。


 いつの間にか私は眠っていたが、話し声で目を覚ました。

「先生、いつもの薬」

「また頭痛薬?あなた薬漬けになるからもう駄目よ」

「じゃ、ここで休んでいっていい?ベッド空いてる?」


「一つふさがってるけど、もう一つ空いてるわよ」

「先生も一緒に休む?」

「何をバカなこと言ってるの」

 この声、まさか柏木君?!

 シャ…!カーテンがいきなり開いた。


「あれ?」

「柏木君、そっちのベッドじゃなくて、窓際のほうよ、空いてるのは。ほら、早くカーテン閉めてあげて。今、気分悪くて寝てるんだから」

「起きてるよ、先生。それに、この子、俺の知り合い」

「あら。起きたの?具合どう?」


 先生が柏木君の後ろから顔を出した。

「…まだ、頭がくらくらしてます」

「じゃ、もう少し寝てなさいね」

「はい」


「頭痛くて寝てたの?」

「…」

 柏木君に聞かれたが、私は答えなかった。

「ほら、柏木君。休んでるんだからもう話すのやめて、そっちのベッドにあなたはいなさいよ。ちょっと私はこれから、職員室に行かないとならないから、ちゃんと寝ていなさい」


「へ~~い」

 柏木君はカーテンを閉め、隣のベッドに寝転がったようだ。

「…こんなところで会うとはね」

 柏木君がそうつぶやいた。

「いつになったら、部活出てくるの?結城さん」


「…」

「出られないのって、俺のせい?」

「…」

「悪かったって反省してるよ」

 嘘だ。声が全然、反省してない。


「…具合悪いの、風邪?」

「もう寝るから、黙ってて」

「…いいの?俺が隣にいるのに寝ちゃって」

「え?」

「その間に襲うかもよ」


「!!!」

 し、信じられない!

「はは。嘘だよ。今、焦った?」

 この人、やっぱり、何を考えてるかわかんない。

 シャ…。柏木君がカーテンをまた開けた。そして、またベッドに寝転がった。


「顔が見えてるほうが話しやすいね」

 柏木君からそう言われ、わざと私は背を向けた。

「…やっぱ、俺、相当嫌われたか」

 私はまだ黙っていた。


「たった一人の友達も、俺、いなくなっちゃったんだな」

「友達だなんて思ってないくせに」

「…なんでそう思う?」

「友達だったら、あんなことしない」


「大当たり」

 ム!やっぱり、この人、からかってるんだ。

「友達になろうなんて、最初から思ってないよ」

「…じゃあ、もう話しかけないで。友達でもなんでもないんだから」

「まだわかんない?」


「何が?」

 私はずっと後ろを向いたまま、むっとしながら答えていた。

「俺が、結城さんのこと好きだってこと」

「え?」

「いい加減気が付いてたよね?」


 またからかってんの?!

「その手には乗らないから」

「何?それ」

「またからかってるんでしょ?」

「からかってる?からかったことなんてないよ。一回も」


「嘘だ」

「いい加減にこっち向かない?」

「…」

 私は無視して、後ろを向いたままでいた。

「好きじゃなかったら、友達になろうだなんて言わないし、あんなこともしないよ」


「す、好きだったら、あんなことしないんじゃないの?傷つけるってわかってて、なんであんなこと」

「傷ついた?」

「…」

 む、ムカつく。傷つかないわけないじゃん!

「ごめん」


「心から悪いって、思ってないくせに」

「思ってるよ。それに後悔もしてる」

「嘘だ」

「本当だけど。こっち向いて顔見てくれたらわかるんだけどな」

 それでも私は背を向けたままにしていた。


「…ものすごく後悔した。部活もきっと出てこなくなるだろうなって思ったけど、ほんと、出てこなくなったし」

「……」

「ごめん」

 今度のごめんは、思い切り沈んだ声だ。


「参ってるよ。もう嫌われただろうってこともわかってる。そんな嫌われるようなことをした自分に、腹が立つ」

「…」

「どうしたら、許してくれるかな」

「……」


「もう無理か」

「友達とも、もう思えないかもしれない」

「…俺のこと?」

「そう。悪いけど、ご両親のことで苦しんでいたとしても、友達が誰もいないんだとしても、私も、もう柏木君とはかかわりたくない」


「そんなに嫌われた?」

「…」

「男と付き合ったことないんだっけ?」

「ないよ」

「キスは?」


「ないよ」

「……そうか」

 あ、柏木君の声が、ものすごく沈んだ。

「ごめん。本当にあの時は、俺、どうかしてた」

「…頭痛いから、私もう休みたい」


「…部活は出てきなよ」

「…」

「今日、俺、部には出ないから、一週間くらい、また海でも見に行くからさ、結城さん出てきて大丈夫だから」

「…」

 私は黙って、布団を頭からかぶった。


「それと、ここからも今すぐ出て行くからさ」

 柏木君はそう言うと、カーテンを閉めて保健室を出て行った。

「…」

 あんなの、信じられない。好きな人にあんなことする?

 絶対に私を好きだなんて嘘だ。嘘に決まってる。

 私は柏木君のことが気になって、眠れなくなった。


 チャイムが鳴り、しばらくすると誰かがドアをガラリと開けた。

「あれ?先生いない」

 あ、美枝ぽんの声?

「穂乃ぴょん?」

 カーテンがあき、美枝ぽんと麻衣が顔を出した。


「どう?具合」

 そう言って2人がベッドの横に来た。ホ…。なんだか、すごく安心した。

「まだちょっと、くらくらしてる感じがあって。もう1時間くらい休むね」

「わかった。先生に言っとくよ。貧血かな?」

 麻衣が聞いた。

「そうみたい」


「さっきの休み時間、来れなくてごめんね」

「え?ああ。私寝ちゃってたみたいで、さっき起きたの」

「やっぱり?2時限目の数学、プリントが終わらなくて、私も麻衣ちゃんも沼っちも休み時間までかかっちゃって。さっさと終わらせた藤堂君だけ、保健室に行かせたんだよね」


「え?!」

 と、藤堂君、来たの?

「で、戻ってきて、穂乃香、気分良くなってた?って聞いたら、寝てたからわかんないって」

「う、藤堂君、来たんだ。あ~~、なんだ~~。起きてたらよかった。あ!まさか、寝てるところを見られたかな?」


「先生に聞いたら、寝てると思うって言われたって。そう藤堂君言ってたから、そのまま顔も見ず、帰ってきたんじゃないかな」

「でも、ギリギリまで戻ってこなかったよね?藤堂君」

「どっか、寄ってたんじゃないの?」

「そっか。寝顔は見られずに済んだんだよね。は~~~~」

 藤堂君が来てくれるなんて、思ってもみなかった。


「あ、もしかしてプリントができてないっていうのは、みんなの作戦?」

「そう言いたいところだけど、本当にできてなかったの」

「難しかった?どうしよう、私」

「あとで、藤堂君に聞いたら?藤堂君さらっとやってのけてたから」

「う、うん。でも、教えてくれるかな」


「教えてくれるでしょ。藤堂君、優しそうだし」

「……」

 そうだよね。友達としてならいくらでも、なんでもしてくれそうだ。友達としてならね…。

「じゃ、そろそろ行くね。次の休み時間には、沼っちでも迎えに来させるから」

「え?」


 美枝ぽんがそれを聞き、顔を引きつらせた。

「あ、駄目か。じゃ、司っちだ」

「そうだよ。もう、麻衣ちゃんってば。沼っちが迎えに来るより、藤堂君が来たほうが穂乃ぴょんだって、嬉しいんだから」

「だよね。ごめん、ごめん」


 そう言いながら2人は保健室を出て行った。

「藤堂君が来たほうが、緊張するってば」

 私は独り言を言っていた。

 しばらくすると先生が戻ってきた。


「あれれ~?柏木君は?」

と、言いながら先生がカーテンを開けた。

「多分、教室…」

「それはないな。どっかでさては、さぼってるな」

「え?」


「ちょっとね、最近まともに、授業にも出てないのよね。学校に来るだけでもましだけど、あの子、高校卒業できるかな」

「なんでですか?」

「あ、ちょっとね。まあいろいろと、あるわけなのよ。それより結城さんはどう?そろそろ授業に戻れそう?」


「はい。午後からなら」

「お昼は食べられそう?」

「はい、なんとか」

「そう。じゃ、もう少し休んでお昼休みになったら、戻りなさいね」

「はい」


 先生がカーテンを引こうとしたので、私は先生に、

「あの…。2時限目終わってから、誰か来ましたか?私寝ちゃっててわかんないんですけど」

と思い切って聞いてみた。

「ああ、来たわよ。弓道部の藤堂君。彼氏?」


「く、クラスメイトです!」

「そうなの?保健委員でもないし、なんで結城さんのこと心配そうに見に来たのかって、私、勝手に彼氏なのかと思っちゃった。じゃ、悪かったかな。結城さんに」

「え?な、何がですか?」


「寝てると思うから、起こさないよう中に入って様子見てって、藤堂君のことカーテンの中に押し込んじゃったの。だって、カーテン閉まってる前で、なんだかおろおろしてたから、藤堂君」

「…え?」

「中の様子を見たそうにしてるし、彼氏なんだから、ま、いっかって」

 え~~~~!!!!!

「か、か、彼氏じゃないです」


「ごめん、ごめん。でも、かなり心配してたけどなあ」

「と、友達です。他のみんなが数学のプリントに追われてて、代表で見に来たみたいで。だから、別に、その…」

「そうなの?じゃ、あとで謝っておいて。勝手に彼氏と勘違いしたこと」


 私から?冗談…。そんなこと言えないよ。

「あ、またあとで来るかもしれないから、先生から言ってください」

「そう?え?じゃ、迎えにも来てくれるってこと?やっぱり、彼氏なんじゃ」

「違います」


「くすくす。そんなに否定しなくたって。返って怪しいわ。そうか。結城さんのほうは藤堂君のことが…」

「い、いいですから、もう~~。私、休みますから!」

「はいはい」

 先生はくすくす笑いながら、カーテンを閉めた。


 それにしても!!寝顔きっと見られたんだ。恥ずかしい!よだれ垂らしてたとか、大口開けて寝てたとか、いびきをかいて寝てたとか、ないよね?!!!

 それに、迎えに来るの、本当に藤堂君なのかな。ああ!寝顔を見られたとしたら、顔を合わすのも恥ずかしいのに!


 チャイムが鳴った。ドキン!と、とりあえず、髪くらい整えておこう。私はベッドの横の壁にある鏡を見て、髪を手でなでつけた。

 それから目やにが付いてないかとか、確認をした。


 ガラ…。ドアが開いて、

「失礼します」

と藤堂君の声がした。うひゃ~~~、やっぱり藤堂君!

「結城さん、お迎え来たわよ~~」

 先生が私を呼んだ。


「はい」

 カーテンを開けて、私は出て行った。う。なんだか藤堂君の顔が見れないよ。

「具合もう、大丈夫なの?」

 藤堂君が聞いてきた。

「う、うん。もう大丈夫だから、一人でも戻れた…」


「ああ、でも、八代さんと中西さんに、また具合悪くなったら大変だし、迎えに行ってって、すんごいすごまれて…」

 そうだったんだ。自分の意思で来てくれたわけじゃないのね。

 そうだ。さっき、来てくれたのだって、みんなが来れないから来てくれただけで…。麻衣や美枝ぽんが来れたら、藤堂君が来ることはなかったんだよね。


「じゃ、結城さん。もし具合が悪くなったらまた、藤堂君に連れて来てもらいなさいよ」

「え?」

「ね?藤堂君。頼んだわよ!」

「え?あ、はい」


 先生!だから、彼氏でもなんでもないのに。

「あ、そうそう。結城さんに怒られちゃったの。カーテンの中に、結城さんが寝てるのに、藤堂君いれちゃったでしょ?彼氏だとてっきり、思い込んじゃったのよねえ。でも、違ってたのね。藤堂君にも悪いことしたわね」


「え?い、いいえ」

 藤堂君は、顔を思い切り引きつらせ、そう言った。そして、失礼しますと言って、一緒に保健室を出た。

「…さっき、まさかと思うけど、起きてた?」

「え?」


「俺が、見に行った時。ぐっすり寝てると思ったんだけど」

 ドキン!やっぱり、寝顔見られたよね。わあああ。恥ずかしい。

「ね、寝てたよ」

「あれ?じゃ、なんで俺が見に行ったこと知ってるの?あ、先生が言ってた?」


「美枝ぽんと麻衣が、さっき言ってたから」

「そうか。勝手に見に入ってごめんね。先生に押し込まれても、断って出たら良かったね、俺」

「……」

 何も言えない。なんて言っていいかわかんないよ。私、変な顔で寝てなかった?なんて、聞くこともできない。


「具合よくなって、良かったね」

「うん」

「先生が貧血だろうって。もう大丈夫?」

「うん…。あ、わざわざ来てくれて、本当にありがとう」


 横を並んで歩いてるのも恥ずかしい。今もまだ顔が見れない。でも、横にいるだけで、すごく嬉しい。さっきからドキドキしてて、胸の高鳴りがおさまらない。

 でも、不思議なんだ。それでも、安心していられるんだ。なんなんだろうな。この空気…。


「食堂にみんないるって。結城さんのお弁当は八代さんが持って行ってくれてるよ」

「そうなの?」

「だから、食堂にこのまま行っちゃおうか。あ、ご飯は?食べられそう?」

「うん」

「じゃ、行こう」

「うん」


 藤堂君の声も、話し方も優しい。ちらっと藤堂君を見た。すると藤堂君もこっちを見た。うわ。それも優しい目で。

 か~~~。顔がいきなり熱くなる。優しい藤堂君に、私は戸惑ってる。

 一喜一憂だ。優しくされただけで、こんなにも喜んでる。この廊下が永遠に続いてくれないかななんて、思っている。


 しばらく2人で黙って歩いた。ゆっくりとした歩調で歩いてくれる藤堂君。きっと気遣ってくれてる…。

 藤堂君が好きな人が、羨ましい。でも、今はこうやって優しくしてもらえて、それだけでも私は幸せだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ